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96話 エリシアと……(1)

「……」


「……」


「あら、レディウスの料理美味しいわね」


 1人黙々と、俺が作った朝食を食べる姉上。今日の料理は野菜炒めと黒パンだけだが、姉上は特に気にした様子もなく俺の野菜炒めを美味しそうに食べていく。


 俺も美味しそうに食べてくれるのは作った身としては嬉しいが、姉上がここに来た理由を確認しないと。


「姉上。今日ここに来たのは……」


「ええ。国王陛下がレディウスには話していると言っていたけど、別れる前に会えるように手配してくれたのよ。今日を逃したら、当分……いえ、これが最後かも知れないからね」


 そう言い悲しそうな顔をする姉上。……そうだよな。姉上たちは国外追放だ。二度とこの国には戻って来られない。俺がこの国を出ない限り二度と会う事は出来ないだろう。


「だから、国王陛下が朝早くに馬車を出してくれたのよ。一緒に過ごせるようにって。学園の方には国王陛下が使者を出しておいてくれるそうだから気にしなくて良いって」


 それ有難いが、その内学園長に殴られそうだな。3日後にはまた学園には来なくなるし。


 でもそういう事なら、俺も姉上と過ごそうと思うのだが。そして、そこに合わせるかのように


「レディウス様。私はクルトの様子を見て来ますね」


 と、ロナが笑顔で言って来た……ロナに気を使われてしまったな。申し訳ない。


「ありがとなロナ」


 俺がお礼を言うと、ロナは笑顔で首を横に振る。本当にありがとう。


 それからは、3人で朝ご飯を食べてから、俺は着替えていた制服から私服へと着替える。ロナはその間食器を片付けてくれて、姉上はロポと遊んでいた。


「それでは、私は行って来ますね」


「ああ。門番の人に俺の名前を伝えたら取り次いでくれる筈だから」


「わかりました!」


 そして、ロナはロポを連れて王都へと向かった。さてと、俺たちはどうしようか。


「姉上。俺たちはどうしますか?」


 取り敢えず今日1日は自由にして良いそうなので、姉上と一緒に過ごそう。姉上もそのつもりのようだし。


「その前に少し話しがしたいのだけど、良いかしら?」


 だけど、姉上はその前に何か話したい事があるようだ。3人で朝ご飯を食べた机に座るので、俺も対面に座る。一体何の話だろうか?


「まずは、ごめんなさい」


「えっ? どうして姉上が謝るのですか?」


 話し始めたと思ったら、姉上は急に謝って来た。どうして姉上が俺に謝ってくるのかわからずに戸惑っていると、


「バルトの事よ」


 と、謝って来た理由を教えてくれた。なんだ、バルトの事か。


「別に姉上が謝る事ではありませんよ。悪いの全てあいつなのですから。それにそれ相応の罰も受けるのです。もう俺は気にしていません。ロナたちも無事でしたから」


 俺は姉上に笑顔で伝える。バルトに対してだったらいくらでも腹が立つだろうが、全く無関係の姉上には何も思わない。逆にあの阿呆のせいで、姉上には申し訳ない気持ちで一杯だ。


「逆にすみません姉上。俺とあいつのせいで、姉上の人生もメチャクチャにしてしまって。ウィリアム王子との婚約も無くなってしまって……」


 バルトやグレモンド男爵に夫人がどうなろうと、俺からしたらどうでも良いのだが、姉上だけは別だ。昔から俺を助けてくれた大切な家族だからな。だけど、姉上は首を横に振る。


「ふふ、その事はもう良いのよ。私も乗り気では無かったし。そうだ。レディウスは私が学園を卒業したら、何をしようと思っていたか、知っている?」


「姉上がですか? いえ、知らないですが?」


「私はね、冒険者になろうと思っていたの。あの頃はまだレディウスが生きているって知らなかった時でね。亡くなったレディウスの代わりに私が冒険者になって、色々な土地を見て回るんだって思っていたのよ」


「そうだったのですか」


 それは初耳だったな。それに俺の代わりか。確かに死にかける前はそんな事も考えていたな。冒険者になって世界を見て回りたいって。


「だから、アルバスト王国を出たら、どの国に行くかはわからないけど、取り敢えず冒険者になろうと思っている。お父様やお母様を養わないといけないしね」


 ……そうか。あの2人も当然ついて行くから、その分も稼がないといけないのか。姉上もだけど、それ以上にあの2人は生粋の貴族だ。2人だけでは平民として暮らしていけるわけがない。姉上がいなければ野垂れ死ぬだろう……ん? 誰か足りない……あっ!


「姉上、ミアの事を忘れていますよ。ミアも当然連れて行くのですよね?」


 クルトは少し可哀想だけど、ミアは姉上について行くだろう。今までずっと一緒にいたんだ。ミア本人が付いていく筈だ。そう思っていたが


「いいえ。あの子は連れて行かないわ。昨日ミアにも話して解雇しましたから」


「はっ?」


 姉上の口からとんでもない話が飛び出して来たぞ。ミアを連れて行かないのか?


「ミアを解雇した理由は?」


「レディウス。こんなお願いは甘いと思っているのだけど、ミアの事をレディウスのところで雇って欲しいの」


「俺のところで?」


「ええ。私たちについて来て苦労させるより、あなたの元にいて、好きな人と一緒にいる方が、ミアもずっと幸せだから」


「好きな人ってもしかして……」


「ええ。ミアもクルト君だっけ? 彼の事を少なからず良く思っているわよ。私の手紙をお願いした時は喜んで行ってくれるし、帰って来たら話をしていたのだけど、出てくる話は殆どクルト君の話ばかり」


 その時の様子を思い出したのか、可笑しそうに笑う姉上。そうか、ミアもクルトの事を良く思っているのか。それは良かった。俺も思わずにやけてしまう。


「だから、ミアの事をお願い。こんなお願いをするのはおかしいのはわかっているのだけど」


「そんな事はありませんよ。わかりました。そういう事なら責任持ってミアを雇います。俺の大切なもう1人の姉でもありますからね」


 そう言って俺が微笑むと、姉上もクスクスと笑う。やっぱり姉上は笑っている方が綺麗だ。


 そんな風に2人で話していると、村の方もみんなが起き出して、働き出す時間帯へとなっていた。


「姉上これからどうしますか? 今日1日は一緒にいられるとは言っても、時間は限られていますからね」


「そうね。王都の方もこれから店を開ける時間帯だから、これから王都に向かえば丁度いい時間帯かもしれないわね。レディウス。今日は私とデートしましょう」


「デートですか?」


「ええ。今日1日はレディウスは私の大切な彼氏。私はあなたの大切な彼女。これで行きましょう!」


 そう言い姉上は俺の右腕を抱きしめてくる。ヴィクトリア程ではないが、大きな胸に挟まる右腕。柔らかい。


「あ、姉上……」


「ストップ。さっきも言ったでしょ? 今日1日は彼氏彼女の恋人同士。私の事はちゃんと名前で呼んで、ね?」


 ああ、これはもう意見を変えない時の姉上の顔だ。昔も何度かこういう事があったな。なんだか懐かしい。よし! 男レディウス。姉上が楽しめるように頑張ろうじゃないか!


「わかりま……こほんっ、わかったよエリシア。一緒にデートに行こう」


 姉上の事を呼び捨てにするのはなんだか、物凄く恥ずかしかったが、言ってやった。姉上も頰を赤く染める。


「それじゃあ、行きましょう、レディウス!」


 そして、俺は姉上に手を引かれて外に出る。そして、外に待たされていた馬車に乗って王都に向かう。こうして俺と姉上のデートが始まったのだ。

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