いつきと“いつき”
風はながれる。
風はながれる。
空っぽな風はながれる。
走るこどもがいる。
風は少女をおいかけた。
何となく気になったのだ。
近くへと行くと、少女は何度も息を吐く。
少女は前を向くと、体が止まる。
風はそこにいて、じっと少女を見つめる。
少女はいう。
「だれ?」
風は?となる。
風は興味を持つとそこに留まることできた。
風は回りを見る。
誰もいない。
少女は誰へと話しかけてるのか?
もう一度少女はいう。
「あなた、だれ?」
風は…もしかしてと思う。
_…私?
声は届かないと思ったがつぶやく。
「はじめまして、あなたはだれ?」
_私?のことかな?
「うん!あなた」
少女は笑顔。
風は静かに答える。
_私は空っぽな風…
「からっぽなかぜさん?そっか!私はね、いつき!」
風は少女と出会い、少しの時間、“赤井いつき”と過ごした。
“いつき”がいう。
「あのねあのね!空って空って読むときもあるんだって!だからね、」
風は静かに聞く。
「あなたを空ってよんでもいい?」
空
空は空と読むなんて思わなかった。
色々見てはいたけど、知ってると思い込んでるだけで何も知らなかった。
_そら………うん、うれしい…………
“いつき”は笑う。
「空さん!」
_あの、そら……で、いいよ……
「うん!じゃあ、空!」
空っぽな風の存在は気持ち?はあるみたいだが心というものが。
自分にあるのかよくわからない。
流れるだけで、自分の意思とかがない。
流れていくだけで自分がない。
それが空っぽな私だと思ってたのに。
_____いつき_____
彼女が私を空とよんでくれた。
うれしいと思った気がした。
心のない私は本当にうれしいのかわからないけど。
だから、“いつき”が赤井という場所にうまれたのに力がない苦しみをわからなかった。
彼女の悔しさがわからなかった。
だから、近くにいたのに。
「力がないとか、弱いのは嫌なの…私、強くなりたいの…だから…私は」
“いつき”は自分を捨てた。
風である私にはわからない。
冷たいから。
形もないから。
自分を捨てたら家族を悲しませるのは嫌だから
私に自分を渡した。
どうしてそんなことができたのかは分からない。
けど、“いつき”は決めたらしい。
自分で。
「空お願いがあるの。私は私を……捨てる」
_どうして、“いつき”はみんなから大切に思われてる…なら、力がないなんて、気にしなくていい!
「だめなんだ……私は……力ないって私にはとても苦しい」
_分からない、わからないよ…“いつき”!
“いつき”は自分を捨てた。
大人っぽい目を持った少女。“いつき”
私は彼女へとなった。
“いつき”の過去が自分の中へと流れ込む。
そして、ようやく…気づいた。
涙がぽたりと落ちた。
「“いつき”は…こういう気持ち……?だったの?」
私にはわからない。
人の気持ちも。
痛みも
苦しみも
悲しみも
悔しさも
少し知ったからって分かるともいわない。
“いつき”の苦しみを見ても私は少ししか心が痛まない。
私は冷たい奴だから。
なのに流れるようにあるのは終わり。
“いつき”として、生きなければならない。
“いつき”の家族はすぐに私に気づいた。
…受け入れられるとは思わなかったが。
兄のかいとや母や姉のうづきは
_もう一人の娘とか、妹_
だなんていう。
私はそう言ってくれるのが分からない。
だけど、“いつき”の記憶が流れた私は…そういう人たちなんだなと納得してしまう。
でも、“いつき”を見つければ全員は必ず許すことはしないという。
当然だ。
自分を捨てるのは許せないことだ。
“いつき”となった私はこれからどうしていくのか?
どう生きるのか?
何もわからない。
色々見てきてもこれから人としてあることは相当の苦しみだとはわかった。
いつきは目が覚めた。
色葉は隣に寝ていて、布団をかけ直す。
いつきは立ち上がり、窓の方へと行くと、まだ暗い空だ。
「“いつき”、どこにいる?私に自分を押しつけて…私は……力ないことは少し悲しいけど強くなりたいはあるよ」
強くなりたいだけはあった。
そうじゃないと生きていけない。
「………“いつき”、いつか…そうだなー。殴っちゃうからね…まったく!自分を捨てるなよ。“いつき”!」
いつきとなった彼女は前を向く。
空っぽな風としてうまれ、流れるようにあり、それから空ともよばれた彼女
人間の“いつき”という存在になり。
“いつき”として…。
いや、“いつき”でなく、自分として生きる。
それしかないから。
「私は………いつき、かあ」
暗い空を見つめつぶやいた。