ある彼の話2
男子高校生は歩きながらぐちぐちという。
「なんなんだよ、くれんじゃねえのかよ」
前から黒猫が歩いてくる。
「…猫かよ」
男子高校生は黒猫の隣を通り過ぎる。
「猫に用なんてねえし」
黒猫はじーっと男子高校生を見つめる。
「なんだよ、見るなよ」
黒猫はぷいっとどこかへ歩いて行ってしまった。
「なんなんだよ…」
男子高校生は歩いて行く。
彼は、異世界へと行きたかった。
異世界で新しい生活がしたいと思った。
だから行きたかった。
なのに、あの青色のローブのものは彼にそこへと行けるなにかをくれなかった。
「行きたいと思ったっていいだろ」
彼は黒の学生服を着て歩いていた。
夕日が辺りを赤く染めて男子高校生は上を向く。赤い夕日がまぶしくて目をつぶる。
「いいだろ、行きたいと思ったって」
男子高校生は思う。
異世界へと行きたいと。
そこで新しく行きたいと。
ここじゃなくて、別の場所で。
そう思うのは悪いのだろうか。
だって
男子高校生は夕日の中歩いて行くと住宅街につき、並ぶ一軒家の一つに入っていく。
玄関で靴を脱いで階段を上り自分の部屋に入る。男子の部屋という感じだ。
本棚やら、机がある。他にはマンガがベッドに放り出されていた。
机の上のパソコンを開くとかちかちと押して、ある画面を出す。
そこには多くの字が並べられている。
男子高校生は小説を趣味で書いていた。
内容は異世界であり、バトルやら書かれている。
かたかたとキーボードを押して彼が書いたのは
“「ここには自分を認めてくれる人がいる」”
男子高校生はそう書いた。
物語の中のキャラクターは自分をほめてくれる。見てくれる。
「異世界なら…」
彼は急に立ち上がるとダッと走る。
家を出て、さっきの路地裏へと行く。
青色のローブがいた。
「なあ!頼むから俺は異世界に行きたいんだ!」
青色のローブはにこっとする。
「どうして?」
男子高校生は答える。
「ここじゃ、俺はうまく生きられないんだ!だから、だから、俺は異世界に…!」
「異世界に行ったらうまく生きられるのかあ?」
「分かんないけど、あっちの方が…!」
「うーん、だめさあ」
「なんでだよ!?」
男子高校生はがっと青色のローブの胸ぐらをつかむ。
「何がだめかって?」
青色のローブはにまーっとする。
「あなたさあ、自分で異世界に行く方法探したあ?」
「……………は?…」
男子高校生は間の抜けた声を出す。
青色のローブは繰り返す。
「だからさあ、あなた、自分で行ける方法探したあ?」
「は?だからあんたのとこに…」
「どこで私のことを聞いたあ?」
「うわさで…」
「自分でその前から探したあ?」
男子高校生は口を閉じる。
探してない。
探してなんかない。
聞いたからだ。
たまたま聞いたから。
男子高校生は青色のローブを離す。
「おっと、」
青色のローブは自由になりヒラヒラと手を振る。
「本当に行きたいなら自分で探すもんだあ、じゃあ、今度こそさよならあ」
青色のローブはまた行ってしまった。
男子高校生はうつむき顔が熱くなる。
行きたいといいながら
自分でどうにかする方法も探そうとしないで
「俺、は…何をしてたんだ」
男子高校生は両膝を地面につけた。
うつむき、動けなかった。