72話 対抗戦(2)
『Cグループ勝利チーム、カトプレパスチーム!』
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
開会式が行われてから2時間半程。試合は進んでいき、今Cグループの戦いが終わった。A、Bグループは合同学科の貴族のみで作られたチームが勝ち、Cグループは合同学科の貴族と騎士学科の混合チームが勝った。うちのチームと違うのは、その貴族と騎士が主従関係にあるところだ。
そして、次のDグループは、やっと俺たちの番になった。今は、準備室で各々が自分の装備を点検している。
「それじゃあ、確認するぞ。私とレディウスが攻め役、ガウェインとクララがヴィクトリア様を守る役だ。ヴィクトリア様も自分と私たちの誰かが危険になったら、迷わず私たちより自分を守って下さい」
「でも、それは……」
「良いですね?」
「……わかりました」
まあ、確かにこの試合はヴィクトリアがやられてしまったらおしまいだ。そのため、何としてでもヴィクトリアは守らないといけない。
『それでは準備が整いましたのでDグループの選手の方は入場して下さい』
作戦の確認をしていると、部屋内に放送とやらが流れる。これも魔道具らしい。本当に便利だなこれ。それを聞いたみんなが立ち上がり円を囲む。
ヴィクトリアが手を前に出し、それにみんなが右手を重ねていく。そして
「それではみなさん。ティリシアの為にも絶対に勝ちましょう!」
「「「「おおおぅ!」」」」
ヴィクトリアの声に合わせて、みんなで右手を空に掲げる。最低目標はランバルクたちに勝つ事だ。まあ、やるからには優勝を目指すが。俺たちはそれぞれの装備を持ち、会場に向かうのだった。
◇◇◇
「「「「ウオォォォォォォォォ!!!!!!」」」」
選手がそれぞれ入場すると、観客も大盛り上がりだ。やっぱり毎年恒例だから熱狂も違うな。さっきガウェインに聞いた話だが、最終日には国王陛下と王妃も見に来るらしい。
そのため、貴族の子息たちは何としてでも最終日まで残ろうと頑張る。国王陛下の目にとどまるように。最終日だけでなくとも、貴族の人や騎士団の人たちも見に来るので、その人たちの目にとまれば雇われる事もあるらしい。
この対抗戦で、将来が決まったりする事もあるらしい。それは商業科の人たちも同じだ。食べたり買ってくれたりした人が有名な人なら、周りの人も同じ物を買いたいという気持ちになる。
俺たちが行った店も同じだ。確かあの商品は「タコヤーキ」だったかな? 遠くの国から伝わった料理らしい。熱々だけど美味しくて、一口が小さいので食べやすい料理だった。
学園や貴族の中で有名なヴィクトリアが美味しいと言ったせいで、あの店は嬉しい悲鳴を上げていた。俺たちが来る前の不味いという声が、すっかりと忘れ去られる程に。
「……さまぁ〜、レ……ウ……さまぁ〜」
俺たちが訓練場の中を進んでいると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえて来る。だけど普通では顔がわからない距離なので魔闘眼を発動する。声のする方を見ればそこには
「レディウスさまぁ〜」
と元気よく手を振るロナの姿があった。隣にはクルトとガラナがいて、クルトのロナがいる方とは反対側には侍女姿のミアが座っていた。ロナの膝の上にはロポもいる。応援しに来てくれたのか。
俺が気が付いた事を教える為に、ロナたちに手を振ると、ロナの手の振りが早くなった。隣でクルトがガッツポーズをして、ミアが頭を下げて来る。これはみんなが見ている前で負けられないな。
「レディウス、あの子誰だよ? お前の妹か?」
俺が手を振っていると、隣でガウェインがそんな事を言ってくる。同じ黒髪だからか妹と勘違いしているようだ。
「違うよ。彼女は俺の弟子だよ」
俺がそう言うと、ガウェインはニヤニヤしながらロナとの関係をしつこく聞いてくる。何だよ急に。
「ガウェイン。今は対抗戦に集中して下さい」
すると、ヴィクトリアに怒られてしまった。バカだな、ガウェインは。
「レディウスもです!」
……何故か俺まで怒られたではないか。ガウェイン、許すまじ。
『それでは、選手が揃いましたのでDグループ準備を始めて下さい!』
グループ戦は時間短縮のためにチーム紹介とかは無いと言っていたな。あるのはトーナメントかららしい。正直あっても無くっても良いのだが。
Dグループも俺たちのチーム以外は全てが合同学科の生徒で作られたチームだ。まあ、合同学科の方が人数が圧倒的に多いからな。仕方がないが。うちぐらいじゃないのか、騎士学科の方が人数が多いのは。ヴィクトリア1人だけだし。
向かいのチームは、屋台のタコヤーキのお店で出会ったゲヒン・バーンだのいるチームだ。それ以外のチームはわからないが、全員が全員、俺たちに対して敵意を持っているのがわかる。
「ガウェイン、これって」
「ああ、やばいかもな。ティリシア……」
『それではDグループ始め!』
ガウェインも気が付き、ティリシアに声をかけようとした瞬間、司会が対抗戦開始の合図をする。それと同時に放たれる魔法。
今までの試合では、それぞれのチームが牽制しあって膠着状態が続いたりしたのだが、今回はまさかの開始早々魔法を放つという。
しかも、1チームだけではない。他の3チーム全てが俺たち目掛けて魔法を放って来たのだ。普通のチームならこれだけで終わりだろう。だが
「光魔法、シャイニングウォール!」
「氷魔法、アイシクルウォール!」
ヴィクトリアが即座に光魔法で光の壁を作り出す。それに重なるようにティリシアも氷の壁を作り出した。二重の壁にぶつかる魔法たち。様々な魔法がぶつかり煙が立ち込める。
「やったか!?」
煙の向こうからそんな声が聞こえてくる。しかし、3チーム共がこっちを狙ってくるってことは、誰かから頼まれたのか? まあ、俺たちが脱落して喜ぶのはあるチームしかいないのだが。
今回の試合は貴族関係なく怪我をさせても良い事になっている。優秀な水魔法師がいるらしく、死以外の傷は全て治せるらしい。そのため、命に関わらない怪我なら、させても良いというとんでもないルールになっている。
これに関しては国からも許可が出ているので貴族たちも何も言えない。それどころか自分たちも通って来た道なので、逆に認めている部分もあるそうだ。
俺たち自身も、出場前には誓約書を書かされるしな。出たくない人は出なくても良いらしいし。まあ、この対抗戦の結果によっては名が売れるので、そんな人はいないらしいが。
観客の方にも魔法がいかないように障壁が張られているから、それも遠慮なく魔法が放てる理由の一つだな。この障壁より外に出ても負けだそうだ。
「ここは、俺1人で出るから、みんなはヴィクトリアを頼む」
「わかった。頼むぜレディウス!」
「頼んだぞ、レディウス」
「怪我はしないで下さいね!」
「頑張るんだよ!」
ガウェイン、ティリシア、ヴィクトリア、クララの順に後ろから声をかけられて俺は走り出す。
本来ならティリシアも攻めるのだが、3チームが相手なら防御を固めた方がいい。これは前もって話していた事だ。まさか、本当にこうなるとは。ティリシアの予想通りだな。
俺は腰から二本の剣を抜き、煙から飛び出す。まずは近くにいた右側のチームからだ。右側のチームは男3人、女2人のチームになっている。リーダーバッチを付けているのは、奥にいる女だ。
男たちは煙から俺が飛び出したのに驚いていたが、そのリーダーを守るように剣を構える。だけど、腰が引けて構えも悪い。
2人の女生徒は俺に向かって魔法を放ってくるが、俺は避ける。そして男たちに近づき剣を弾くと、手からすっぽ抜けてしまった。もう少ししっかりと握っておけよ。
俺は戦意喪失した男たちの横を通り抜け、女生徒のの喉元に剣を突き立てる。女生徒もへなへなと座り込んでしまった。俺は右手の剣を地面に刺し、女生徒のリーダーバッチを取る。これで1チーム脱落だ。そこに
「あいつを狙え! 今がチャンスだ!」
と男たちの声がする。俺たちのチームの左側、今俺がいるところの反対側にはいるチームの男だ。あそこは全員が男で、リーダーバッチを付けた男が大きな斧を担いで、一番前に立っている。
そして、俺の方を指差しながら魔法を放つように指示をしてくる。周りの男たちは躊躇いながらも腕を俺の方へと向けてくる。
「お前ら、早く障壁から出ろ!」
俺はへたり込んでいる女生徒たちに声をかけるが、それと同時に魔法を放って来た。ゲヒンの方もだ。仕方ない。俺は二本の剣を魔闘装する。そして魔闘眼で魔法の少ないところを狙い
「風切!」
斬撃を放つ。へたり込んでいる生徒たちに当たりそうな魔法だけを狙って切り落とす。俺の斬撃が当たった魔法は霧散していく。
魔法を防いでいると、魔法が来なくなったためティリシアが反撃に出た。
「穿て、アイスランス!」
斧を持った男のチームにティリシアは氷の槍を放つ。直径1メートルほどの槍が、斧を持った男たちの方へと降り注ぐ。男たちも火魔法のファイアウォールで防ぐが、火の壁すらも突き破り降り注ぐ。本来なら溶けるはずなのだが……。
でもまあ、結果オーライだ。魔法が止んでいる今、次のチームに行かなければ。次は俺のチームの向かい、ゲヒンがいるチームだな。もう一つのチームはティリシアが抑えてくれているから。
「ひ、1人来たぞ!」
「くそっ、予定と違うじゃねえかよ!」
「狼狽えるな! とにかく奴を狙って魔法を放て!」
ゲヒンたちも男だけで出来たチームだが、どこか纏まりが無い。即席か何かなのか? まあ、俺には関係ないが。
リーダーバッチを付けているのはゲヒン……ではなくその後ろにいる男生徒だ。しかも他の4人と比べて落ち着いている。
俺は向かってくる魔法を切りながら突き進む。まずは目の前にいる男のバッチを切る。男はいつ切られたかわかっていない。ただ落ちるバッチを見るだけだ。
その男の横を通り過ぎ、リーダーバッチを付けた男に切りかかると
ガキン!
と剣で塞がれた。防いだのは当然リーダーバッチを付けた男だ。このリーダーは実力を持っているらしい。楽しめそうだな。




