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神の火が消えるとき  作者: アガシオン
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懐柔戦略1_成功例

「廃炉?ロボット作れんの?やるやるー。」


 うれしい誤算だった。山下がこんなに簡単に懐柔できるとは。







 早絵と熱い夜を過ごしたあと、俺は、やや遅刻気味に会社に来て高島さんに挨拶をした。「おはよう。」とだけいう高島さんは、会社に遅れた俺に全く怒っていなようだった。恐らく仕事が少なく、転職活動の面接で会社をこっそり抜け出す若手が多い中、俺が朝会社に来てくれただけで高島さんは嬉しいのだろう。高島さんの気持ちを考えると少し胸が痛んだ。



 俺と高島さんは今日中に四方と山下に「先進廃炉技術開発グループ」のメンバーになることに同意してもらうという仕事があった。今のメンバーは俺と高島さんだけ。少なくともこの二人にはグループに入ってもらわないと何もできない。



高島「四方は入るだろうけど、山下が問題だな。」

東堂「そうですね...四方は大学時代からマジメな奴なんで、大丈夫だと思いますけど。」

高島「なあ、本当に山下じゃないとダメなのか?他にいるだろ、ロボット作れる奴くらい。」

東堂「高島さん、廃炉のロボットはそんなに簡単じゃないですよ。」



 放射線レベルが強い環境では、発生したγ(ガンマ)線がロボットの半導体内の電気回路を破壊するため、人だけでなくロボットも原子炉内に入れないことが他社メーカーで問題になっていた。マスメディアはこの事実を【ヒトだけでなく、ロボットも殺す放射線!!】とセンセーショナルに報道した。まあ、俺もメディアの言う通りだと思うが、「ロボットは生き物じゃないのだから、死ぬわけじゃないだろう!」と当時部長は怒っていたっけ。



高島「ただ山下はなあ...能力があるなら、もしかしたらあいつも転職も考えてるんじゃないのか?優秀ならどこでも拾ってくれるだろ。」

東堂「山下はこの会社に来てから何の成果もあげてません。そんな奴は転職できませんよ。いくら東大卒でもそれが現実です。とにかく、あいつをうちのチームに引き込むんです。」

高島「前途多難だな...。めんどくさい方から片付けるか。まず山下の机に行こう。」



 俺と高島さんは山下のデスクに向かった。山下は不在だった。横の席の女性社員に聞くと、どうやらタバコとライターを持って休憩に行ったらしい。


高島「休憩!?まだ9時15分だぞ!出社して30分でタバコを吸いに行く奴がいるか!」

東堂「まあまあ、高島さん...喫煙所。行きましょう。」

高島「ったく...」



 カードキーを通し、オフィスから出てエレベーターで1Fに降り、5分ほど歩いて喫煙所に到着した。そこでは総務係の男と談笑しながらタバコを吸いながら、カップ自販機で買ったコーヒーを飲んでいる山下がいた。山下は、近づく俺と高島さんに気づいてないようで、二本目のタバコに火をつけようとしていた。総務係の男が高島さんに気づいたのだろうか、山下を置いてバツが悪そうに喫煙室から出て行った。



東堂「山下。探したよ。」

山下「あれぇ。東堂じゃん。あ...!高島さん。どうかしましたか。」

高島「よう、朝から吸う二本目のタバコはうまいか?もしかして二本目どころかもっと吸ってたりしてな。なあ?山下。」

山下「へへ、すいません...。でもこれは二本目ですよ。断じて間違いじゃないです。」

高島「どうだかな。まあそれはいいとして、山下。朝、俺が送ったメールは見てくれたか?」

山下「いやあ、見てないっすね。へへ。」

高島「だろうな。お前のデスクに行った時、未読メールの件数が1万件を超えてたから、なんとなく察してたよ。」

山下「すいません、今度からちゃんと朝チェックしますんで...。で、どうしたんですか?」



 高島さんは本気で山下に怒っているようではないようだ。山下は嫌われる奴からは徹底的に嫌われるが、意外とそのキャラがうまく作用して高島さんみたいに気に入られることもあるのだ。

 ここで、俺は本題に入ることにした。



東堂「うちの会社、廃炉事業に手を出すことになったんだ。そこで、廃炉のロボットを作る必要があるんだ。そこで...」

山下「廃炉?ロボット作れんの?やるやるー。」

東堂「お前に手伝って欲しいんだ。...え?」

山下「だからロボットでしょ?俺やるよ。」



 驚くほど簡単に承諾してくれた。これには高島さんも、



高島「お前、『先進廃炉技術開発グループ』で仕事をするメンバーになるんだぞ。みんなで一つの仕事をやるんだ。適当な気持ちじゃ困るんだが...。」

山下「なんか、仰々しい名前っすね。廃炉に関して大した技術もないのに、先進なんて。」

東堂「おい山下!失礼だろ!」

高島「いいんだ。東堂。とにかく山下。グループの一員としてお前には中核部分の一つのロボットを作ってもらうんだ。スケジュール通りの仕事が求められることが大半だ。お前はその覚悟があるのか?」



 先ほどから、少しうつむきがちだった山下がぐっと顔を上げ、目を見開いた。



山下「高島さん、やりますよ、俺。大丈夫ッス。」

高島「山下...。」

山下「俺が前のロボット部署でクビになりそうだった時、拾ってくれたの山下さんだったんっすね。この間、東堂から聞いて、初めて知ったんす。だから、高島さんに恩返しっていうか。」

高島「そうか、ありがとう。ありがとう...。」

山下「わわ、泣かんでくださいよ〜。頑張るッスから。」

高島「ありがとう...。」



 俺は涙ぐむ高島さんを連れて、オフィスへ戻るため、エレベーターに乗った。



東堂「なんか、簡単に行っちゃいましたね。」

高島「ああ。あいつがあんなことを考えていたとはな。上司、冥利みょうりに尽きるよ。」

東堂「ま、これでひと段落ですね。あとは四方をメンバーに入れるだけです。」

高島「あいつは優秀だし、真面目だし、言うこと聞くし、楽勝だろ。ただ...。」

東堂「?」

高島「あいつのことだから、朝送ったメールに返信してくると思ったんだが、まだ返事がないんだ。有給の連絡は受けてないんだがな。」

東堂「ま、他の仕事があるんじゃないんですか?結局今からあいつのところに行くんです。そこでお願いしたらきっと大丈夫ですよ。」



 エレベータのドアが開いた。さあ、四方の席に向かおう。



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