彼女曰く偽装(下)
その日の下校時間、いつもと同じように、瑠璃と帰路に着いた。ただ普段と違うのは、私と彼女は偽りの恋人関係にあることだった。
どういう訳か、瑠璃の口数がいつもより少なかった。何気なく右隣を歩く彼女を見てみると、彼女はまっすぐに前方を見据えて、これは長年の付き合いだから分かるけれども、何事かを考えているようだった。
少し気になったけれども、あえて黙して、歩き続ける。
触らぬ神に祟りなし。
そうして二分ほどが経った頃、不意に瑠璃が歩みを止めた。数歩先を言ったところで立ち止まった彼女に気づき、私は肩越しに振り返って声をかけた。
「どしたの?」
「手を繋ごう」
「え?」
「世の中の恋人たちの九割以上は手を繋いでるんだから、私たちも」
彼女は大股で私に近づくと、左手を差し出してきた。私は呆然とし、ただその手を眺めていた。小さくて白くて綺麗で、雪女の手はきっとこんな風なんだろうな、という印象の手だった。
「ん」彼女は左手を振り、より一層、ほとんど押し付けるように近づけてくる。「んっ!」
荒くなっていく声音よりも、徐々に赤くなっていく彼女の顔に気圧されて、私はほとんど反射的に彼女の手を右手で握った。その瞬間、強く握り返され、指を絡めとられ、いわゆる『恋人つなぎ』の形になった。
夏の暑さとは全く別種の、心地の良い温もりが伝わってくる。雪女みたいな手なのに、カイロのように暖かい。
途端に、彼女の表情が明るくなった。ほんの数秒前に浮かべていた表情とそれとでは、地獄と天国ほどの差があった。
何がそんなに愉快なんだろう、そう疑問に思った私は問いかける。
「なんだか嬉しそうだね」
「そう?」
「嬉しそうだよ?」
「そんなことない、空音の勘違い、空音がアホなだけ」
「えぇ?」
予想の範疇から大幅に超えた返答に、私は当惑させられる。
私の勘違いと決めつけたいのなら、せめてその、クリスマスプレゼント貰いたての子供のような笑顔を消した方がいいように思う、このままでは『自らを客観視できない人間ランキング』のランクインを狙っているように思われてしまう。
人生の全てを楽しんでいる人ですらこうはならないだろうな、と思えるほどの笑顔を浮かべながら、私の質問をつっけんどんに一蹴するという、ある意味ポーカーフェイスよりも難しそうなことを瑠璃がやってのけるため、結局、彼女の笑顔の理由は不明のままに終わった。
しかし、と私は首を傾げる。
瑠璃はこんなにも感情を面に出すような子だっただろうか。
手を繋いだまま、帰路を歩く。
何が琴線に触れたのか、隣を歩く瑠璃は今にも鼻歌を奏でそうなくらい上機嫌で、そんな彼女の様子に私はますます疑問を募らせたけれども、面倒になって、放棄した。
考えることが苦手な私は、考えることを放棄するのがとても得意だ。
その日の夜、晩ご飯を食べてお風呂に入り、歯磨きを終えて、寝るまでの時間をどう過ごそうと考えていると、不意にスマートフォンが身を震わせた。
電話の着信の合図、画面を見てみると、そこには『瑠璃』とあった。
応答ボタンを親指で押し、耳に当てる。
「もっし~、瑠璃? どうしたの珍し」
『今週の土曜日にデートしよう』
「い・・・・・・」
前置きも無く単刀直入に用件を伝えるその前傾姿勢は、いかにも瑠璃らしかった。
学習机の上に置いてあるデジタル時計の画面を見てみると、今日が火曜日であることを示していた。
「別にそれはいいけど、言うの早くない?」
『何事も早いに越したことはないのよ、だらしない空音には分からない感覚だと思うけど、これまでの人生で夏休みの宿題をたったの一度も計画的に終わらせたことのない空音には理解できないだろうけど』
「一言どころか二言も多い・・・・・・あと、デートじゃなくて遊ぼう、だよね?」
『遊ぼうじゃなくてデート、だって私たち恋人同士なんだから、そっちの方が適切でしょう?』
彼女が理路整然と、あたかも数式の証明でもするみたいに話すから、私はついうっかり納得してしまいそうになったけれども、そもそも彼女が前提としている部分に間違いがあることに気づく。
「いやいや、瑠璃の目標を達成するだけなら、学校でだけ恋人のフリすればいいじゃん。わざわざプライベートでも恋人のフリしなくても」
『プライベートなんて横文字使っちゃって、賢くなったね空音』
「話の腰を折った上にバカにしないでよ、ストレスが溜まっちゃうよ」
『ストレスが溜まるとどうなるの?』
「え、どうなるんだろ・・・・・・」
そういえば、と私は首を傾げる。
ストレス、という単語はよく耳にするけれども、ストレスが溜まった先に待ち受けている事柄について、私はよく知らなかった。
思わぬところで露呈する知識不足。
大昔の偉い人は『無知の知』という、私のような人間を励ますような有難い言葉を残してくださったらしいけれども、残念ながら私には、自分に欠けている知識を追い求めようとする元気が無く、したがってストレスが蓄積された先の出来事について頭を働かせることも早々にやめてしまった。
全く申し訳ないばかりです。
『空音』
そんな事を考えていると、瑠璃が冷たい声音で私の名前を呼んだ。冷や水を掛けられたように急速に我に返る。
瑠璃は続ける。
『フリはフリでも、そこには確かな説得力と真実味が無いとダメなの』
「説得力と真実味?」
『そう、私たちが恋人だって皆に信じてもらうには、その二つが欠かせないし、その二つを醸し出すにはそれ相応の振る舞いが必要、その振る舞いを自然にするには、普段からの積み重ねが大事なの』
「電話で長々と喋らないでよ、ぜんぜん頭に入ってこないから」
『要するに、常日頃から恋人らしくしてないと、いざって時にボロが出るってこと』
「お~、分かったような分からないような」
『まぁ空音が深く理解する必要はないから、とにかく、私たちは今週の土曜日に「デート」するの、空音は黙ってそれを了承すればいいの』
「わかったわかった、デートしますよ、これでオッケ?」
こうして立て板に水とばかりに喋り続けられると、困ったことに、全てのことがどうでもよくなってしまう。我ながら将来が心配な性格だった、せめて詐欺には遭わないようにしよう、それか瑠璃に助けてもらおう、と決意を固める日々だった。
「それじゃあ切るよ、おやすみ」
耳元からスマホを離し、通話を切ろうと指を伸ばしたところで『待って』と言う瑠璃の声が聞こえた。『まだ切ったらダメ』
「いぃ~、まだ何かあるの?」
『もう用件は無いけど、けど、もうちょっと通話してよう?』
「へぇ、珍しいね瑠璃がそんな。いいよ、じゃあもう少しだけ」
椅子から立ち上がってベッドへと倒れ込む、スプリングの軋む音が鳴る。
実際、瑠璃が通話を長引かせたがるのは珍しい、どころか、初めての事だった。ひとたび口を開けば流れる川のように止めどなくしゃべり続ける彼女ではあるけれども、通話は例外のようで、「なんとなくソワソワする」という理由で、スマホ越しの会話をあまり続けたがらない姿を幾度となく見てきた覚えがあった。
『じゃ、じゃあさ』声を詰まらせながら、彼女は言う。『どっちかが寝ちゃうまで通話続けよう』
「えぇ、何それハードだなぁ」
『なに不服? 空音さっき、いいよって言ったのに』
「いやてっきり五分か十分くらいかと」
『そんなんじゃ全然足りないから。いい? 全国津々浦々の恋人たちの九割以上は、寝る前に長電話をしてるのよ? なら私たちもしなくちゃ』
「そんな多くの人が? というか、恋人うんぬん関係なく、私と瑠璃っていつも一緒にいるから、今さら電話で話すことなんてないよう」
『じゃあ土曜のデートのプランでも考えよう』
「そんなの前日か当日でいいじゃん」
私がそう言うと、スマホの向こうで瑠璃が深くため息を吐く音が聞こえた。
不機嫌になった、と私が咄嗟に思えたのは、長年の付き合いからくる察知能力が故だ。
『あのね、今度のデートが私の人生で初めてのデートなの、空音だってそうでしょ?』
「ふふん、どうして私にとっても『初めて』と言い切れるの? もしかしたら」
『八つ裂きにする』
「うわ、するって言い切っちゃった・・・・・・いや初めてだけどさ」
『だよね、だからこそ、大事に大切にプランを組み立てていかなくちゃ。初めてのデートが大失敗に終わるメリットなんて、結婚して夫婦になった後に「あの時は大変だったね」って笑い話にできるくらいしかないんだから』
「それメリットなのかな? まぁわかったよ、デートのこと考えるよ。何時からにする?」
『朝の六時半』
「ラジオ体操ぅ~」
ベッドに寝転がりつつ、そうやって長々と、だらだらと、瑠璃と通話をし続けるのは新鮮で、楽しかった。
時間が経つにつれ、お互いの声から元気が失われていき、そしていつの間にか眠りに落ちていて、目を覚ますと朝になっていた。
私と瑠璃、どっちが最初に寝てしまったのか、鮮明には覚えていないけれども、確か、彼女が先に寝たような気がする。
けれども彼女は決してそうとは認めず、頑なに私が先に寝たということにしようとするだろう。だって彼女は負けず嫌いだから。
それから二日が経った。
何がどういう風に作用してしまったのか、私には皆目見当もつかないけれども、私と瑠璃の偽の関係が学校中に広まっていた。直接「あなたたち付き合っているんでしょう?」と口で言われたわけではないけれども、私に喋りかける時の雰囲気や、少し遠くから私を見る時の目の感じが、そう言っていた。
確かに、私たちは学校で恋人らしい振る舞いを見せつけるようにし続けたけれども、だからといって、あまりにも広まるのが早いように思えた。
それだけ瑠璃が有名人だということか、と私は納得することにした。
人気者に関する噂が伝播する速度は、稲妻さながらである。
いよいよ、高校生の間に彼氏を作るのが実現不可能な領域に達してしまったような気がした、というか、そう確信した、けれども、まぁいいか、と私はあえて楽観視した。
彼氏は大学生になってからでもいいでしょう。
その日の帰り道、もうすっかり慣れてしまった恋人繋ぎを瑠璃としながら歩いている時のことだった。
「あ」私は思わず呟き、立ち止まると、それに腕を引っ張られた瑠璃が肩越しに振り返る。
「どうかした?」
「数学のノートと教科書忘れてきた」
「そんないきなり思い出す? ていうか、明日提出の課題あるけど」
「だよね。面倒だけど取りに戻る、瑠璃は先帰ってて」
「え~」
「ごめんよ」
口を尖らせる彼女に手を合わせ、私は踵を返して元来た道を気持ち大きな歩幅で歩きだす。さっきまであった手の温もりが減っていく。
学校を出て五分といったところで気づくことができたのは幸いだったけれども、そもそも、したくもない数学の課題のために、こうして面倒な出戻りをしていること自体が幸いじゃない。
溜め息を吐き、空を見上げる。
期末テストが近づいている。
上靴に履き替え、校内へと入る。
期末テストの一週間前から全ての部活動は休止になり、放課後に入ってしまえば最後、校庭どころか校内からも、生徒の姿が無くなってしまう。
しんと静まり返った廊下をひとり歩き、教室へと向かう。普段は控えなはずの足音が、今は僕が主役ですよ、とばかりに響き渡る。
階段を上り、一階から二階、二階から三階へと昇るその途中、遠くの方から響いてくる誰かの話し声が聞こえてきた。女の子の声で、なんだか楽し気な声音だった。
その声は私の進行方向からのものだった。音に近づくにつれ、会話の内容が、途切れ途切れではあるものの、少しずつ聞き取ることができるようになっていく。
「ほん・・・ザい・・・るり・・・」
「それね・・・んで・・・もち悪い」
教室に着くと、中には三人の女子生徒がいて、他には誰もいなかった。そこで初めて、その会話の主が彼女たちであることを私は知った。
このまま教室に入り、自分の席まで歩き、忘れ物を回収して去っていく。そうすると多分、彼女たちのせっかくの楽しい会話に水を差してしまいそうな、そんな気がした。私という思いもよらない入室者の出現に三人のうちの誰かが気づき、それによって、それまで三人で完結していた世界の輪が乱れてしまい、会話のボルテージが下がってしまうような、そんな予感があった。
忘れ物を取りに来る、という行程だけで少し憂鬱だったのに、その上に変に気まずい思いをしたくない。
私はそう考え、教室の外で立ち止まり、彼女たちの会話が一段落するのを待つことにした。自然、盛り上がる彼女たちの会話の内容が耳に届いてしまう。
「ほ~んと意味わかんないわ瑠璃のヤツ、いきなり空音ちゃんと付き合い出してさぁ」
「女の子好きなんだったら最初からそう言っとけって話よね~、無駄に男子に告白させといてさ~、どんくらいの人傷つけてきたのか自覚あるのかな」
「つい最近もさぁ、リョウスケ君が告ってフラれたんでしょ? 私の友達にリョウスケくん好きな子がいてさぁ、めっちゃ泣いてたもんね」
「瑠璃がいるだけで、そういう恋愛模様がめちゃくちゃになるもんね~、迷惑だわホント、存在が迷惑」
「瑠璃のどこが良いんだろね男子たちは、いくら顔が良くたって、性格がおブスちゃんじゃあ無理でしょ」
「それ言うんなら空音ちゃんもだよねぇ、よ~くあんな女と一緒にいられるよね、やっさしぃ~」
「なんか脅されてたりするんじゃない? じゃなきゃ嫌でしょ」
彼女たちの声色はどこまでも明るく、廊下の隅々にまで響き渡らんばかりだった。
盗み聞きをするつもりはなかったけれども、やっぱりどうしたって聞こえてしまう、聞きたくなくたって、耳に入ってきてしまう。
何となく窓の外に視線を寄越すと、そこには雲一つない青空が広がっていた。本来なら、その心が洗われるように爽やかな青色に感動するところだけれども、今の私にはどうしてか、その清々しい青に期末テストの存在を感じ取ってしまう。
期末テストはストレスが溜まる、苦手な勉強をしなければいけないから。
彼女たちの会話を聞いているとストレスが積もっていく、大切な人が悪く言われているから。
ストレスが溜まるとどうなるのか、私は知らない。
だってすぐに解消してしまうから。
私は深呼吸して、教室内に足を踏み入れる。
一人が私に気づき、驚きに目を見開いた。遅れて残りの二人も私の存在を認めると、一様に口を噤んだ。
教室内を満たす沈黙を切り裂くのは、私だった。
「私は好きで瑠璃と一緒にいるから、心配しないでいいよ。それと」
三人は石になってしまったみたいに固まって、ただ私の次の言葉に耳を澄ませている。
私は続ける。
「それと、瑠璃の悪口言うのは良いよ、だって瑠璃は性格ドギツイから、色んな人に嫌われてたって不思議じゃないし。けどせめて」
そこで言葉を区切り、大きく息を吸いこみ、再び口を開く。
「そういうのはお家とかカラオケとか、人目につかない所で言いなさいっ!! わかった!?」
自分でもびっくりしてしまうほどの大声で、私は言った。
三人は肩を跳ねさせると、小さく小刻みに頷いた。
その様子に私は満足して、教室から廊下に出た。
「あ、あの、空音ちゃんっ」
すると一人の女の子が椅子から立ち上がり、声をかけてきた。何だろう、と振りかえると、彼女はバツが悪そうに言った。
「多分なんだけど、空音ちゃん、忘れ物か何か取りにきたんじゃないの?」
「あっ」
私は思わず呟き、そしてきっと彼女と同じような、気まずい表情を浮かべた。
無事に数学のノートと教科書を回収し、階段を下りていると、三階と二階の間にある踊り場に、瑠璃が壁に背を預けて立っていた。
「アレ? 瑠璃、待っててくれたんだ」
「・・・・・・前にも言ったけど、普段から恋人らしく振舞うことが大事だから」
「こうやって待ってるのは恋人ポイント高いんだ?」
「そういうこと」
「へへ~、ありがとう」
そのまま二人で学校を出て、つい十数分ほど前に歩いていた道を再び進んだ。
二日前と同じように、隣を歩く彼女の口数が少なかった。横目で捉えてみると、いつになく神妙な表情を浮かべていて、どういった感情を抱いているのかが窺えなかった。少なくとも怒ってはいなさそうだった。
大方、次なる恋人作戦のことでも考えているんだろう、私はそう決めつけ、静かに歩き続けた。
今更、瑠璃との静寂に気まずさを覚えることはない。
「空音が怒ってるところ、久しぶりに見た」
「うぇ?」
不意に瑠璃の口から発せられた言葉に、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あ、あー、聞いてたんだ」
「廊下には誰もいなかったし、アナタたち声が大きかったから、嫌でも聞こえるの」
まさか聞かれていたとは。
私は無性に恥ずかしくなって、顔が徐々に熱くなっていくのを感じた。できれば顔を覆い隠してしまいたかったけれども、片手がしっかりと恋人ポイントを稼いでいるせいで、そうすることもできない。
「小学生のときも中学生のときも、空音はいっつも同じ理由で怒ってた、『瑠璃の悪口言わないで』って」
「そうだっけ?」
「覚えてないの?」
私が首を傾げると、瑠璃は驚いたように口を開いた。
「怒るってことは、いや~な思い出なんだろうし、記憶の優先順位が低いのかも」
「そう? 私にとってはそんなに嫌な思い出じゃないけど」
「えぇ? そうなの?」
「うん、だから、今日も良い思い出になる」
そう言って微笑みを浮かべる瑠璃に、私は困惑する。
自分の悪口を言われていた記憶を『思い出』と称し、なおかつそれを嫌ではないとする彼女の感性に空恐ろしさを感じた。
そういうのが好きなんだろうか。
「よしっ」
瑠璃は軽やかに、お気に入りの歌詞を口ずさむように呟くと、よりいっそう強く私の手を握った。
「土曜日のデート、二人で一緒に水着買おっ、それで次のデートは夏休みにプール行こう」
「いやいや、夏休みに入ったらもうデートじゃないでしょ、夏休み前の告白ラッシュを回避できたら、もう恋人のフリ終わりだよね?」
「まさか、そんな訳ないじゃない」
そんな大どんでん返しの言葉に、私は絶句する。
そんな私に構うことなく、瑠璃は幸せな未来図を描くように楽し気な表情で続ける。
「夏が終わったら秋、その次は冬で、クリスマスがあるでしょ? そこの告白ラッシュもやり過ごすんだから」
「わぁ気の長い、じゃあ結局いつまで私たちは恋人のフリを続けなきゃだめなの?」
「恋人の『フリ』がいつまで続くかは、私の頑張り次第かな」
「瑠璃の? 私じゃないんだ?」
「そう、空音はただ隣にいてくれるだけで十分だから、そこから先は私が頑張るの、だから待ってて」
そう言って、彼女は私を見た、その目はいきいきとしていて、何かのやる気に満ち溢れていた。
瑠璃の頭の中にどういう働きがあって、彼女が何に闘志を燃やしているのか、私にはさっぱりわからなかった、だから私はとりあえず微笑んでおいた。
「よくわかんないけど、待ってるよ」
多くの高校生にとって恋の季節である夏、今年こそは私も乗じてみせるぞ、と意気込んでいたけれども、どうやらそれも無理そうだ。
けど、それでも、どこかに恋が落ちているかもしれない、諦めるにはまだ早い。
青い空の下、私はそう思った。




