51話 呼ばれた理由
よろしくお願いします!
「やっぱり賑わっていますね〜」
馬を走らせて20分ほど。王都の中を歩いている俺の感想だ。戦勝パレードをやっていたのは知っていたが、まさか国から食事や酒が出ているなんて……。俺たちを止めた兵士め。許せんぞ!
「ああ、ちゃんと死壁隊の奴らのところにも食料は運ばれる。だからそんな殺気を出すな」
俺が心の中で兵士に向かって怒っていたら、俺を呼びにきた兵士、マグロスさんがそんな事を言ってくる。殺気が出ていたか。落ち着け俺。
「わかっているとは思うが、犯罪者たちを街の中に入れるわけにはいかなかったからの処置だ。わかってくれ」
「わかっています」
それから、街の中を30分ほどかけて歩く。街の中は屋台がたくさん出て馬では走れないから門のところに預けたしな。
そして案内されたのが王宮だ。なんでも近衛騎士団と将軍クラスの部屋は他の軍の詰所とは別に王宮内にあるらしい。
王宮の中に入ると、中は侍女や文官たちが走り回っていた。今日の祝勝会の準備のため、走り回っているようだ。王宮の中にいる兵士たちもピリピリとしている。
それも当然か。祝勝会には貴族たちも集まる。何かあったでは兵士たちの首が簡単に飛んでしまうからな。
「マグロスさんは、警備とかしなくていいんですか?」
「私はケイネス将軍の補佐だからな。こういう警備は今はしていない」
「……それはすみません」
やっちまった。物凄く失礼な事を言ってしまったぞ。周りの他の兵士は苦笑いだ。そのまま気まずい雰囲気の中王宮内を進む。
気がつけば、俺とマグロスさんの2人になって更に気まずくなった。何故一言も話してくれないのだろうか。そうは思うが、俺からは話しかけ辛いし。結局2人とも一言も話さないまま目的の場所へと着いた。
マグロスさんが扉の前に立つ兵士に声をかけると、兵士の人は中を確認する。そして許可が出たので、マグロスさんと一緒に部屋に入ると、そこには
「よく来たね、レディウス君」
1番奥の席には笑顔でレイブン将軍が座っていた。他には俺を呼んだケイネス将軍に、その向かいには熊みたいな大きな人が座り、ケイネス将軍の隣にはミストリーネさんが座っていた。……なんだこれ。
「久しぶりだね。君に会うのは1年ぶりくらいか」
「……そうですね」
俺の気も知らないで、レイブン将軍は話を進めてくる。そこに
「なんだ、おやっさんはこの小僧と知り合いなのか?」
熊みたいな人がレイブン将軍にそんな事を尋ねてくる。おやっさんってあんた……。いや、ここにいるから偉い人なんだろうけど。
「ああ。彼はミストレア様の弟子でね。ミストレア様が認められる程の実力を持つ」
「へぇ〜」
レイブン将軍の話を聞いた熊みたいな人が、俺の方を見てニヤリと笑う。物凄く寒気が走ったのだが……。ケイネス将軍とミストリーネさんも驚きの表情を浮かべる。ミストレアさんってそんなに有名なのか。
「私と打ち合うことが出来るので不思議に思っていたのですが、成る程ですね」
「おお、ミストリーネとも戦える程の実力か! 確かにそれは欲しい人材だ!」
そう言い立ち上がり俺の方まで歩いてくる熊みたいな人。で、でけぇ。ガラナよりでかいぞ。2メートル超えてるんじゃないのか?
「俺の名前は、ブルックズ・ヘルムントだ。この国の近衛騎士団の団長をしている。よろしくな!」
そう言い俺の背中をバシバシと叩いてくる熊みたいな人、ブルックズ騎士団長。それじゃあ、この人がウィリアム王子の同年代にいるグラモアの父親か。ってか、背中痛いって!
「お、俺の名前はレディウスと言います。よろしくお願いします」
俺が挨拶するのを見計らって、席に座るよう進められる。ブルックズ騎士団長は上機嫌に席に戻っていく。俺は戸惑いながら席に座るが、一体何の用で呼ばれたのだろうか。
「まずは君にお礼を言っておこう。君のおかげで戦争は負けずに済んだと聞いた」
「いや、別に俺のおかげでは無いと思いますが」
俺がそう言うと、みんなが笑い出す。なんなんだよ。
「ケイネスから話は聞いているよ。いくら細い山道だからと言って、何千という兵士をそこに押し留める事なんて出来ない。その時間が無ければ、兵士たちの被害はかなり多かったと聞く。下手すれば負けていたとも」
「評価は良いも悪いも素直に受けていた方が良いですよ、レディウスさん」
ミストリーネさんがそんな事を言ってくる。少し過大評価し過ぎな気もするがここは受けておこう。
「わかりました。それで俺をここに呼んだ理由は?」
「ああ、君をここに呼んだ理由は、君の力を見込んで
近衛騎士団に入団しないか誘おうと思ってね」
「近衛騎士団ですか?」
俺は呟きながらブルックズ騎士団長の方を見る。俺が見ている事に気がついたブルックズ騎士団長は頷いてくる。間違いでは無さそうだ。
「近衛騎士団の仕事は王宮内の警備、貴族たちの護衛と様々だが、ただの兵士たちでは務まらないのだよ。それにどうしても貴族相手にするので、礼儀作法がある程度出来ていないと困るので、貴族の子息などが入るのだが……ねえ」
「最近の奴らは、箔をつけるために入って来やがる。だから実力のねぇボンボンが増えて仕方ねぇ」
ブルックズ騎士団長ははぁ〜と息を吐きながらそんな事を言う。結構辛辣な事言っているぞ。
「でも、なおさら俺なんかが入らないでしょう」
「そこは大丈夫だ。君の人となりはリーネから聞いているし、ミストレア様の弟子なら貴族たちが文句を言わない程度の礼儀は備えているだろう。あの人そういうところも結構厳しいからね」
確かに色々と言われた記憶はあるな。朝の挨拶とか忘れたらその日の修行が厳しくなったし。レイブン将軍も弟子だったから、同じ様にされたのだろう。何処か遠い目をしている。
「それに、軍のトップである私と近衛騎士団長であるブルックズの許可があれば誰も文句は言えないさ」
うわぁ〜、物凄く悪い顔をしているよこの人。だけど、お偉いさんの目に止まるのは良かった。今後のためには受けておくべきか。
「わかりました。そういう事であるのなら受けます」
「それは良かった。では早速話に入りたいところなのだが、私たちは今から祝勝会に参加しなければならなくてね。その準備をそろそろ始めなければならないのだよ。申し訳ないが、説明についてはマグロスから聞いてもらえるかい?」
「わかりました」
それから俺は部屋を出てマグロスさんと別の部屋に行く。そこで色々と話を聞いて、数日以内に迎えを残すから例の廃村にいて欲しいと言われた。俺は特に問題が無いので承知する。
そんな色々な話を2時間ほどされてようやく終わった。マグロスさんも祝勝会の警備に当たっているらしく部屋のところで別れた。このまま1人で王宮内をあるけば不審者になるので、関係者の証明になるバッチを渡されたが。
「もう祝勝会は始っている頃か」
空はもう暗くなっており、辺りは静かだ。街の方はかなり明るいのだが。みんなも美味しいもの食っているんだろうな。今から走って帰れば間に合うかな? そんな事を思いながら王宮内を歩いていたら
「うわっ!」
「きゃあ!」
曲がり角で誰かとぶつかった! 俺はなんとか耐えられたけど、ぶつかった相手が尻餅をついてしまった、って女性じゃ無いか! ま、まずい!
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は翡翠色のドレスを着た金髪のふわふわした髪をした女性に話しかけるが、女性は尻餅をついたまま動かない。どこか痛むのかと思っていたら
「……ぐすっ……」
顔を俯かせながら泣いていたのだった。……これはまずいのでは無いか?




