36話 誤解でした
「問答無用です」
そう言い剣で切りかかってくる騎士の人。ってめちゃくちゃ速い! 俺は咄嗟に転がる様に横へ飛ぶ。あ、危ねぇ〜。ミストレアさんの修行を受けてなかったら頭が真っ二つになっていたぞ。
周りの騎士たちは俺が避けた事に驚いているが、驚いている暇があったら助けて欲しい。俺は無実だ!
「……まさか避けられるとは思いませんでした。中々の実力者の様ですね。まさかあなたが盗賊団の頭ですか?」
そう言いながら突きの構えをしてくる騎士の人。駄目だ、完全に勘違いをしている。こんな若い盗賊の頭がいるわけないじゃないか。
「違います! 俺はただの一般人です!」
俺がそう言おうとも
「悪い人はみんなそう誤魔化すのです。今ならまだ遅くありません。あなたはまだ若いのですからやり直せます。さあ、投降して下さい」
くそっ、本当に話を聞いてくれないなこの人は! こうなったらやるしか無いのか。俺は剣を構える。その事に首を振る騎士の人。
「……そうですか。歯向かうのですね。残念ですが、それならあなたは敵です!」
そう言い迫る騎士の人。速っ! 気が付けば目の前にいた。俺は魔闘眼を発動していたけど、殆どわからなかった。
そして突き出してくる剣。俺は剣で逸らすが、逸らしきれず肩を掠る。痛えな。速さはミストレアさん程では無いけど速い。
騎士の人はその後も突きを放ってくる。どんどん傷が増える中で気が付いたが、この人の動き旋風流か。しかもかなりの実力者。これは中々厳しいぞ。
「しっ!」
っ! 顔目掛けて放ってきた! 俺は即座にしゃがみ込み足を狙って剣を振るう。騎士の人は飛んで避ける。良し、空中なら避け……はぁ!?
俺が空中に避けた騎士の人を追撃するために剣を振ると、空中で再び跳んだ。見えない何かを足場にして。魔闘眼で見ると、今は消えかけているけど、魔力が見える。魔法か何かか? だけどそんなのを悩んでいる暇はなく
「風弾」
騎士の人が俺の上から連続で突きを放つ。本来なら届かないため避けないが、旋風流を習っている俺はこの技が何か知っているため避ける。俺が避けた瞬間、元々俺がいた場所の地面が穿たれる。
あれは旋風流の『風弾』。俺が得意でよく使うのが斬撃を飛ばす技『風切』。あの騎士の人がやっているのはそれの刺突版だ。
ミストレアさんレベルになると、大岩に穴を開けるほどの威力がある。本当に危ねぇ。旋風流って知らなかったら体中穴だらけになっているところだぞ。
「むう、これも避けられますか。中々手強いですね」
地面に着地した騎士の人は少し不満気に呟く。本当に諦めてくれないかな。……くれないだろうなぁ。このままだと、俺がやられるだけだ。何か手はないのか。そう思っていたら
「レディウス! 大丈夫なの!?」
と、アレスが戻ってきた。後ろにはライルとライネもいる。ロポも一緒だ。騎士団がやって来て盗賊たちを捕縛したのを聞いて戻って来たのだろう。
「あなたはフレデリック殿の息子では? 何故盗賊の頭と親しいのです?」
どうやら騎士の人はアレスの事を知っている様だ。男だと思ったままだが。それに初めの方は疑問形だったのに、いつの間にか盗賊の頭になっているし。
「ミストリーネ騎士団長。お久しぶりです。ただ幾つか誤解している様ですが、彼は盗賊の頭ではありません!」
「しかし、彼は私に剣を向けて来ましたよ」
「それはミストリーネ騎士団長が攻撃したからでしょう! 彼は逆に盗賊たちを倒してくれたんです!」
「……あなた、それは本当ですか?」
騎士の人、ミストリーネさんは近くにいた村の人に尋ねる。近くにいた村の人は俺が盗賊と戦っていたのを見ていた様で縦に頷いてくれる。
「……」
「……」
俺たちの間に変な沈黙が漂うのだった。
◇◇◇
「本当に申し訳ありませんでした」
「いや、本当に大丈夫なので」
今、目の前で美人に頭を下げられている。今俺たちがいるのは村長宅兼宿屋にいる。この村には宿が3つあるらしいのだが、この村の村長が、盗賊から救ってくれたお礼にと、タダで住まわせてくれる事になったのだ。
そして屋敷の中に入ると、ミストリーネさんが兜を脱いで俺に頭を下げて来たのだ。ここについて来たのは俺、アレス、ライルとライネ。騎士団側は騎士団長のミストリーネさんと副団長2人だ。
他の団員の人は、村の人と一緒に盗賊の死体を片付けたりしている。全員で10人程らしい。
副団長の1人は大柄な女性で身長が180ほどの茶髪の短髪で巨乳の女性だ。名前はミレイアさん。もう1人は逆に150ほどの小柄な人なのにミレイアさんに負けないほどの巨乳の持ち主のツインテールの金髪の女性で名前がシオンさん。みんな美人だ。
「……鼻の下伸ばしてる」
アレスが何か言うが俺には聞こえない。
「全く団長はダメですねぇ。誰がどう見ても一般人じゃないですか〜」
「……なら、なんで言ってくれなかったのですか!?」
「私たちが言う前に、団長が攻撃したんじゃないですか〜」
「うぅっ……はい」
……この人団長なんだよな? 戦いの時のキリッとした雰囲気が全くないぞ。
「まあ、そう言ってやるなよシオン。私たちが団長を止められなかったのが悪い。本当に悪かったなボウヤ」
えらく男勝りな口調で話すミレイアさん。でも、申し訳ない雰囲気が伝わってくる。
「何かお詫びをさせて下さい! 望むのなら一夜を共にしても!」
ま、マジですか! 俺は思わずお願いします! と言おうとしたら、耳を思いっきり引っ張られた。
「痛てて! な、何するんだよアレス!」
「鼻の下伸ばしすぎだよ! なに間に受けてるのさ! 冗談に決まってるじゃないか!」
「いえ、冗談では……」
「団長は黙っていて下さい!」
「……はい」
この人戦闘中以外は威厳がないな。その団長をサポートするのがミレイアさんとシオンさんか。……シオンさんは爆笑しているからミレイアさんだな。
「まあ、流石に団長の初めてを、今日あったボウヤにあげるわけにはいかないから他の事で頼むよ。そういえばボウヤたちはどこに向かう予定だったんだ?」
ミレイアさんが物凄い情報をサラッと暴露した! 隣でミストリーネさんが「……良いと思う人がいなかっただけですぅ」と落ち込んでいる。それを聞いてシオンさんがまた爆笑する。
「……ええっと、今は王都に向かう途中だったんです。時間的にこの先に行っても野宿をするだけだったんで、ここで泊まってから行こうという事になって」
「それなら私たちと同じじゃないか。私たちも任務を終えて王都に帰る途中だったんだ。それなら、お詫びにはならないかも知れないが、私たちと一緒に王都に行かないか? 私たちと一緒ならボウヤたちも安全だろう」
それは有り難い提案だが
「それなら僕たちの進む速度に合わせる事になるのですが良いのですか? 騎士団だけで馬で走った方が早く着くのでは?」
「なに、構わないさ。どうせ早く帰っても他の仕事を押し付けられるだけだ。全く、戦争の準備があるからって他の騎士団は今から準備だ! とか言って仕事を放ってくるのだから腹立たしい。それが、私たちのところへ回ってくるのだから」
王国の騎士団にも色々あるようだ。だけどそれならお願いしても良いかな。俺はライルの方を見るとライルも頷く。安全に運べる方が良いもんな。
「ではお願いしても良いでしょうか?」
「はは、こっちがお願いしてるのだから良いよ。それより他に何かお詫びが出来る事は無いか? 無視され過ぎて団長がのの字を書き始めたから、出来れば団長が出来る事で。あっ、夜伽は無しで」
……それは残念だ。だけど団長に出来る事でお詫びと言えば……あっ!
「それなら王都に着くまでの間僕と模擬戦をしてもらえないですか?」
「模擬戦をですか?」
先程までのの字を書いていたミストリーネさんが顔を上げて聞いてくる。
「はい。ミストリーネさんの動きは旋風流ですよね。しかも王級では無いですか?」
「良くわかりましたね。その通り私は旋風流の王級を皆伝しています」
さっきまでのミストリーネさんとは違い、自信満々に胸を張って言う。
「その王級であるミストリーネさんの技を盗みたいのですが、ダメですか?」
普通の人ならこう言うと、嫌がると思うのだが、これ程剣が好きそうなミストリーネさんなら
「良いでしょう。私が王都に着くまでの間、相手をして上げます!」
ニヤリと笑ってそう宣言する。良し、俺の予想通り! ミストレアさん以外の旋風流の王級が相手か。ワクワクしてきたぞ!
こうして、俺たちと銀翼騎士団の動向が決まり、一時的にだがミストリーネさんが師匠となってくれる事になった。
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