いただきます
初投稿です。よろしくお願いします。
「あ、早瀬くんおかえりー」
文芸部と書かれたドアを開けると、穏やかな声と小柄な背中が僕を迎える。
「買い物、意外と早かったね?」
読んでいた本を閉じると、ことりと首をかしげる。胸まであるストレートがさらりと揺れた。
僕はコンビニで買ってきた袋をガサガサと探ると、ゆっくりと先輩に見えるようにお目当ての品を取り出す。
新発売のイチゴミルクキャラメルプリンだ。つけてもらったプラスチックのスプーンも取り出し、包装を破いてさあ食べようと……。
じぃー。
「……先輩? 食べたいんですか?」
視線の主はハッとすると、オロオロと目線をさまよわせる。
「いや、別に! 早瀬君が食べなよ!」
とか言いながら、しばらくするとチラチラとこちらを見てくるのだ。
普段は落ちついて大人っぽい先輩は、実は甘いものに目がない。本人は上手く隠していると思っている様だがバレバレである。今も若干興奮してるし。
「実は一つ余計に買ってしまったんです。先輩もいかがですか?」
「!……良いの?」
もう一つ袋から取り出して先輩の前に置くと、瞳をキラキラと輝かせる。こういう時は外見相応に子供っぽくて微笑ましい。
「むぐっ。は、早瀬くん! 私は余りものを食べてあげてるだけなんだからね!!」
僕からの生暖かい視線に気づいたのだろう、慌てて主張してくる。
幸せそうにプリンを頬張りながら上目遣いでむくれられてもなぁ……。
「はいはい、そしてたくさん食べて僕の身長を超えるんですよね。しっかり頑張って下さいね」
こんなんだから甘党でも無いのにコンビニの常連客になってしまうんだ。
「あ、クリームついてるよ?」
「 っと、すみま、」
せん、と言いかけてピシッと固まる。ダークブラウンの瞳がスレスレに近づいて、離れていった。
目を見開いた僕の間抜け面を眺めながら、当人はすくいとったクリームを舐めて首をかしげているが……。
何が「ん、美味しい」だ! 人の気も知らないで。
「……行儀悪いですよ」
「何照れてるの? 後輩くんのお世話をするのはあたりまえでしょ?」
ほっぺたについたクリームをなめとるのもお世話に入るんですか、とは聞かない。いや、聞けないが。
「せ、先輩からの大サービスなんだから! ありがたく受け取っときなさい!」
顔真っ赤にしながら言われてもなあ。何この可愛い生き物?
「あ、わ、まだ早瀬君のプリン残ってるよ! いらないの?」
あまりにも強引な話のそらし方に思わずくすりと笑いがこぼれる。
「あ、また人のことバカにしてー!」
「いえ、そんなことは。全部味わって頂きますから大丈夫です」
何を、なんて言わないけれど。
「先輩こそ途中じゃないですか。食べてあげましょうか?」
「んー、食べきれなかったらもらってね?」
そう言って先輩はへらりと笑う。
「ええ、そうします」
言われなくたってそのつもりだし。
全部食べてあげますよ。残らずに、ね。
ありがとうございました。