79話 対抗戦(9)
「ちっ、氷の魔法ばかりうぜぇんだよ!」
私が放つ氷の槍を、悪態をつきながらも籠手に火魔法を流し、打ち砕いていく女性、アリッサ・バイクラム。彼女の独特な足捌きに少しやり辛い点もあるが、彼女は私が抑えなければ。
「アイスニードル!」
私は剣を地面に突き刺し、氷魔法を発動する。地面に魔力を流して発動。地面から氷の棘を出現させる。アリッサの周りに出現する氷の棘。
これなら避けられないだろうと思ったが、アリッサは足につけてある脛当てに魔力を流して
「うぜぇ!」
氷の棘を蹴り、折ってしまった。そして、折れた氷の棘を足場にして、私の下へ向かってくる。
「おらぁ!」
アリッサは、拳を固めて殴りかかってくる。なかなか素早い。私はあまり無手は得意ではないのだが、いざという時のために習っている。だが、彼女のは無手でこそ、本領を発揮出来るようになっている。無手で武器を持った相手を殺せるように。
「おらおら、どうしたお嬢さんよぉ!」
私は剣でアリッサの拳を逸らすが、かなり素早い。剣を振り下ろしても、籠手で塞がれ弾かれる。その隙に、回し蹴りが放たれ、私の脇腹へと入り込む。
「がはっ!」
左側から思いっきり蹴り飛ばされた私は地面を転がる。すぐに態勢を立て直すが、脇腹に鈍痛が走る。
アリッサの方を向くと、今度は首めがけて蹴りを放って来た。私は何とか右腕で防ぐが、右腕から嫌な音がする。そして再び吹き飛ぶ私。
「全く、何でランバルク様はこんな女が欲しいのかね」
呆れた声で呟きながら私の側まで寄ってくるアリッサ。私は左手で剣を持ち、アリッサに切りかかる。アリッサは慌てる様子もなく右腕で剣を掴む。
すると、剣が折れてしまった。よく見れば、剣の折れた箇所が赤くなっている。火魔法で熱して溶かして折ったのか。そして、私のお腹に左拳を入れる。
「がはっ、げほっ、げほっ!」
私はお腹を押さえてうずくまってしまう。切り傷とかは慣れているが、この殴られる鈍痛は全く慣れない。その上お腹がヒリヒリと痛む。火魔法のせいでお腹が焼けたようだ。
そして、うずくまっている私の髪を、アリッサは無造作に掴む。私を無理矢理立たせたいようだ。
「よく見ればムカつくほど綺麗な顔をしているんだね。私なんか、昔から訓練訓練ばっかで、体中傷まみれだって言うのに。そうだ。腹が立つからあんたの顔にも傷をつけてやるよ。それなら、ランバルク様もあんたの事諦めるでしょう!」
そして、火魔法を灯した左の籠手を私に近づけてくる。本当はかなり怖い。怖くて泣き叫びそうだ。だけど、ここでレディウスの言葉を思い出した。
『危ない時こそ冷静に』
レディウスが師匠から習った一つだと言う。私はこの言葉を思い出すと、すぅーと冷静になれた。そして、左手に持っている折れた剣に魔力を流す。普段はあまり使わない技だ。万が一の時のために考えていたからな。
私は魔力を込めた折れた剣を振るう。すると
「えっ?」
アリッサは驚きの声をあげて、胸元を押さえる。そこには、左下から右肩まで走る切り傷があった。胸元にあるバッチも一緒に切ってやった。アリッサは胸元から流れる血に驚いているようだ。
私は折れた剣を見る。折れた剣の先から氷の刃が出来ている。氷魔法、アイシクルブレード。
剣がない時に、木の枝などを強化できるように考えていた技だが、魔力の消費が大きいためお蔵入りしていた技だ。まさか、こんなところで役に立つとは。
「何とか倒した……げほっ!」
安心したら脇腹が痛み出した。私は片膝をついてレディウスを見る。レディウスはランベルトと打ち合っている。離れたところでは、ガウェインが寝転んでいる。フォックスは倒したようだ。
「ティリシア! 大丈夫ですか!?」
そこにヴィクトリア様がやって来た。
「ええ。大丈夫ですよヴィクトリア様」
「今すぐ治療するので動かないでください!」
ヴィクトリア様は私の下まで来てしゃがみ水魔法を使ってくれる。痛みが少しずつ引いていく。レディウス。あなたから教えてもらった言葉のおかげで勝ったぞ。私も治り次第に行くから頑張ってくれ!
そう思った瞬間、魔法が飛んで来た。あれはランバルクか! 狙っているのは当然ながら私を治療するヴィクトリア様だ。ヴィクトリア様は私に治療する事に集中して気が付いていない。
「ヴィクトリア様!」
私はヴィクトリア様を押し退け、ヴィクトリア様の盾になる。私たちに降り注ぐ数々の魔法。水の球が肩にぶつかり、風の刃が体を切り刻む。土の塊が体に刺さり、火の矢が体を焦がす。闇の球が鉛のように私を押し潰す。
数々の魔法がぶつかり、私は吹き飛んでしまった。体中が痛すぎてどこが痛いのかもわからない。胸のバッチも砕けてしまった。ヴィクトリア様が涙を流しながら何かを言っているが、私には聞こえない。
少し眠くなって来てしまった。レディウス。助けに行けなくて済まない。
明日で対抗戦が終わります。




