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ヴァイオレンスガール  作者: 飯島彰久
6/8

6 待ち受けるのは天国? 地獄?

 結局、はた迷惑なのはわかっていたけど、電車に乗って帰った。

 被害を受けたのが腹の方ではなく、背中の方だったのでなんとなく知らんぷりを貫けたのも良かったのかも知れない。

 とは言え、自分でもわかる異臭はきっと周りに大層迷惑をかけたに違いないだろう。

 

 で、無事に自宅に着いて速攻でシャワーを浴び、服を洗濯機に放り込んで身ぎれいになった。

 どうしてあんなヤツにこうも振り回されないといけないんだ、と思いつつ、アイツはあの後大丈夫だったんだろうか、とか心配している自分もいた。


 翌日。

 酒が入っていたこともあって、早々に寝てしまった俺は早めの時間に目が覚めた。

 そして思い出す昨日の悪夢……。

「あー……もー……」

 思わず唸らずにいられない。

 今日は2限からだから、とりあえず午前中に大学へ行っておかないといけない。

 まぁ、まだ時間はあるし、と思ってゆっくり朝食を用意して食べ、昨日洗濯しておいた悪夢の汚れ物を干し、一息入れてから出かけた。


 キャンパスはいつも通りだった。

 そりゃそうだ。同じ学校なのがわかったとは言え、キャンパスは全然別のところにあるんだから、本来ならこのキャンパスで出会うはずもない。

 今日は2限から4限まで講義が入っているので、まず2限の教室へ向かう。

「鈴谷、おはよう」

「おう、おはよう」

 熊野が声をかけてくれた。

 異性でもこういうざっかけない付き合いができるヤツは貴重だ。

「その後、超絶美女はどうなったのよ?」

「その話はしないでくれ。思い出したくもない……」

「何よ、そんなにひどい目に遭ったわけ?」

「ひどいなんてもんじゃない」

「そりゃ、災難だったわね。まぁ、鈴谷は超絶美女とマッチするタイプじゃないし、いいんじゃないの?」

「そりゃどういう意味だ?」

「言ったまんまよ。あっはははは」

 すっかりネタにされている。こっちは笑い事じゃないんだけどなぁ。

 とか何とかやっているうちに2限終了。

 せっかくなので熊野を誘ってランチへ。

 ランチでも散々いじられたが、もう仕方ないと思って諦めて相手してやった。

 3限目は熊野と違う講義だったので、学食で別れて3限目の教室へ。

 つつがなく、3限と4限を終わらせて、ちょっと部室に顔出し。

 取り立てて話をするようなこともなかったので、何となく世間話をして10分程度で抜けてきた。

 ちょっと時間が早めだけど、今日はバイトの日だしさっさと行った方がいいだろうと思って、校門へ向かう。

 ……さすがに今日はないよな。昨日の今日でアレだったわけだし、ヤツだって遠慮って言葉は知ってるだろう。

 とか思いながら歩いていると

「す、鈴谷!」

 あまり聞きたくない、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 恐る恐る振り向くと……ヤツだった。

 こういう場合、どうリアクションするのがいいのか頭を駆け巡ったが、いい考えが思いつかなかったので

「おう、大野か。またこっちに来てたのか?」

「そ、そうよ。悪い?」

「別に悪かないけど、お前も懲りないなぁ」

「よ、用事があって来たのよ。わざわざこんな遠くまで」

「ふーん、そうか。んじゃま、用事済ませたらとっとと帰れよ? いいとこのお嬢さんがあっちふらふらこっちふらふらするもんじゃねぇぞ」

「違うのっ!」

 大声で怒鳴られた。何か悪いことしたか? また地雷踏んだのか?

「怒鳴るなよ。なんだってんだよ」

「違うんだってば……」

 急に声のテンションが下がる。

 こんなのを見るのは初めてなんだけど……。

「鈴谷に謝りたかったの……昨日……途中からよく覚えてないんだけど、家までおぶっていってくれたみたいで……その……ごめんね。ありがとう」

 どうしたんだ?

 バッグで人の頭を殴りつけるようなヤツが急にしおらしくなってるぞ。

「人の頭を無言で殴るようなヤツが急にどうしたんだ?」

「その……アレはアレで……昨日はやり過ぎちゃったのが自分でもわかって反省してるんだから……」

「反省ねぇ」

「とにかく、昨日は本当にごめんなさい!」

 直角で頭を下げた。

 こんな光景を想像もしなかったんで、こっちもちょっと面食らっている。

「わ、わかったよ。まぁ、人間たまにはああいうこともあるだろうよ。相手が俺だったから良かったけど、はっちゃけるのは人を選んでやれよ。ほんじゃな」

「その……ちょっと待ってよ!」

「まだ何かあるのか? もう十分謝ってもらったからこっちは言うことないぞ?」

「その……こんなあたしで良かったら、また相手してもらえるかな……?」

 はい?

 中身を考えなければ、いくらでも男が寄ってきそうな超絶美女が何を言っている?

「えーっと、それはどう受け止めればいいんだ?」

「言ったまんまなんだけど……またあたしとお茶したり買い物に付き合ってもらえないかな、って」

 しばし考える。

 あんなに凶暴で自己中な女が、こんなにしおらしくなってるのはおかしくないか?

 ここでYESと答えるのは至って簡単だが、そもそもYESと答えるべきか考える必要はないか?

 そんなことが頭の中を駆け巡る。

「なぁ、大野。ひとつ聞いてもいいか?」

「何?」

「そもそも何で俺なんだ?」

「それは……」

 言葉に詰まっているようだ。ノリと勢いで何となく俺をターゲットにしたんじゃなかったのか?

「それは……今は言えない。でも、アンタじゃないとダメなの」

「今は言えない、か。ツッコミようがないだろうよ、それじゃ」

「ツッコむところじゃないわよ……やっぱりダメ……かな……?」

 こういうのに弱いのが俺の欠点だ。

 こんな風に押されてしまったら、断りようがないだろうに。

「わかったよ。相手してやるよ。安心しろ」

「ホントっ! ありがとう!」

「いや、礼を言われるようなことじゃないと思うんだが……」

「あたしにとっては一大事なの! これからもよろしくね!」

「わかったわかった。じゃ、今日はバイトあるから相手できねぇぞ。それはいいよな?」

「わかった。また明日ここに来るから」

「明日はバイトないから相手してやる。ただし、バッグで頭を殴るのはやめろ」

「わかったよぉ。じゃ、また明日!」

 と言うが早く、駆け足でキャンパスを出て行った。

 つい雰囲気でYESと言ってしまったが、これが後悔の元にならないだろうか。

 そんな一抹の不安を覚えつつバイトに向かった。

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