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神の火が消えるとき  作者: アガシオン
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廃炉_新プロジェクト・始動

「廃炉、ですか?」


 今日、会社に出勤し、最初に上司の高島さんに言われたことは「廃炉の仕事をしてほしい」であった。廃炉とは、その名の通り仕様が終わった原子力発電所を解体する作業のことである。ただショベルカーや重機で発電所を解体すれば良いと思うかもしれないが、それは外側のいわば「飾り」の部分だけである。原子力発電所の中心は「廃炉」の名が示すとおり、「原子炉」である。


 原子炉の中で中性子を飛ばし濃縮ウラン燃料にぶつけることで、さらにそこから莫大なエネルギーと、連鎖反応に必要な中性子が生み出される。これを繰り返せばウラン燃料がなくなるまで理論上は永遠に発電が可能である。これが原子力発電の真髄しんずいである。


 原子炉の解体は一筋縄ではいかない。原子炉の中は放射線レベルが高く、人間が入ることは基本不可能である。大きな事故もなく、通常通り運転を終えた原子炉の解体でさえ非常に困難であるのに、事故を起こした東北の原子力発電所の解体はいかに難しいことか、想像にかたくない。だから、ロボットや画期的な放射線防護システムなど、廃炉の技術開発は昔からその重要性が明言されており、社会的意義も大きい。




東堂「廃炉のノウハウなんて、私にはありません。」

高島「このグループには誰もノウハウなんてないさ。もちろん俺もない。一からやるんだよ。」

東堂「確かにうちの会社は廃炉には手を出してきませんでしたからね。他メーカーの後発で行う意味はあるのですか?」

高島「ない。ないが、これしか仕事がない。俺たちは今まで原子力のいわばオイシイ部分を吸ってきた。そのツケが、回ってきたんだ。」

東堂「そうですか...わかりました。やってみましょう。」

高島「気は進まないと思うが、よろしく頼む。清水にもこのあと伝えるつもりだ。二人でなんとかやってくれ。」


 俺たち(上司の高島さんも)が廃炉事業に乗り気でないのは何もノウハウがないからだけではない。単純に興味がわかないのだ。積み木遊びが好きな子供だって、片付けは大嫌いだろう。使う前はなんともなかった積み木だが、使い終わった後その積み木から放射線が出て人間に害を与えるとすれば、どうだろうか。誰も片付けたいと思うわけがない。


 廃炉事業・研究が進まないのもこれが大きな理由であると俺は考えている。社会的意義は大きく、今後必ずやらなければならない分野であり、数十年、数百年単位でのプロジェクトになり、予算も計上しやすいのだが、いまいちこの壮大な「撤退戦」感に、エンジニアや研究者は興味がわかないのだ。


東堂「高島さん、このメンバーに、四方よも君をいれてもよろしいでしょうか。」

高島「四方か?お前、あいつと仲よかったのか。」

東堂「ええ。大学の後輩で、情報系なんです。あいつ。廃炉ロボットのソフトウェア開発に、四方のプログラミング能力は絶対に必要です。」

高島「そうか。わかった。四方には俺から話しておく。他は誰かいるのか。」

東堂「そうですね...高島さんがリーダー。俺は炉心管理、清水は核廃棄物、四方はプログラミングと担当していくと、やはりロボット工学に詳しい人間が必要だと思います。」

高島「ロボットか...うちの子会社に山奥でロボットばかり作っている会社があったな。あそこの連中を一人連れてくるか?」

東堂「いえ。ちょうどいい人員がうちのグループにいますよ。山下です。」


 山下は、ゲーマーのオタクだ。ロボットゲームに学生時代熱中し、大学に入るまでに2浪、大学卒業までに3留した(3回留年したという意味)逸材である。つまり、山下は俺の同期だが年齢は5歳上で、見た目も相当老けている。もともとはロボット専門の会社に内定が決まっていたのだが、その会社がいわゆる工業用の、マジックハンドしか作っていないと知って学校推薦を蹴り(このとき相当大学の教授に怒られたらしい)、うちの会社に入ってきたトンデモナイ奴だ。


 うちの会社は2足歩行のロボットを作る、「そういうの」が好きな奴には天国のような職場があるのだがそこで山下は持ち前の「アンチ・コミュニケーション力」を発揮し、要するに浮いた存在となってしまい同僚や上司に嫌われここに飛ばされてきたというわけだ。原子力なんぞに興味のかけらもないコイツは、全く仕事もせずクビになりそうになったところを高島さんが、なんとかクビの皮一枚残してくれたというわけだ。


高島「山下ァ!?東堂、お前本気で言ってるのか。」

東堂「高島さん。聞いてください。あいつは天才なんです。」


 俺は高島さんに山下の本当のことを話した。山下は熱中すると周りが見えなくなるほど集中すること。好きなゲームの日本大会で優勝したこと。2浪した時も一切勉強せずにゲームをしていたが親に泣かれて1ヶ月の猛勉強で日本最高の東邦大の超人気学部ロボット工学部に合格したこと(これは入社式に来ていた山下の母親に聞いた)。2足歩行ロボットグループをクビになったのは能力ではなく人間関係で失敗したこと。


 それら全てを話すうちに、高島さんも最低限山下のことをわかってくれたようだ。


高島「ふ〜ん。成る程ね。矢張野に置け蓮華草【やはり、のにおけ、れんげそう:適材適所という意味】ってわけだ。」

東堂「そうです。あいつをやる気にするしかありません。」

高島「まあ、その辺はお前に任せるよ。少しは忙しくなりそうだな。」


 結局、明日、高島さんと清水と俺で、四方と山下にプロジェクト参加のお願いをしに行くことになった。くだらない雑務をするうちに定時になり、帰ることにした。


「そういや、早絵になんかケーキでも買ってやるかな...」

昨日は早絵には無理をさせてしまったし、お詫びの意味も込めて、イチゴショートとシュークリーム2つをケーキ屋で購入し、帰路に着いた。なんだか、付き合うか否かのギリギリの頃の、大学生時代を思い出して少し笑えてしまった。あの頃は、二人でケーキを食べるだけで、幸せだった。

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