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彼女たち  作者: 城ヶ崎
15/71

先生と生徒の公式

 長くなっちゃいました。すみません。


 教室内にチャイムの音が高らかに鳴ったと同時に、私は教室を後にした。気の緩んだ楽し気な話し声が、背中越しに聞こえてくる。

 チャイムが鳴る約十秒前に授業を終わらせるということは、教鞭を執るようになって以降、常に心掛けていることだ。授業終了を告げるチャイムが鳴った後も授業を続けるのは、例えそれが十数秒のことであろうと、多くの生徒にとって大変苦痛なことで、それが勉強嫌いとなる要因の一つになりかねない。特に、私が受け持つ教科は数学で、苦手とする生徒は数知れない。

 上靴特有の軽い足音が、背後から聞こえてくる。音の間隔からして、小走りだ。立ち止まって振り返ると、一人の女子生徒が目に入った。手に数学の参考書を持っている。


 「せんせー、質問いいですか?」

 「鹿野、また君か」

 「またって、仕方ないじゃないですかぁ。私バカだから、分からないところ沢山あるんですよ」


 むうっと、鹿野が不満げな声を漏らした。ご丁寧に、頬を膨らましている。可愛らしい仕草を欠かさない、所謂、ぶりっ子というやつである。


 「申し訳ないが、この後もすぐ授業があるんだ。放課後でいいか?」

 「はーい」

 「質問の量が多いなら、教室まで行こうか?」

 「あ、そうですね。お願いします」

 「じゃあ、また放課後に」


 そう打ち切って、再び歩き出す。次は三年生の授業だ。






 冬の刺すような寒さの厳しさは最早言うまでもないが、廊下の包み込むような寒さは、外のものとはまた違った不愉快さがある。足早に廊下を突き進み、目的の教室に急ぐ。白い息が漏れた。

 職員室が一階にあるのに対し、鹿野の教室は三階にある。階段を一段、また一段と上がる度、疲労が溜まっていくのを感じる。二十八歳はまだ若い(と思いたい)が、やはり運動能力の低下を実感せずにはいられない。

 教室にたどり着き、中に入る。空調の暖房が冷えた指先を温めてくれる。

 鹿野は中央付近を陣取っていた。段取りが良いことに、二つの机をくっつけている。

 

 「あっ、先生」

 「待たせたな」

  

 私の姿を認めるや否や、ぱっと花開いたように、彼女の顔が綻んだ。椅子を引いて、彼女の真横に座る。

 他の生徒は既にいない。部活動に所属している生徒が多いらしく、放課後になると、皆すぐに各々の活動場所に行ってしまう。勉強をするには打ってつけの環境だ。


 「それじゃあ、始めようか」

 「はーい」

 






 

 「・・・・・・で、この左辺のaを右辺へと移行して、後はグラフから共有点を見つければ・・・・・・て、鹿野、聞いているのか?」


 妙に視線を感じて、参考書から鹿野へと目を移す。すると、彼女の目とかち合った。本来参考書に向けるべき視線を、あろうことか私に向けていた。


 「鹿野、ちゃんと聞け」

 「ごめんなさーい。先生の横顔が格好良くて、見惚れてちゃってました」


 てへ。

 彼女は拳を緩く握ると、こつんと頭に当てた。昨今、このような仕草をする女の子がいたとは。私はしめやかに戦慄した。 

 私が男であれば、ときめいていたかもしれない。


 「からかうな、それに私は女だ。せめて可愛いと言え。いや、可愛いもおかしいが」

 「いやでもー、先生実際格好良いていうか、美人だなって思いますよ。白衣とか、似合ってますし」

 「ああそう・・・・・・」

 

 こういった軽口は、いつものことだった。放課後の質問会において、彼女は決まって私をおだてる。最初の頃こそ反応に困ったものだが、いい加減慣れてしまい、受け流している。


 「ああもう、返事がおざなりだなぁ」

 「いちいち反応していられるか」


 ふと窓に目をやると、もう日が傾きかけていた。冬の夜は長く深い。解説していた問題も、ほとんど解き終わったようなものだったので、お開きとすることにした。


 「鹿野、今日はもう帰りなさい」

 「えー、まだ終わってませんよ」

 「もうほとんど終わったようなものだろう。後は復習あるのみ、自分で頑張りなさい」

 「・・・・・・はーい」


 渋々といった様子で机に広げた参考書をしまい、鹿野は立ち上がった。鞄に付いている細々としたストラップが、音を立てて揺れた。

 

 「じゃあ先生、さようなら」

 「ああ、さようなら」


 






 「ただいま」


 玄関の扉を開けて、言う。返事はない。一人暮らしなのだから当たり前だ。それでもつい言ってしまう。もし返事があったらどうしよう、そんなくだらないことを考えながら、言ってしまう。でも、本当にあったらどうしよう。

 ダイニングテーブルの前に座り、中央に置いてあった灰皿を引き寄せる。煙草に火を着けて初めて、やっと一息ついたという感じがした。

 学校で煙草を吸うわけにはいかない。歩き煙草をするわけにはいかない。となると、家意外に吸う場所がないのだ。ある程度は仕方がないとはいえ、肩身が狭い。

 煙を吐き出すと、一日の疲れがどっと溢れ出た。体が重く、しばらく何もする気が起きない。

 呆けた頭に、不意に鹿野のことが浮かんだ。

 彼女は見た目からして真面目といった性質の生徒ではない。髪を栗色に染めて、スカートは短く折っている。過剰にぶりっ子である。私が彼女と同年代ならば、もしかしたら嫌いな部類の人種に入っていたかもしれない。

 そして意外なことに、彼女は勉強熱心だ。特に、数学に対する熱意には目を見張るものがある。連日のように質問攻めをする生徒はそういない。定期テストでも、毎回上位十位には入っている。人は見かけによらない。

 ふと、一つの疑問が私の意識を捉えた。

 勉強熱心で、定期テストでも高得点を獲得する。少し拝見させてもらったところ、彼女の使っている参考書も、彼女の実力に見合っているようだった。

 それにも拘わらず、こうも質問することがあるだろうか。はっきり言って、鹿野の質問の量は並ではない。それに、これは前々から思っていたことだが、彼女がわからないという問題の中に、いくつか引っ掛かるものがあった。明らかに、それらは彼女に解けない問題ではないのである。

 上昇していく煙を眺めながら、取り留めもなく考える。

 疲れて何もする気は起きないが、手持ち無沙汰なままでいるのも気に入らなかった。退屈を原動力に、思考は進んでいく。

 携帯電話が鳴った。設定をしていない、無機質な電子音だ。画面を確認して、思わずため息が出る。母だ。少し躊躇ってから、応答する。


 「はい、もしもし」

 『あ、薫? お母さんだけど』

 「ああ、お母さん。どうしたの?」

 『いやね、ちゃんとご飯食べてるのかしらって、心配になってね』

 「ちゃんと食べてるよ、大丈夫」

 『本当? あなたは昔からがさつだったから、どうしても心配しちゃうのよねえ・・・・・・あ、それとね』


 来た。

 体に緊張が走る。会話の途中少し間を空けて、「あ、それとね」と続けると、次に来る話題は決まって一つだ。


 『あなた、彼氏とかできたの?』

 「・・・・・・いや、できてないけど」

 

 そう答えた途端、はっと短く、電話越しにため息が聞こえた。胸中に苦々しい何かがこみ上げてくる。


 『やっぱりね。あなた、今年でもう二十八でしょう? 結婚とか、ちゃんと考えてるの?』

 「か、考えてるよ。考えてるけど、相手が見つからないんだよ」

 『またそんな言い訳を・・・・・・だったら、お見合いでもしてみる?』

 「えー・・・・・・」

 『何よ、嫌なの?』

 「うん」

 『もう、わがままばっかり。・・・・・・まあでも、そうね。お見合いはまだ早いかしらね』


 それは意外な言葉だった。いつも押しつけがましく、呪文のように「お見合い」ばかり言っていた母がそんなことを言うとは、夢にも思わなかった。


 「そ、そうだよ。まだ全然、二十八だし。これからだよ」

 『調子に乗らない。・・・・・・そうねえ、あなた、三十までに良い人見つけなさいな。もしそれまでに見つけられなかったら・・・・・・』

 「見つけられなかったら?」

 『その時は、お見合いね』


 そう言うや否や、母は通話を切った。私しか居ない部屋は、静寂が保たれている。

 帰りに買ったお弁当をビニール袋から取り出し、蓋を開ける。唐揚げ弁当だ。

 早く食べて、お風呂に入って、さっさと寝よう。

 唐揚げを一つ、口に放り込む。自分の咀嚼音のみが、部屋に響いた。







 鹿野が新たな質問を持ち込んできたのは、それから二日後のことだった。例によって、放課後、彼女の教室で解説会が行われる運びとなった。

 またいつものように、椅子を隣り合わせにして、問題に取り組む。要点を説明する度、鹿野は適宜ノートに書き込んでいく。今回は、比較的早く終わりそうだ。

 解説の途中、またもやあの疑問が浮かんだ。というのも、今取り組んでいる問題と似たようなものを、前にも解説した覚えが、おぼろげながらもあったからだ。


 「先生って、煙草吸うんですか?」


 シャープペンシルを走らせながら、鹿野がそう訊いた。彼女の何気ない問いに、思考が中断する。


 「吸うが、よくわかったな」

 「鉛筆、いつも人差し指と中指に挟んでるから、そうなのかなって」

 

 言われて初めて、自分が鉛筆をそう持っていることに気がついた。彼女の言いぶりからして、前からそうして持っていたらしい。

 鹿野が詰るような視線をよこした。


 「・・・・・・家以外では吸っていないから、受動喫煙などの心配は不要だぞ」

 「いや、それは別に、どうでもいいんですけど・・・・・・でも、嫌ですね」

 「嫌って、私が喫煙しているのがか?」

 「はい」


 手を止めて、鹿野が私に向き直った。いつになく真剣な表情をしている。普段はのほほんとしている分、余計に新鮮だった。


 「だって、煙草を吸うってことは、寿命を縮めていることと同義ですよ」

 「そんな大袈裟な」

 「大袈裟じゃないですよ」


 鹿野が席を立ち、噛みつくように言う。その鬼気迫る様子に気圧されて、椅子ごと少し後退する。


 「大事にしないとダメですよ、自分の体は」

 「わ、わかったわかった、わかったから、少し落ち着きなさい」

 「私嫌です。先生が煙草吸うの」


 まあまあと宥め、何とか席に着かせる。不承不承といった風に、鹿野が座った。

 何だろう、今日の鹿野は、どこかおかしい。横目に彼女を捉えながら、そんなことを思った。







 鹿野がお手洗いに席を立った。しばしの休憩時間だ。外は暗くなりつつある。もう数十分もしたら、解散するべきだろう。疲労を感じて、体をほぐす。その時、半開きになった彼女の鞄が目に入った。中から、一冊の本が少しはみ出している。


 「あれ?」 

 

 どうにも見覚えがあって、悪いとは思いながらも、確認してみる。手に取ってみて気づく。これは今私たちが取り組んでいる、机の上に広げている参考書と同じものだ。それに、こっちの方が明らかに使い込んでいる形跡があった。試しに、鹿野に解説した問題が載っている頁を開いてみる。少なくとも一回は解いているように見える。

 疑問符が浮かぶ。これはもう他の解釈のしようもなく、私の解説が必要になるとは、とても思えない。しかし現に、彼女はこうして私のもとへと来ている。

 何となく、見てはいけない物を見てしまったような気がする。


 「見てしまったんですか」

 「うおわっ」


 急に声をかけられ、あわや参考書を落としそうになる。いつの間にか、鹿野が帰って来ていた。ホラー映画もかくやと思われる状況だった。妙な緊張が走った。


 「と言っても、見えるように仕掛けたんですけどね」

 「鹿野、これは一体・・・・・・」

 「先生、全然気づいてくれないんだもんなー」

 「気づく?」


 目の前まで、鹿野がゆるりと歩いてきた。彼女は普段通り微笑みを絶やしてはいなかったが、気のせいか、困ったような顔をしている。

 言葉の意図が汲みとれず、そのまま返してしまう。


 「先生、好きです」

 「そうか」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・?」


 彼女の口から深いため息が出た。そこには、呆れたような、はたまた、諦めの念が含まれているように感じた。


 「今の告白ですよ、先生」

 「は、告白?」


 思わず鹿野の目を見る。さっと、逸らされた。彼女の頬が、ほのかに赤みがかっているのがわかった。

 告白。彼女はそう言った。その言葉が指し示す意味とは、疑いようもなく、愛の告白だろう。しかし、辛うじてそう認識できたからといって、それを理解できたというわけでは、決してなかった。


 「こ、これ、何故同じ参考書を二冊も? それに、君はこれをかなりやり込んでいるようだが。これなら、質問なんてする必要なかったんじゃないのか?」


 どう返答していいかわからず、我ながら恐ろしく的外れなことを訊いてしまう。


 「先生に質問するために、わざとわからない振りをしていました。新しい参考書も、そのために。私が本来持ってた物は、少し年季が入り過ぎてたので」

 「何故そんなことを」

 「先生と二人きりになるために、です」


 身も蓋もない物言いとはこのことだろうか。雪崩のように殺到する新たな情報に、押し黙る他なかった。そして、衝撃の事実であると同時に、すっかりと腑に落ちた。砂の山が風に吹かれたように、これまでに抱いてきた疑問が吹き飛んでいく。

 

 「それで、返事はどうですか? やっぱり、女同士は嫌ですか?」


 いつまでも口を開こうとしない私に痺れを切らしたのか、鹿野は固い調子で言った。緊張を感じさせる、強張った口調だった。


 「いや、そうじゃない。君が、その・・・・・・女性を好むことについては、大いに結構、それは個人の自由だ。しかし、私は教師で、君は生徒だ。だから・・・・・・」


 思い浮かぶ言葉の数々から、慎重に選ぶ。繊細な物事において、注意は払わなければならない。


 「すまない。君の想いに報いることはできない」


 頭を下げる。これが、出来る最大限だった。鹿野はどんな表情を浮かべているだろうか。冷たい床を見つめながら、そんなことを思った。私には、それがどんなものであれ、見る義務がある。決断的に、頭を上げる。

 その瞬間、彼女の目が私の目を捉えた。意外なことに、彼女の目、表情にはどこか、強い意志のようなものが見受けられた。


 「生徒と教師だからですか?」

 「え?」

 「だから、生徒と教師という関係だから、付き合えないってことですか?」

 

 彼女が一歩詰め寄った。


 「それは、まあ、そうだな。教師と生徒がそういう関係になるのは、あまり褒められたことではない」


 言っていて、疑問に思う。

 はたして、本当にそういう問題だろうか? 


 「実は、私、同性を好きになったのは、先生が初めてなんです。今までそんなこと全然なかったのに、先生だけは特別というか、自分でもよくわからないんですけど、とにかく、理屈抜きで、先生が好きなんです」


 二歩三歩四歩と、鹿野が迫ってくる。その勢いに気圧されて、私もそれに合わせて後退する。


 「私、諦めません。教師と生徒がダメだって言うなら、卒業するまでずっと先生を好きでいます」

 「いや、いやいやいや、鹿野、ちょっと落ち着きなさい」

 「落ち着いていますよ、私は」

 

 鼻息の荒さから、彼女が落ち着いていないのは明らかだった。

 彼女の手が、私の手を包み込むように添えられた。緊張しているのだろう、手汗が滲んでいた。


 「あと一年と少しで、私は卒業します。その時、もう一回先生に告白します」

 

 鹿野が語ったのは、一年も先のことだった。私にとっての一年はさほど長くないが、彼女にとっての一年は長い。その間に考えが変わる機会などいくらでも転がっているだろう。それでも彼女は、それが確定した未来であるかのように話している。


 「まず間違いなく、私は断るだろう」

 「そうならないように努力します、これから」

 

 間髪入れずに帰ってくる返答に、彼女の意志の固さの程が窺えた。


 「・・・・・・例えば、その一年のうちに、私が誰かと結婚したとしたら、どうする?」


 先日の母とのやり取りを思い出しながら、彼女には酷なことをしていることを承知の上で、私はそう切り出した。 


 「いえ、それだけは絶対にあり得ません」


 意外にも、彼女は動じることもなく、そう言い切った。


 「絶対って、何故そう断言できる?」

 「根拠はありません。ただの、私の願望です」


 それでも。

 彼女は続ける。


 「それでも、あり得ないんです。先生が結婚するなんてことは」







 「ただいま」


 またいつものように、誰も待ってなどいない家へと帰る。心なしか、普段よりも空気が冷たく感じられた。

 脇目も振らずにダイニングテーブルへと向かい、手に持っていたビニール袋を置いた。今日の夕飯はトンカツ弁当だ。あまり食欲が湧かなく、しばらく虚空を見つめていた。

 頭に浮かぶのは、やはり、鹿野のことだった。

 彼女の想いもさることながら、断ってもなお迫り続ける、その情熱には驚かされた。

 そんな彼女だからこそ、早く諦めてもらわなければならない。妙な期待をさせるのは酷だ。しかし、どうやって諦めてもらおう。あの様子だと、そう簡単にはいかないだろう。

 

 「・・・・・・」


 ふと、彼女と私が付き合うという可能性について考えてみた。

 大学生になった彼女と、依然として教師を続ける私。

 仕事が終わり、疲れ切った体を何とか家へと運ぶ。途中、弁当を買う必要はない。家に着くと、窓から光が漏れ出ている。それと一緒に、夕飯の良い匂いが漂ってくる。私は途端に幸福感でいっぱいになる。ドアを開き、「ただいま」と言うと、「お帰りなさい」と返ってくる。直後に、あの軽やかな足音とともに、彼女が笑顔で出迎えてくれえる。冷たい空気など微塵も感じさせない世界が、そこにはあった。

 意外なことに、それはすんなりと想像することができて、とても魅力的なことに思えた。

 いや、なにを馬鹿なことを。あまりの寂しさに、気が触れてしまったのか、私は。

 突如として思い浮かんだ妄想に、私は仰天した。落ち着きを取り戻すべく、煙草を取り出した。


 「私嫌です。先生が煙草吸うの」


 いつかに言われた、彼女の言葉が木霊した。

 気にする必要はない。彼女が嫌がるから何だと言うのか。それどころか、このまま吸い続ければ、私への愛想が尽きて、あっさりと身を引いてくれる可能性が上がるかもしれない。


 「・・・・・・」


 逡巡の後、私はそれをケースごとゴミ箱へと放り投げていた。弧を描き、それはきれいにゴミ箱へと収まった。

 孤独、焦り、鹿野、幸せ、二人。自分の息遣いのみが聞こえる環境は、様々な考えを増幅させる。何が正解なのか、私にはわからない。疲れているせいかもしれない。だから、今だけは、自分の心に正直になってみよう。

 冷たい部屋の中、先ほどの妄想を反芻し、その温もりをいつまでも味わっていた。

 


 





 

 





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