第一章2 守るということ
「? ならば、おぬしはなにをもとめているのだ?」
「そりゃあ、鉱物姫を回収して、願いを叶えることだよ。今は未だその中の『一人』しか手に入れていない、ってだけ。つまり、残りは十四人。そのうち十人を馬掛コンツェルンが所持していることは裏の情報からはっきりとしていて、残りの五人を弱小が奪い合っているという状態だ。それぐらいは情報共有しているかな?」
「……こうぶつひめは、それぞれじょうほうをきょうゆうすることはない」
「そうか」
「こうぶつひめは、おなじばしょからうみだされたはずなのに、どうしてにんげんはぶんかつしたのだろうか? まったくもってりかいできないのだけれど」
「そんなこと、俺に言われても困る。……人間がどういう価値観で生きてきたのか、どういう考えで生きてきたのか、どういう思いで生きてきたのか」
「ご主人様も、考えない時もあるだろうのう」
「黙れアマテラス」
「……? あまてらすとはいったいなんのことなの?」
「説明致しましょう! アマテラスとは座敷童型AIで最新型のAIなのです! 炊飯器の予約から車の自動運転まで、携帯電話の会社と協力した結果、どんなものでも自動制御出来るようになった完璧で最高傑作なAIと相成った訳です! それをあなたが分かるかどうかはまた別として、このAIは完璧な作品であると、ジューク・ボックス社のCEOは言っていますからね! それぐらい百も承知という案件ではありますけれど!」
「……? はやくちでなにをいっているのかさっぱりわからないのだけれど、つまり、あたまがよくてゆうしゅうということ?」
「そうです、そうです、その通りです! いやあ、鉱物姫と言っていましたけれど、意外とわたしと合いますね。どうです? こんなご主人様を捨ててわたしと一緒に行動を共にするのは?」
「五月蠅い、辞めろ」
「……あなたと『あまてらす』ってとってもなかがよいのね。きいていて、とてもおもしろくおもえちゃう」
「そうか? どう考えても、普通の付き合いかそれ以下だと思うが。……鉱物姫というのは、人間に見た目は似ているけれど、価値観は人間そのものではないのだな」
「やーっぱり! 人間には分からないものがあるんですよねっ!」
「お前は黙ってろ」
皿を片付けて、洗い場へそれを持って行く。するとマーキュリーもそれを従うように、皿を重ねて持って行くのだった。
「別にして貰わなくて良かったのに」
「あら? これぐらいにんげんのじょうしきだとおもったのだけれど。もしふあんにおもうようなら、やめるけれど。だめだったかしら?」
「いいや。別に問題無いよ。有難いぐらいだ。……皆は鉱物姫を奴隷のように扱うかもしれないけれど、俺はそう思わないぞ。それだけは言っておく」
「そういってもらえて、とてもうれしいわ。こうぶつひめは、こうぶつひめだけれど。にんげんとしてどういうふうにたちふるまうかはわからないから、そういうことをおしえてもらうのはほんとうにありがたいはなしですよね」
「……結局は、願いを叶えるまでの辛抱だがな」
結局、鉱物姫を求める人間は、十五人の鉱物姫を揃えて、願いを叶えるまでの付き合いだ。
それ以上は何もしないし、鉱物姫を養う余裕も無ければ、養うつもりも無い。
つまり、人間はそれほどに余裕が無くなってしまっていて、鉱物姫はそんな余裕の無い人間に対する救済策ということだった。いや、あくまでもそれは人間が思っているだけで、神はどう思っているかはっきりとしていないわけだが。
「……わたしは、これからどうなっていくつもりなのかしら?」
「安心して貰って良い。これからはずっと、何不自由なくここに居て貰うことになる。ここは最新のセキュリティだし、食べ物は常に一週間分は補充してあるし、何をしなくても問題無いようになっている。だから、安心して貰って構わない。だから、お前は」
「まーきゅりー」
「……マーキュリー、君はここに居て貰って構わない。この家が、君を全力で守ってくれるだろう」
「そうなんですか。……なら、べつにかまわないですけれど。わたしとしては、ねがいをかなえるためのぱーつにすぎないのだから、わたしは、どうなろうと、いきていることだけでかまわないとおもっていたのですけれど」
「良いよ。そこまで自分を悪く思わなくても。……ま、そう思ってしまうのは仕方ないことか」
「ご主人様はこう見えても優しい人間ですから。精一杯甘えると良いですよ。それぐらいは別に問題無いと思いますから」
「おい、こら。余計な一言を言うな。もっと言えば、余計過ぎる一言と言えば良いかもしれないが。……別に、甘えて貰っても構わない。ただ、俺は最終的には十五人の鉱物姫を集めるために奔走することになるから、十五人集めきるまでは君に意識を集中させることは出来ないだろう。それぐらいは理解して貰いたいものだな」
「……ありがとう。そういってもらえるととてもうれしい。わたしは、ずっと、ひとりでいきてきたから……」
洗い物をしながら、マーキュリーが後ろから抱きついてくる。とはいえ身長が足りないから、マーキュリーは背中に顔を擦り合わせている形になる訳だが。
相手は鉱物姫、人間ではない。決して愛情を抱いてはいけない。そんなことを思いながら、彼は洗い物をし続けるのだった。