3.クラス委員の選定
ガラガラ。教室に先生が入ってきた。
「はーい。みんな席に着けー。一時間目始めるぞー」
先生の掛け声でみんな席についた。席は出席番号順になっている。出席番号の早い順に左詰めとなっていた。俺は一番左側の前から2番目で、窓側の席だ。右隣の席は涼だ。前の席は荒井で右斜め前は片山。千夏の席は俺からは遠い。
「今日から3年1組の担任になる田中浩二だ。よろしく。早速だが、出席をとるぞ。荒井亮二」
「はい」
「猪野篤志」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
「――、山内愛美」
「はい」
「よし、全員出席しているな。では、一時間目は委員会などを決めてもらおうか。新学期が始まったばかりだからな。まずは、学級委員長と副委員長を決めるぞ。委員は男女一名ずつだからな。あと、クラス全員に何らかの委員をやってもらうことになるから、よく考えておくように。では、誰か立候補者はいないか?」
……。クラスが静まり返る。この静けさはあまり好きではない。だが、俺は委員長などする柄ではないから、立候補はする気にはならない。
「おーい。誰もいないのか?」
田中先生の声にクラスがざわつき始めた。
「荒井、お前やれよ」
誰かが、荒井の名前を挙げた。
「えー。俺は嫌だよ。面倒臭いし。そういうお前がやったらどうなんだよ」
「えー。俺は人の上に立つ器じゃないし。無理だな(笑)」
「なんだよそれ(笑)」
荒井と誰か押し付け合いをしている。俺は小声で涼に相談した。
「涼、お前学級委員長とかしないよな?」
「うん。僕はそう言うクラスをまとめるのとか苦手。篤志の方が向いていると思うよ」
「いやいや。俺もそんな柄じゃねえしな。ちぃとか立候補しないかな?」
「うーん。どうだろ? 千夏は向いてるかもしれないけど、自分から立候補する方ではないよね」
「そうだよなぁ。誰かやってくれないかなぁ」
そう言ってから、教室内をキョロキョロ見まわした。すると、片山友也と目があった。
お、友也とかいいんじゃねぇ? あいつ賢いし、人気あるし。確か前も学級委員長してなかったっけ? よし、言ってみるか。
「先生」
俺はそう言いつつ手を挙げた。
「はい。えーと……」
先生は出席簿を確認していた。どうやらまだ顔と名前が一致していないらしい。俺は自分から名乗ることにした。
「猪野です」
「おお、猪野どうした? 立候補してくれるのか?」
「いや。俺は向いてないんで、推薦したい人がいるんですけどいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「片山友也君がいいと思います」
俺がそう言いつつ友也を見ると、友也はちっと舌打ちをしていた。友也は少し嫌そうな顔をしながらこっちを睨んできた。友也のやつ、やっぱ面倒臭いって思っているよな。俺は申し訳なさそうな顔をしつつ少し頭を下げた。友也はため息をついていた。
「片山、やってくれるか?」
「……はい。いいですよ」
友也は渋々という感じで引き受けてくれた。俺はありがとうという気持ちを込めて笑顔を送った。しかし、友也は俺の方は見ていなかった。折角満面の笑みを浮かべたのに、何か損をした気分だ。
「よし。では学級委員長は片山でいいか? 反対の人は挙手するように。いないな。では、学級委員長は片山に決定だ。後は副委員長だが、誰か立候補はいないか? 推薦でもいいぞ」
クラスのざわめきが強くなった。ひそひそ声での会話が聞こえてくる。
「キャー。片山くんが委員長だって」
「どうする?」
「私、立候補しようかな?」
「えー。私も片山くんとだったらやってもいいかな」
「だよね」
ヒソヒソ。キャッキャ。……。
やっぱ、友也はモテモテだな。あいつを推してよかった。これで副委員長も速く決まるだろう。
俺は何気なく千夏たちの方に目を向けた。何やら相談している様子だ。
「愛美、友也が委員長だって。チャンスじゃん」
千夏はそう言って、愛美をつついた。
「えー。そうだけど……」
山内愛美の態度は煮え切らない。
「そうよ。愛美、距離を縮めるチャンスよ」
そう千夏を援護したのは竹中裕子だ。
「うん。分かってるけど……。自分から立候補したら、変じゃないかな?」
「大丈夫よ」
「そうそう。変じゃないよ」
千夏と裕子が愛美を励ます。
「でもでも、意識してるとか思われないかな?」
愛美は不安を拭い切れない様子だ。千夏はちょっと考えてから答えた。
「うーん。どうだろう? 私たちって友也とアッツーと涼といつもつるんでるから大丈夫じゃないかな?」
「だからこそ心配なのよ。友也君に私の気持ちバレないかな?」
愛美は不安そうな顔をする。
「むしろバレた方がいいんじゃないの? 友也って勉強はできるけど、鈍いし」
裕子はズバッと言ってのけた。
「えー。このタイミングでバレるのは嫌よ」
「じゃあ、愛美。私が愛美を推薦しようか?」
「いいの? 千夏ちゃんありがとー」
「いいわよ。じゃあ、先生に言うわね」
「うん。お願い」
「先生。山内愛美さんがいいと思います。山内さんを推薦します」
「はい。ありがと。他に立候補者はいないか?」
ヒソヒソ。
「山内さんが立候補したよ」
「私も片山くんとやってみたかったけど、山内さんがやるなら太刀打ちできないわ」
「そうよね。私も諦めるわ」
「山内さんに任せましょう」
「そうね」
コショコショ。小声での話がかすかに聞き取れた。どうやら、山内愛美に決まりそうだ。
「他には誰も居ないな。山内がやることに反対のやつはいるか? よし、居ないようだな。では、山内に決定だ。これから、片山と二人で頼むぞ。じゃあ、今からは委員長の二人に時間を譲るから残りの委員を決めてくれ。片山と山内は前に出て」
「はい。愛美よろしくな」
「うん。よろしく、友也君。私は板書するね」
「分かった。司会進行は俺がやるよ」
「うん。お願い」
「えー、片山です。学級委員長になりました。これからよろしく。じゃあ、委員を決めます。図書委員、美化委員、体育委員、文化委員、風紀委員、保健委員、放送委員、給食委員、新聞委員、飼育委員、福祉委員、園芸委員、連絡委員、これらを決めます。まずは立候補者からお願いします。空いている委員があったら、後で推薦も受け付けます。取り敢えずは立候補者からで。じゃあ、やりたい委員がある人は挙手してください」
「はーい。俺、風紀委員やりたいです」
「猪野篤志、風紀委員。はい、他にやりたい委員のある人はいますか?」
愛美は委員会名の下に立候補者名を板書していった。
「篤志には風紀委員とか無理じゃねー? いつも遅刻ギリギリだし(笑)」
「確かにー」
教室に笑いが起こった。
「えー。酷くない? 俺ってそんな扱い?」
「そうだよ(笑)いのっちは遅刻ギリギリ記録の最高記録保持者だよ(笑)」
「なんだよ、その記録。誰が計ってるんだよ?」
「あ、私(笑)」
竹中裕子が言った。
「なんだよ、裕子。そんな記録いつからつけてるんだよ?」
「うーん、中一からかな」
「え、マジかよ! そんな前からかよ」
またドッと笑いが起こった。
「いのっちより千夏の方が風紀委員向いてると思うなぁ。私は」
「え、私?」
「うん。千夏やりなよ。風紀委員。それに、いのっちを起こせるのって千夏しかいないでしょ?」
「確かにー」
クラスに納得というような雰囲気が流れた。そして、千夏に視線が注がれた。裕子の後押しとクラスの期待により、千夏は風紀委員に立候補した。
「じゃあ私、風紀委員やります」
おー。というどよめきと拍手が起こる。クラスメイトは納得しているようだ。
「じゃあ風紀委員はこの二人で決定ということでいいみたいだな」
友也がそう言うと、愛美は風紀委員の下に書かれた二人の名前に丸を付けた。
「風紀委員以外でやりたい委員がある人はいますか?」
「はい。私、新聞委員やってみたいです」
「竹中裕子、新聞委員。他―」
「はい。僕、図書委員やります」
「北原涼、図書委員。他に―」
……。こんな感じでドンドン委員会の役員が決まっていった。ほとんどの生徒が自分が希望した委員になれたようだ。俺たちは全員希望した委員になることができた。