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第一部 Tフィル文芸団(2)

「春号」の次は「夏号」。

Tフィルが出す雑誌は季刊誌だった。ということは、次の雑誌が出るまで3か月。雑誌に投稿するとなったら、書く期間は2か月しかない。その中で、僕も「夏号」の幹部に選ばれた。「春号」の作成に少しかかわったことが影響していた。


「夏号」の主幹は古井。彼が掲げた特集テーマは「子供たち」というものだった。文学における子供。もしくは、子供時代。抽象的に「子供たち」といっても、古井にはある具体的なポイントがあった。子供から大人になるにつれて、失われたもの、失わなかったもの、そういう「大人」や「青年」との対比においての、「子供」という時代や概念を再考してほしいということだった。

素晴らしい企画だと思った。ちなみに、古井を主幹とした「夏号」の幹部メンバーは、そのほとんどが「反文学」の連中になった。ついに、「反文学」が(僕を媒介として)Tフィルの中心の流れにきた、という感じが内からも外からも見て取れた。


 「反文学」はそれくらい日頃から連絡を取り合う仲だったので、雑誌を作る過程でもスムーズに進むだろうという甘い推測があったのだ。しかし、それは大きな間違いだった。


 僕は、4月に「春号」が出てから、少し疲れた。四月は本を読むことに集中し、四月の終わり頃に開かれた春号の合評会で、先ほど言ったようにこてんぱんにやっつけられた。それもあって、五月は少しTフィルから離れて一人で活動をすることが多くなった。


僕自身の活動は6月に入ってからようやく腰をあげた。創作活動もそうだし、反文学の連中との、「夏号」に向けての準備だの読書会などがようやく始まっていった。


 「夏号事件」――。僕はそれをうまく思い出す、あるいは上手に語ることはできない。なぜなら夏号事件で僕は一度Tフィルを離れたからだ。幹部メンバーからの信頼を失って、さらにゴタゴタを起こしてしまったメンバーとの不純さを引きずって、おそらく僕は「悪」として一度Tフィルから追放されたのだから。


 それでも経緯を最初から申し訳程度にかいつまんで話をすると、とにかく5月は僕も怠惰に初夏の暑さにやられながら書けもせずダラダラと時間を過ごした。僕以外の反文学の連中は時々コンタクトや会議をやっていたのかもしれない。そういえば4月に勢いよくベンヤミン読書会をやろうともちかけて、中途半端に終わってしまったことがあった。僕自身の収穫はあっても、他の反文学の連中が微妙な空気を醸し出していた。それで僕は部誌の幹部メンバーにもなっている反文学の連中ともコンタクトを遠ざけている日々があったのだ。

 それでも6月になると創作意欲も芽生え、あまり覚えていないがとにかく一本のホラー短編小説を書いた。詩も書いたと思う。自分の創作は自分の責任の範囲内でうまくいった。

 しかし、そこからが問題だ。端的に言うと、僕はヤケドと喧嘩を起こしてしまったのだ。ヤケドはそのいつもの不用意に人を不快にするような言説で、僕の編集態度を責めた(言葉があいまいで申し訳ない、本当に事がどのような経緯だったのか多分居合わせていたTフィルメンバーにも朧げにしかわからないのだ)。僕はすぐさまTwitter上でヤケドをブロックした。すると今度は、Skypeの方で、俺へのブロックはやめてくれ、差支えが出るから、と言ってきた。僕はその前に、言うべきことがあるだろ、と頑なに拒否をした。その前に言う事って? ヤケドは自分の攻撃性に鈍いようだった。

 僕は傷ついていたのだ。確かに自分の5月からの怠惰性を引きずった編集態度は緩慢で、メンバーにメッセージを送るときなども精彩を多く欠くようなところがあった。それでヤケドに体当たりしたということはないが、しかしなぜヤケドと喧嘩が起こったのだろう。とにかく気が付くと、事態は僕とヤケドの問題だけではなく、Tフィルみんなの問題になっていた。

 今回の夏号の発案者でありリーダーでもある古井が僕に言った。「何があろうと、メンバー同士で頑なにブロックをすることは許されない。TフィルはTwitterやSkypeを起点としてネットを活かした交流をするところで、TwitterやさらにはSkypeをブロックしたのでは、同じ編集メンバーのmistyさんとヤケドさんとで仕事ができなくなる。これはサークルとしての警告。それから、mistyさん、あなた感情的なことをTwitterにぶちまけたでしょう。Twitterは多くの人が見てるんですよ? 今回のあなたの騒動は、いろんなメンバーを不安にしました。そういうことは二度とやっていただきたくない」

 僕は震える手でDMを送った。「僕は、自分のしたいことをしたまでです。Twitterで自分の意見が自由に呟けないなど、論外だ。僕は、幹部を外れます」


 このとき古井もその文章上から熱気高くしているのが伝わったのだが、彼が行った事はこうだった。「私は今回のことで、あなたに対する信頼を失いました。今後、あなたとはメンバーとメンバーが行う最低限のやり取りだけします。友人関係としてのあなたとは、もう終わりです!」


 そして僕は事実的にも、夏号編集を放棄し、一人また闇の中に戻っていったのであった――。

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