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第一章1 鉱物姫マーキュリー

 信楽市は昔から台風、地震、火事などの多くの災害に見舞われてきた。

 その結果、国は信楽市を『第一次減災都市プラン』に位置づけ、徹底的に減災を行えるよう取り組んできた。

 百メートル四方の避難場所、地下に眠る多数の避難物資、風力発電、水力発電によって市の七割のエネルギーが賄われているなど、エトセトラ、エトセトラ。正直、話していけば切りが無いレベルだ。

 信楽市は半島の海岸沿いに位置している。空港も設置されているが、土地不足の観点から人工島を建造してそこに設置されている状態だ。その空港――信楽国際エアターミナルには空港線という鉄道と空港接続道路という道路でのアクセスが可能となっている。

 そして、国際エアターミナルからほど近い白いビルが、少年、御影英二の住処となっている。


「う……うーん……」


 鉱物姫が目を覚ますと、そこは白い部屋だった。ベッドも、壁も、タンスも、床も、机も、椅子も、何もかもが白で統一されている空間。それに違和感を抱きつつも、彼女は探索を開始した。


「わたしはふねにのせられているはずだったのだけれど……、それともこれはきゃくせんのいっとうきゃくしつ? いいや、そんなことはありえないはず。だってわたしはこんてなにのせられたはずなのだから……」


 冷静に判断して、タンスの中身を確認する。タンスには何も入っていない。机にも何も入っていない。椅子に座ると、ふわふわとクッションの様子が心地よい。しかしながら、それ以上の結果は見出すことが出来ず、残りは部屋とどこかを繋ぐであろう扉に注目するしか無かった。


「とびらは……ひらくとはおもわないよね。おもうほうがまちがいというにんしきかもしれないけれど。いずれにせよ、らちがいなかんがえはしないほうがみのためかもしれないけれど」


 そんなことを呟いていると、扉が開かれた。

 いったい何がやってくるか身構えていると――。


「お、目を覚ましたようで何より。……どうだい様子は? 具合が悪いか悪くないか残念ながら僕は人間なのでさっぱり分からないので、君の口から伝えて欲しいのだけれど、お腹は空いた?」

「え、えーと……さっきなんかこんてながうるさかったようなきがしたのだけれど。もしかしてそれはきのせいではなかったということなのかしら」

「うん。気のせいではないね。僕が君を盗み取ったと言えば良いか。はっきり言ってしまえば、それまでのことだ。それ以上でもそれ以下でもない。単純で簡単でシンプルな出来事だ」

「ご主人様よ。それ以上言うまでも無いのではないかな。意味は無いというか、必要は無いというか」


 スマートフォンから、アマテラスの声が聞こえてくる。今は彼女はスマートフォンの中で彼の指示を待っている状態だった。

 彼は話を続ける。


「ま、お腹が空いているという概念が鉱物姫たる君に存在するのかどうかは分からないけれど、ご飯でも食べながら今後のことについて話をしようじゃあないか。どうだい、鉱物姫?」

「まーきゅりー」

「うん?」

「わたしのなまえ。こうぶつひめ、とかじゃあなくてまーきゅりーっていうの」

「そうか。マーキュリー、よろしく頼むよ。それじゃあ、食堂に案内しようか」


 そうして、彼はマーキュリーに手を差し伸べる。

 マーキュリーはそれを見て、手を伸ばしてつかみ取るのだった。



 ◇◇◇



 食堂、と言われてもそれはただのリビングだった。遮光カーテンが引かれているためか、明かりはそれほど眩しくない。


「……食事と言っても朝だから軽いものだがね。君の口に合えば良いのだが」


 テーブルの上には、皿が並べられていた。その皿の上には、それぞれ、トースト、ベーコンエッグ、フレンチドレッシングのかかったサラダ、ヨーグルト、牛乳が入っていた。


「わたしはこうぶつだから、しょくじはとらなくてももんだいない。だが、とってももんだいはない。そのばあい、しょうかきのうはぎじてきにはいちされているだけにすぎないから、はいせつがたいへんになることはまちがいない」

「……食事の前に排泄がどうのこうの言うのはなしな。なし。ま、食べられるならそれで良いけれど。無駄にならなくて良かった」


 椅子に腰掛けて、牛乳を飲む。それを見たマーキュリーもまた、彼の行為を真似するように牛乳を飲み始めた。

 会話はそこには存在しない。しかしてそれは退屈ではなかった。鉱物姫はじっと彼を眺めていて、彼の一挙動を確認して、それを真似しているようだった。自分で考える意思はないのか、と彼は思ったが、鉱物姫はその身体になっている時点で、そもそも『自我』は存在する訳であって、それは単なる間違いであるということは直ぐに確認出来るのだった。


「……君に頼みがある。といっても、それは分かりきった話だとは思うがね」


 食事をほぼ終えたタイミング、食後のヨーグルトを食べているちょうどそのタイミングで彼はマーキュリーに言った。

 マーキュリーはそれを聞いて、ゆっくりと頷く。

 どうやら鉱物姫には、神の啓示はとっくに届いているらしい。


「……わかっている。『ちから』がほしいのだろう? にんげん」

「まあ、そういうことなんだけれどさ。でも、俺はまだ一人しか集めきってないんだよな」


 彼は頭を掻きつつ、それに答えた。



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