腹黒プラトニックラブ(下)
私の見る夢は過去の出来事がもとになっていて、それらはことごとく教室でのワンシーンを切り取ったものだった。
クラスメイトの前で愛の告白をする男子。
それを正面に受ける私。
フラッシュモブさながらに囃し立てる男子たち。
それら一連の流れを冷ややかに眺める女子たち。
これは確か、中学二年の時のことだった。
この時の私は既にこうして告白されることに慣れていて、ゆえにこのような光景は印象になど、ましてや記憶になど残ろうはずもない、取るに足らないものだった。
しかし、私は今もこうして夢に見ている。その理由としては、彼女たち、クラスメイトの女子たちの視線を心苦しく思い始めた頃だからだろう。
あの視線が、私を嫌って、妬んで、敵対するあの視線が、日に日に鋭さを増して突き刺さる。
視界が揺れる。頭が眩む。
なんだよ、何が悪いんだよ。私の何が。可愛くって何がいけない。男子からちやほやされて何が悪い。モテモテで何が悪い。確かに私は恵まれているよ。でもお前らだって、友達がいて、普通に恋ができて、そっちの方がずっと羨ましい。お前らだって、十分に恵まれてんだよ!
そう叫ぼうと思っても、夢の中の私は何も言わない。男子の告白を受けて、嬉しくもないのに、笑顔を張り付けているだけだ。
視線が四方八方から殺到する。
見るな、見るな、見るな!
そこで私は目を覚ます。じっとりとした汗でパジャマが張り付いている。
カーテンの隙間から、柔らかな日差しが覗いた。天気は晴、清々しい朝だ。
こうして、私の一日は最悪の形で幕を開けるのだ。
あの日、雪道さんに告白した日から一週間が経った。
当然といえば当然だが、私たちの関係は進展の兆しを一向に見せないままで、彼女とは友達として付き合っている。
いや、進展してもらっても困るが。
雪道さんとはクラスが別なので、学校で彼女と関わり合うことはない。しかし、表面上私は彼女と恋仲になりたいと願う女の子という設定なので、彼女はそれを尊重して、放課後は私と一緒に下校をしている。
異性とでなく、同性の友達との時間。その時間は、友達がいない私にとっては新鮮なもので、密かな楽しみとなりつつあった。
雪道さんは優しい。
隣を歩く彼女を感じ、私は素直にそう思った。同時に、申し訳ないとも思う。
私は彼女の人のよさを利用しているにすぎない。こうして一緒にいてくれるのも、私の偽られた想いを気遣うがゆえだろう。
しかし最近になって、それだけが理由でないことを知った。
意外にも、雪道さんはよく喋る。
肩を並べて、友達と下校することは彼女にとっての憧れらしく、気分の高揚とともに饒舌になると言う。
この関係が多少なりとも彼女にとって有益であるらしく、その事実に少し安心する。この状況に甘んじてもいいのだと、ついつい自分を許してしまう。
冬の到来を予感させる冷気が頬を撫でる。ほんのりと上気した肌に心地よい。
反対に、指先が冷えるのを感じた。ほとんど反射的に、雪道さんの手を、すらりと伸びた細い指を見た。
彼女の指も冷たくなっているはずだ。手を繋ぎあえば、互いの体温が互いに温めあうに違いない。私は無意識に、彼女の手へと冷たいそれを伸ばした。
触れ合う寸前で私は我に返ると、慌ててそれを引っ込めた。
何をしているんだ、私は。
「三輪さん、今日は静かですね。どうかしましたか?」
直後、彼女が振り向いて心配の含んだ声で言った。あっぶねー。
「へ、あ、いやー、寒いの苦手で、ちょっと元気なくなるっていうか、なんていうか」
しどろもどろ。まさか、あなたと手を繋ごうと考えてたら無口になっちゃいましたなんて、言えるはずもない。私はつっかえながらも弁解した。
「確かに、今日は一段と冷えますね。・・・・・・手でも、繋ぎますか?」
「へぇっ!?」
冗談めかして言う雪道さんに、私はやや過剰な反応を示した。瞬間、彼女の体がびくっと跳ねた。
差し出された手に、目が釘付けになる。雪のように白い、綺麗な手。その強烈な誘惑に抗えるはずもなく、私は本能の赴くままに、再度それへと手を伸ばす。
「・・・・・・なんて、嫌、ですよね」
彼女は申し訳なさそうにそう言って、その手を戻した。行き場を失った私の手が、所在もなく空中で遊んだ。
私は深く落胆した。いや、これも何かの縁と考えて、私からも提案してみるというのはどうだろうか。友達同士、手を繋ぐという行為は何ら不自然ではないだろう。
今までの学生生活でも、女の子同士のスキンシップは数多く見てきた。手を繋ぐどころか、抱き着いている子だっていた。だから、手を繋ぐくらいなんてことないはずだ。
その考えに至って、私は自分がなぜ彼女の手にそんな固執するのか、不思議に思った。
今まで友達がいなかった分、余計にそれらしい行為を求めているのだろうか。だとしたら、私は自分で思っている以上に、雪道さんを好いているのもしれない。
・・・・・・なんだろう、顔が熱い。
結局、私は彼女の白い手に並ならぬ興味を抱きながらも、正体不明の何か、未経験の感情が行く手を阻んでしまい、それを言い出せないままに彼女と別れた。
途端に、すっと顔の熱が引いた。
雪道さんは、私がどういった人間であるのか知っているのだろうか。
眠りにつく少し前に、ベッドの上で私は思った。
学校の生徒、特に女子なんかは男をとっかえひっかえする私のことを善くは思っておらず、それは女子全員の総意であるように思われる。
雪道さんは、それら全てを把握しているだろうか。
友達がいなかったと、彼女は言っていた。しかし、私は悪い意味で目立ってしまっていて、いくら友達がいないと言う彼女でも、多少なりとも小耳に挟んでいるのではないだろうか。私と行動を共にしてくれる彼女も、本音のところでは私を蔑んでいるのでは。
そう考えると、私は体の奥底から震えがこみ上げてくるのを感じた。
怖い、怖いなぁ。
彼女と出会って、心の耐久度がひどく落ちてしまった。
雪道さんは私のことをどう思っているんだろう?
切実な疑問が胸中を満たす。
当然、答えはなかった。
そんな悩みを持ち越した明くる日の放課後、私は下足室にてロッカーに背中を預けて、雪道さんを待った。
廊下は非常に混み合い、合流するにも一苦労なので、その点、下足室はすぐには混み合わず、待ち合わせにはうってつけだった。
目の前を通り過ぎる女の子たちが、一瞬、私に目を向ける。ただ、目を向けるだけだ。逃げ場のない私は身じろぎしてそれをやり過ごした。
「すみません、お待たせしました」
聞き慣れた声がかけられ、私はちょっとした高揚感とともにそちらへ振り向いた。
果たして、雪道さんがいた。優しい瞳が、私を捉えている。
この目だ。この目に弱いんだ、私は。さっきまでの女の子たちの目とは比べようもなく安心感のある目で、心が救われるかのようだ。
「じゃ、帰ろっか」
高揚感が表情に反映され、口角が上がるのを感じる。取り繕って、私は事も無げにそう言った。連れ立って、私たちは外に出る。
「雪道さーん」
ほんの二、三歩いたところで、背後から声が、不本意ながらも聞き慣れてしまった、悪意が内包された声がかけられた。
二人そろって振り返ると、そこには私たち同様二人の女子生徒が不敵な笑みを浮かべて立っていた。見た目が派手な二人組だ。悪意の込められた瞳が、雪道さんを捉えている。
彼女たちの顔に見覚えはなかった。知っている人? 雪道さんに目線で訊いた。「同じクラスの人たちです」彼女は静かに耳打った。
「雪道さんってさー、最近、その人と一緒にいるよねー」
ねったりと、彼女たちの一方が言う。もう片方は、何が愉快なのか、ニタニタと口角を歪めている。その人とは、私のことだろう。
「? はい、そうですね」
「私たちさー、心配なんだよねー。雪道さんのことが」
「えっと、何がですか?」
雪道さんは彼女たちの意図がわからないでいる。しかし私は、彼女たちの言わんとしていることに察しがついてしまった。
悪意の二人は、まるで善意からの忠告であるかのような口ぶりで、なおも続ける。
「だからさー、その人、彼氏をとっかえひっかえしてさ、三日もしないうちに別れて、皆の恋愛事情を滅茶苦茶にしてきたんだよ。最低なやつなんだよ、そいつ」
だからさー。
彼女は続ける。
「そんなビッチとつるんでたら、雪道さんも変な目で見られるよ」
そう言って、彼女は勝ち誇ったような視線を私に向けた。そんな彼女に、私は何も言い返せないでいた。悪意があるものの、それは紛れもない事実なのだから。
雪道さんはどう思っただろう。今の話、信じるだろうか。
意識が隣の雪道さんに集中した。彼女がどんな表情をしているのか、私は確認してみたい欲求に駆られた。俯かせた顔を上げて、彼女の顔を。しかし、私の体は、首は、目は錆びついたように、まるでその機能が抜け落ちてしまったかのように、動かなかった。
視界が揺れる。頭が眩む。
私の脳裏に、雪道さんがよぎった。怒り、失望、軽蔑、様々な表情を浮かべている。
涙が滲む。暗い不安の渦に、私は取り込まれた。
「ご忠告、ありがとうございます」
闇を晴らすような、普段の雪道さんからは想像もできないような凛とした声で、彼女はきっぱりと言った。
二人組が、その声音に眉をひそめた。
ですが。
彼女は一人、続ける。
「ですが、ご心配には及びません。なぜなら・・・・・・」
突然、私の肩がぐいと雪道さんに抱き寄せられた。たまらず、私は顔を上げた。
その瞬間、無防備な私の唇に、何か柔らかいものが触れた。
眼前に、かつてないほどの近さに彼女のその細面があった。
唇と唇の接触、それは正しくキスだった。
そっと、彼女の唇が離れた。
「私と三輪さんは恋人になってもう八日経ちます。三日の、およそ二倍です。しかし、御覧の通り、いまだアツアツカップルです。それを悪く思われるくらいならば、むしろ本望です」
ですから、ご心配には及びません。
彼女はそう繰り返し、言葉を結んだ。
雪道さんを除いた三人が、呆気に取られていた。
ああ、私と雪道さんが知り合ってから、もう八日も経つんだなぁ。状況に追い付かない脳が、そんな暢気な思考をはじき出した。
「行きましょう、三輪さん」
私の手をとって、彼女はつかつかと歩き出した。
何もかもを忘れて、私は手に伝わる自分以外のぬくもりを感じていた。
雪道さんが歩みを止めたのは、いつも通りの帰り道をしばらく歩いてからのことで、彼女は私の手を離すと、緊張した面持ちで振り向いた。さっきまで手にあったぬくもりが名残惜しい。
「ご、ごめんなさい!すみません!申し訳ございません!」
滔々と流れ出る謝罪の言葉。彼女は深々と頭を下げ、そのまま地面にこすりつけかねない勢いだったので、私は泡を食ってそれを制止した。
先ほどまでの勇ましい姿はどこへやら、彼女のそのマシンガンめいて繰り出される謝罪はなおも続く。私は訳も分からず大げさな身振りで、まぁまぁ、どうどう、と彼女を宥めた。
そんな、半ばパニック状態が沈静したのは、途切れることなく放たれる謝罪の言葉に酸素が容赦なく浪費され、雪道さんの肺が音を上げてからのことだった。
せき込んでから、深く深呼吸をする。彼女の体が、大きくそしてゆったりと上下する。
「・・・・・・先ほどは、本当にごめんなさい」
呼吸を正常のものに戻すと、雪道さんはか細い声で、改めてそう言った。
先ほどとは、やっぱりあれのことで、唇と唇との接触のことで、つまり・・・・・・キス、のことで。
不意に、つま先から頭のてっぺん、その髪の毛の先までもが燃えるように熱くなった。そう感じられた。
「三輪さんが悪く言われるのを聞いて、私、頭に血が昇っちゃって・・・・・・何か言い返してやろうとして・・・・・・」
冷水をかけられたように、私の熱は引いた。雪道さんは、この目の前の心優しき女の子は、私がどういう評判で、どういった人間であるかを、やはり知らないのだ。あの二人組の言うことにも、事実無根である、そんなことを思って、言い返したのだろう。
これ以上、隠してはいられない。彼女のその真摯な精神を、利用してはいけない。
そもそも、あの二人組、腹立たしい彼女たちが言っていたこと。
そんなビッチとつるんでたら、雪道さんも変な目で見られるよ。
男の子と手を繋いだことすらない。でも、そんなこと傍から見ても分からないことで、つまり、彼女たちの言っていたことは、雪道さんにまでその風評が波及するという危険性は、十分に考えられることだった。
そんな危険性から、私は彼女の隣にいたいという利己的な動機で、目をそらし続けていた。
だから、言わなければ。この関係を、終わらせなければ。
「雪道さん・・・・・・」
声が震えた。嫌だ。そんな感情があふれ出てくる。それを必死に抑えれば抑えるほど、つんとした痛みが、鼻の奥にわだかまった。
泣いてはいけない。私はいつだって加害者だった。こうなるのも当然の結果だ。だから、泣いてはいけない。
そして、悟られてはいけない。調子を整えるべく、私は間を置いた。雪道さんは応えるように、私を見ている。
「雪道さん、さっきの、ひ、人たちが言ってたこと、はね・・・・・・」
私はそれを上手く口に出せず、いちいち喉でつっかえさせた。
ああ、だめだ。どうしても、この胸の痛みを、あふれ出るそれを抑えきれない。それでもどうか、この瞬間だけは。
「ほ、ほん、本当のこと、なんだ・・・・・・だか、ら」
絞り出すように、だがはっきりと、私は言った。
だから、私と友達をやめて。
最後の仕上げとして用意されたその言葉は、しかし、雪道さんが私の両の頬に手を、その繊細な儚い両手をそっと添えることによって、いとも簡単に遮られた。
心配しないで、落ち着いて。やわらかな、春の陽ざしを思わせるその温もりは確かに、そう告げている。
狭まった視界には、雪道さん。彼女もまた、私をまっすぐに捉えている。
「実は、私、この八日間での三輪さんの素振りから、三輪さんが私に気がないこと、恋人になりたいと思っていないこと、とっくに気づいていました」
「えっ・・・・・・」
思わず、声がもれた。
だったら、どうして。
「どうしてかなって、そう思っていたんですけど、でも、私、三輪さんといるのが楽しくて、嬉しくて、いつしか、どうでもよくなってました」
でも。
彼女はその顔に影を落として、続ける。
「でも、さっきの話が本当の事なら、真に勝手な推測ですが、三輪さんの過去の恋愛遍歴と、私に告白したことと、何か込み入った事情が、何か複雑な感情があったのではないか、そう思います」
今までの出来事を整理しながら、彼女はゆっくりと述べる。
「ですから、その・・・・・・友達として、三輪さんの考えていることを、今までのことを、教えていただけませんか?」
そう言って、彼女は破顔した。
ゆらりと、視界が滲んだ。もう抑えられない。涙がこぼれて、頬を伝って、彼女の手を濡らした。
私は彼女の両の手を掴んで、そうっと下ろした。
様々な感情が行き来して、収拾がつかない。何から話そう。いや、今は。
私は思ったまま、整理のつかないままに、口を開いた。
私は支離滅裂に、話を前後させながらも、全てのことを雪道さんに語った。私がどんなふうにこれまでを過ごしてきて、同姓に嫌われ、私がどう思ってきたのかを。そして、さっき雪道さんに言おうとしたことも。
つっかえながら話す私を、雪道さんはただ静かに見守った。
「私は、三輪さんを信じます」
語り終えてから、雪道さんは囁くように言った。
「私は三輪さんを悪くは思いません。先ほどの方たちの三輪さんに対する評価も、間違っていると思います。八日間一緒に過ごしてきて、三輪さんが素晴らしい人であると重々理解しているつもりですから・・・・・・」
彼女は今にも泣きそうな顔をした。
「だから、友達をやめようだなんて悲しいこと、言わないで下さい・・・・・・」
そう言って、彼女は小さな声で泣いた。
私のために泣いている。涙を流している。申し訳なく思いながらも、私はそんな彼女の姿に、確かな幸福を感じていた。
「ありがとう、雪道さん」
今の私には、それを言うだけが精一杯だった。
目を赤く泣き腫らした女子高生二人組というものは、かなり希少ではないだろうか。
歩きながら、そんな益体のないことを考えていた。
あの後、なかなか感動的な形で、雪道さんとの関係がより確固たるものになった後、私たちはそろそろと帰路に就いた。
あれの直後なので当然といえば当然ではあるが、私たちの間に、初日の時のような静寂が満ちていた。
世の中には、沈黙を苦とみなさないほどに深い友情があると伝え聞くが、残念なことに、私たちはその領域にまだ到達できていないようだ。ぶっちゃけ、苦しかった。
隣を行く雪道さんも同様らしく、さっきから視線をあたふたと四方八方に巡らせていて、挙動不審である。
話の種は、この冷たい空気を暖める、とびきりの火種はないものか。逸る思考の最中、私は火傷必死のそれを見出だした。
「・・・・・・なんでキスだったの?」
瞬間、彼女の体が跳ね上がった。視線は先にも増して目まぐるしく回り、その有り様はさながらイタズラを咎められた子どものよう。
あーえっとあのそのえーっとですね。意味を成さない日本語の羅列が、彼女の口からもれ出る。イジワルしすぎたか。
「上手い反論が思い浮かばなくて・・・・・・それで、最初の日に、三輪さんが恋人と言っていたのが、不意に思い出されて・・・・・・そこから、つられるように・・・・・・」
しどろもどろになりながらも、彼女は必死に弁解した。
「私、ファーストキスだったんだけどなー」
「ほ、本当に、すみませんでしたっ!」
頬を膨らましてみせる私に、彼女はますます青くなった。
別に、本気で責めているわけではない。ファーストキスだったのは本当だが、雪道さん相手になら、いいだろう。本望ですらある。
本命は、この後だ。
「じゃあ許す代わりに、手繋いで」
「えっ?」
差し出した右手に彼女は目を丸くして、まじまじと見つめた。
そんなに見つめられると恥ずかしいな。私は急き立てるように、手をその場で小さく振った。
「寒いよー、早くー」
「あ、は、はいっ」
彼女の左手が、私の右手を握った。伝わる彼女の体温に、えもいわれぬ満足感を覚えた。
「これからもこうして帰ろうね」
「・・・・・・手が冷えるのでしたら、手袋かカイロを使った方が良いかと」
無粋な彼女の言葉に、私は聞こえない振りをした。雪道さんは女心がわかってないなー。
繋いだ手と、雪道さんを意識する度に、これまでに抱いたことのない感情が、私をくすぐる。
かねてから憧れを持っていた、初めての感情。
ああ、さっきまで雪道さんと友達でいられることに喜んでいたのに、もう次の段階に進みたいと、心が足踏みをしている。
いっそのこと、この手から彼女の手に、そして脳に、この感情を伝播してくれないだろうか。
でもきっと、雪道さんは鈍感だから、そんな回りくどいのじゃ気がつかないだろうな。
私は一人、そう思った。
根暗無自覚イケメンヒロインと腹黒ながらうぶなヒロイン
かわいいですね