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ヴァイオレンスガール  作者: 飯島彰久
1/8

1 暴力の嵐

 それは本当に突然のことだった。

 講義が終わって帰ろうと思って歩いていたその時に起こった。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「いってぇなぁ!」

 振り向くと超絶美女がいた。

 が、少なくとも自分の周りでは見たことのない顔だ。とは言え、これだけ美人ならキャンパスを歩いているだけで目に付きそうなものだが。

 なにしろ、この超絶美女がどうやら荷物でパンパンになったバッグで俺の頭に向けて思いっきり振り抜いたに違いない。

「どこの誰だか知らないけど、アンタ俺の頭殴ったでしょ。何のつもりだよ」

「何のつもりじゃないわよ。この荷物、いつまであたしに持たせるつもりなの? とっとと持ちなさいよ」

「はぁ?」

「はぁ? じゃないわよ。言ったでしょ、アンタがあたしの荷物を持つの」

「なんで俺が見ず知らずのねぇちゃんの荷物を持たなきゃいけないんだよ」

「ああ、理由? そんなもんないわよ。アンタがあたしの前を歩いていたから、ぶん殴って持ってもらおうと思っただけ」

「あのなぁ、人に物を頼むのに頭をぶん殴るとはどういう了見だ。だいたい見ず知らずの男の頭をぶん殴るなんて非常識だろうが」

「アンタは知らなくても、あたしは知ってるの。1年A組の鈴谷でしょ? 違うの?」

 確かにその通り。俺は1年A組の鈴谷孝太郎という。

 でも、こんな超絶美女とは何の関わりもないし、そもそもなんでコイツが俺の名前を知ってるのかすらわからない。

「確かに鈴谷だよ。でも、俺はアンタのことなんか知らないぞ」

「別にアンタが知らなくたっていいの。いいから、この荷物を持ってあたしに付いてきなさい」

「だからどうして、アンタの荷物を……」

「持つの! 持たないの! どっち?」

 怒鳴られてしまった。キャンパスを通る学生たちが好奇の目で俺たちを見て通る。

 そりゃそうだ。

 片や目立ってしょうがない超絶美女、片やどこにでもいそうな男子学生。

 このとりあわせだけでも妙ってもんだ。

 あまりにもこの場にいたたまれなくなって

「……わかったよ。持ちゃいいんだろ、持てば」

「最初からそうすればいいのよ」

 荷物を渡される。負担になるほど重くはないが、ズシッと来る。

「何入ってるんだよ、コレ。やけに重いじゃねぇか」

「いいでしょ、何を入れてたって。アンタには関係ないし、アンタのやることはその荷物を持ってあたしについてくることだけなんだから」

「関係あるだろ、こんなもん持たせやがって」

「アンタがあたしの荷物を持つのは必然なの。さぁ、御託を並べてないで歩いた歩いた」

 謎の超絶美女に荷物を持たされて、美女はスタスタと歩いていく。

 仕方ないので、2歩くらい後から俺もついていくことになった。


 5分くらい歩いたか。

 大学の最寄りの駅に着く。

「とりあえず、電車に乗るわよ」

「電車に乗るわよ、ってまだ荷物持たせる気かよ」

「まだ持ってから4、5分ってところじゃない。そんなもん持ったうちに入らないわよ」

「わかったよ。まぁ、今日は何もないから付き合ってやるよ」

「何? その言い方。『付き合ってやる』じゃなくて、『付き合わせてやってる』のよ。勘違いしないで」

「なんだそれ? 俺は付き合って欲しいなんて一言もいってないぞ」

「こんな美人と一緒にいられるチャンス、なかなかないでしょ? そのチャンスを提供してあげてるのよ? ありがたいと思いなさい」

 そりゃその通りだが、こんな形で付き合わされるんじゃたまったもんじゃない。

「はいはい、わかりましたよ。ありがたく付き合わせてもらいます」

 と言ってるうちに俺が帰るのと逆方向のホームへ。

「お前、逆方向なのか」

「あら、アンタはあっちなの? それは残念ね。あたしはこっちなの」

「わかったよ、こっちに乗ればいいんだろ?」

「わかったなら黙ってついてきなさいよ」

「……」

 なんでコイツに言い負かされてるんだ、俺。おかしいだろ、成り行きとは言え重い荷物を持たされて、帰る方向と逆に向かって付き合わなきゃいけないとか。

 そもそも超絶美女は認めるが、付き合ってやらなきゃいけない義理はない。

 なのに、コイツのペースに完全に乗せられている。

 なんなんだ、コイツ。

 とか思いながら、一緒に電車に乗る。が、種別は普通じゃなくて急行だぞ。

 イヤな予感がした。

「……」

「……あのさぁ」

「何よ」

「何かしゃべるとかしたらどうだよ」

「なんでそんなことしなくちゃならないの?」

「だって……何というかこっちは荷物を持たされて隣に立ってるだけで、間が持たないんだよ」

「いいじゃない、別に。しゃべらなきゃいけないこともないでしょ?」

「そりゃそうだけどよ」

「だったら黙って隣に立ってなさいよ」

「……」

 苦痛だ。

 しゃべらないで誰かといるのは気まずいからイヤなんだが、そんな俺の好悪なんてどうでもよくなっている。

 というか、コイツは自分のことだけしか考えてないらしい。

 急行なので、いくつか駅を通過して停車した最初の駅。

 ここで降りるかと思いきや、降りる気配なし。どこまで連れて行くつもりだ?

「……あのよぉ、一体どこまでついていけばいいんだ?」

「あと3駅先ね。そこで買い物をするつもりだから」

「買い物をするつもりだから、って俺もそれについていくのか」

「当たり前でしょ? あたしの荷物持ってるんだから」

「……」

 走ること30分。やっとお目当ての駅に着いたようだ。

 コイツと一緒に降りて改札を抜ける。

 この駅はターミナル駅なので、駅ビルが充実している。それもあってここで買い物とか抜かしていやがるんだな。

「こっちよ。ついてらっしゃい」

「わかったよ!」

 向かうのは駅ビル直結の百貨店。


 で、散々洋服を見て何着か買い、恥ずかしいことに下着売り場まで付き合わされて、そこで買った物も持たされ、2時間ほど歩き回った挙げ句

「じゃ、ここでいいから。荷物持ちありがとうね。また明日!」

 と形ばかりの礼を言ってスタスタ歩いて行ってしまった。

 『また明日』って言ったよな。

 明日もこんなことが起こるのか?

 呆然と美女の後ろ姿を見送るしかできなかった。

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