4.日直の仕事
キンコンカンコン、キンコンカンコン。
一時間目が終わるチャイムが鳴った。
「はい。今日はここまで。って言っても、全員の委員が決まったんだがな。このクラスは優秀だな。決めるのが早い。いいことだ。じゃあ、日直号令よろしく」
「先生。日直ってだれですか?」
「おお、そうだった。出席番号の早い順、二人ずつでやってもらうことになるから、今日は荒井と猪野だな。よろしく」
「はい。じゃあ、俺が終わりの号令かけるから荒井は始まりの号令かけてくれ。それでいいか?」
「ああ、いいぜ」
「起立。礼。着席」
ガラガラ。号令を聞いてから田中先生は出ていった。ざわざわ。教室が一気に騒がしくなる。友也後ろを向き、俺と涼の方を見て言った。
「篤志、やってくれたな。俺に面倒臭い仕事押しつけやがって!」
「だって、友也が適任だと思ったんだから仕方ないだろ。他にできそうなやつ知らないし……」
「ったく。そんなことだろうと思ったぜ。しょうがねぇなぁ、お前は」
ふう。っとため息をついた後、友也は続けた。
「っつうか、いつも思うが、篤志はどっ直球な発言をするよな」
「そうかぁ? そうでもないと思うが……。え、そう思ってるのって、もしかして俺だけ?」
友也と涼が呆れた顔をしてこっちを見ていた。俺は戸惑った。
俺って思ったことダダ漏れ? それって不味くない?
などと俺が内心焦っていると、
「まあ、それが篤志のいいところでもあるけど」
と涼がフォローしてくれた。しかし、いつの間にか机に本を出して読もうとしている。
「涼、お前いいやつだな」
「そうでもないよ。僕も思ったことは割と言う方だからね」
と涼は本を読みつつ相槌を打った。
「そう言えば、そうだな。俺って結構言われっぱなしかも……」
ガラガラ。担任が慌てて戻ってきた。
「おーい、日直の二人。言い忘れていたんだが、配布物があるから職員室まで取りに来てくれ。ちょっと量が多いから手伝えるやつ何人かも頼む」
「はーい。田中先生、配布物って何ですか?」
「教科書や資料集、あとはプリント類かな。進路指導関係もあるぞ」
「うわぁー。けっこうありますね。友也と涼、手伝ってくんない?」
「いいよ」
と涼は言い、本を置いた。
「しょうがねぇなぁ。まあ、学級委員だし、手伝ってやるよ」
「お、じゃあもう一人の学級委員にも手伝ってもらおうぜ。おーい、愛美も手伝ってくれないか?」
と俺が遠くの席の愛美に呼びかけた。愛美は出席番号が一番最後なので、廊下側の一番後ろの席だ。その前が千夏で左隣が裕子の席だ。教室の後ろの扉もすぐ近くにある。俺の席とほぼ対極だ。愛美は俺の方に頷くと、千夏と裕子を誘っていた。千夏と裕子も手伝ってくれるらしい。そして、みんなでワイワイ言いながら職員室へと向かった。
「これだけ人数がいれば運べないことはないだろう」
「いのっちは力持ちの方?」
「まあ、男だから裕子よりは力があると思ってるぜ」
「へぇー。じゃあ、私たちより重いもの運んでね」
裕子に笑顔でお願いされてしまった。俺はしまったという顔になる。
うわ、やられた。上手く乗せられてしまった。まあ、男だし運べないことはないだろう。しかし、裕子は口が上手いよな。
俺は内心そんなことを思いつつ、荒井に話を振る。
「まあ、必然的にそうなるわな。男子は頑張って重い荷物運ぶぞ。荒井頼んだ」
「え、俺かよ。まあ、女子にいいとこみせるチャンスだしやってやってもいいぜ」
「荒井、分かってんじゃん。その意気だよ。頑張れ」
「猪野、お前他人事のように言ってるな。お前も運ぶんだぜ」
「えー。俺はそんなに重いもの持ちたくないなぁ」
「何言ってるんだよ。俺ら日直に頼まれた仕事だぜ」
「まあ、そうなんだけどね」
「しっかりしてくれよな」
荒井と俺のやり取りの横で、涼と千夏が何やら話していた。
「千夏、風紀委員でよかったの?」
と、涼は聞いた。
「うーん、別にやりたい委員会もなかったし、風紀委員でもよかったかな」
「ふーん」
「ふーんって何よ。なんか言いたそうね」
「別に」
「何よ。言いなさいよ。気になるじゃない」
「いや、篤志と一緒だけどよかったのかなと思って」
「別にいいわよ。だって、アッツーの面倒見れるのって私ぐらいだから、しょうがないじゃない。だけど、これからはいつもより早く行かないといけなくなると思うから、ちょっと大変かも。アッツーなかなか起きないから……」
「そうだね。本当に篤志はなかなか目を覚まさないから」
「そうなのよねぇ。何とかならないのかしら」
「ま、起こすの大変だと思うけど頑張って」
「涼は他人事ね。まあいいけど」
ガヤガヤ言いながら職員室へと向かう。
ガラガラ。職員室のドアを開ける。
「失礼します。3年1組です。配布物を取りに来ました」
「おお、日直。こっちへ来て。これ全部な。よろしく。あと、教室に運んだら先に配っといてくれ」
「うわぁ~。先生多くないですか」
「まあ、こんなもんだろ。それにその人数なら運べるだろ」
「まあ、そうですけど。荒井、分担するぞ」
「OK。んじゃ、俺これ持つわ」
「頼んだ。涼はこっちの段ボール持って。で、友也はこっちお願い。後の軽そうなやつは、ちぃたち適当に運んでくれる?」
「あー、はいはい。了解。じゃあ、愛美はこれお願いね。裕子はこれお願い。私はこれ持つわ」
「よし、これで全部だな。んじゃあ、行くか」
「失礼します」
ガラガラ。ドアを閉めて、職員室を出る。
「けっこう重いなぁ。ちぃ大丈夫か」
「何よ、アッツー。これぐらい平気よ。それよりさっさと行くわよ」
「はいはい」
教室についてドサドサっと配布物の入った段ボール箱を下ろした。
「ふう、重かった。なあ、荒井。これって配るんだったか。先に配れって言われたっけ?」
「えっと、どうだったっけ?」
「おいおい、お前らそれくらい覚えとけよな。全く。教室に運んだら配れって言われただろ」
「そうだった。さっすが友也。頼りになるなぁ」
「お前のそういうところがストレートなんだよ。篤志」
「うん? そうかぁ? まあ、いいじゃん。じゃあ、荒井配るぞ」
「はいよ」
そしてクラス全員に配布物を配り終わったのであった。