2.新学期
お待たせしました。本編です。
新学期が始まった。俺も今年から中学三年生だ。いよいよ受験生だが、まあ競争の激しいエリート校は狙っていないから、そんなに必死に勉強する必要もない。なんたって少子化の時代だ。子供が少ないので、学校側が俺たち生徒を取り合っている状況だ。そんな中だから、進学先はいくらでもある。けど、俺には行きたい学校があるのだ。北半学園。そこが俺の行きたい高校だ。部活が盛んな高校だと聞いている。体を動かすのは好きな方なので、部活を思う存分やってみたい。陸上部を続けるっていう手もある。何部に入ろうか、今から楽しみだ。おっと、自己紹介を忘れていた。俺の名前は猪野篤志だ。
「ちょっと、アッツー。まだー?」
「今行く! ちょっと待って。あと5分!」
「早くぅ。置いて行くよー」
玄関の外から南千夏が叫んでいた。千夏は俺ん家の隣に住んでいる幼馴染みだ。ガキの頃から一緒で、いつもつるんで遊んでいた。もちろん幼稚園から中学校まで一緒だ。学校がある日は毎日一緒に登校している。こうしていつも迎えに来てくれるのだ。俺はと言うと、いつも寝坊して慌てて準備している。
「お待たせ」
「遅いよ、全く。いつも待たせてばっかなんだから」
そう言って、千夏はふくれっ面になった。
「ちぃ、悪いって。この通り」
俺はそう言って、自分の顔の前で手を合わせた。千夏が機嫌を直してくれるといいのだが…。そう願いつつちらりと千夏の顔を見た。まだふくれっ面をしている。
「まったく。私が起こさないと起きないんだから。いい加減、自分で起きてよね」
「悪い。寝坊しないように気を付けるわ」
「そうよ。アッツーがちゃんと起きれば問題ないのよ。ほら、行くよ」
千夏は歩き出した。
「おい、待ってくれよ。って、わぁ! 涼、そんなところにいたのかよ。静かすぎて全く気付かなかったぜ」
家の塀に寄りかかって本を読んでいたのは、北原涼だ。こいつも俺の幼馴染みだ。千夏の家とは反対側のお隣さんだ。涼はいつも本を読んでいる。本を読みながら歩ける奴だ。よく車に引かれないなと感心する。
「ああ。どうせ篤志は遅いだろうと思って、本を読んで待っていたんだ。学校、行くんだろ?」
「おう」
「二人とも、遅いよ。ほんとに置いて行っちゃうよ!」
ちょっと遠くから、千夏が叫んでいた。
「はいはい。行きますよ!」
そう俺は叫び返した。
「俺らももう中三だな」
「何よ、アッツー。それがどうかしたの?」
「いや、受験生だなと思ってさ。ついに高校生か」
「おいおい、篤志。気が早いよ。まだ中三が始まったばかりじゃないか」
「まあ、そうなんだけどな。けど、涼。高校楽しみじゃね? あー早く高校行きてー」
「まあね」
「ねえ、アッツーはどこ高校志望なの?」
「俺は北半学園だぜ! スポーツで有名な」
「ふーん。じゃあ、別の学校か。私は自由が丘学院に興味があるなぁ。制服可愛いし。涼はどこ志望なの?」
「僕は日の出高校かな。最先端技術が集まっているらしいし、情報が集まるってことはたくさん本もあるだろうしね」
「へぇー。じゃあ、三人とも別の高校志望なんだ。なんかちょっと寂しいなぁ」
千夏の表情が曇った。つられて歩調も遅くなる。
「まあ、あと一年は一緒だよ。心配するなって」
そう俺は励ました。
「別に心配とかしてないし」
「さっき、寂しいとか言ってたじゃん」
「別にアッツーと離れても寂しくないし」
「なんだよ。俺は寂しいけどな」
……。千夏の表情が読み取れない。よくわからない顔をしていた。
「……。私、用事思い出した。先に行くね!」
そう言い捨てて、千夏は一人でさっさと行ってしまった。
「なんなんだ? ちぃのやつ。涼、さっきのちぃ、ちょっとおかしくなかったか?」
「まあ、そうかもね」
「よくわからんが、俺らはゆっくり学校に行くか」
「篤志、あんまりゆっくり歩いていたら遅刻するよ。けっこうギリギリに家を出たからね」
「お、そうか。じゃあちょっと早足で行くか」
色々話しながら歩いている内に学校に到着した。
キンコンカンコン、キンコンカンコン。
始業5分前のチャイムが鳴っている。
「やべぇ。涼、今日もギリギリだったな」
「ああ、篤志のおかげでね」
「悪いな。けど、間に合ったからいいだろ」
「まあね。僕は気にしないけど」
ガラガラ。教室に入った。
「ふう。間に合った」
「おせーぞ。篤志と涼、今日もギリギリか。もうすぐ先生来るぞ」
「おー。じゃあセーフだな」
そう言いつつ、俺は空いている席を探し、机にカバンを置いた。キョロキョロと辺りを見まわし、千夏の姿を探した。千夏はすでに教室にいるはずだ。千夏は愛美と裕子と何やら楽しそうに話していた。
まあ、楽しそうに話しているからいいか。
俺はそう思い、声をかけるのを止めた。