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2話 母親と剣

本日2話目になります。

前話がまだの方はそちらを先にお読み下さい。

 姉上たちから消える様に離れた僕は、そのままある場所は向かう。そこは


「母上、入りますよ?」


 辿り着いたそこで僕は扉をノックして中へ入る。そこにはベッドと机と椅子が1つずつだけ置かれた質素な部屋。窓際には一輪の花が挿してある花瓶が1つだけ。


 ベッドには僕の母上、メアリーが寝ている。元はアルノード男爵家の長女だったらしいのだけれど、事業に失敗して没落してしまったらしい。


 それからそれぞれの家族は、色々なところへ働きに出て、母上はこのグレモンド男爵家の侍女として働き出したと聞いた。母上は綺麗な金髪でふんわりとした笑顔を見せてくれる美人だ。それにゲルマンは目を付けたのだろう。


 そしてベッドの側には母上の看病をしてくれる茶髪の少女ミアが立っている。ミアは年齢は14歳で、元々孤児だったのだけれど、母上が4年前に自分の侍女にと連れ帰って来た。僕は3歳だったのであまり覚えてないけど。


 その時はどこ誰かもわからない小娘を家に入れるなんて! てケリー夫人が激怒したらしいけど、その時はまだ甘かったゲルマンが許したらしい。それからは母上の娘で僕の姉の様に親しくしている。


「……あら、レディウス。どうしたの?」


 僕が部屋に入って来た事に気が付いた母上は、辛そうにしながらも体を起こそうとしてくれる。母上数年前から不治の病にかかっている。


 原因はわからないけど、体の筋肉が少しずつ衰える病気だと医者は言っていた。初めは地面を躓いたりするだけだったけど、日に日に体が動かなくなって来て、今では歩く事もままならない状態だ。体を起こすのだって辛いはず。


「母上、無理に起きなくても大丈夫です。僕が側に行きますから」


 僕は直様母上の下に駆け寄り体を支えてあげる。侍女のミアも手伝ってくれて、何とか体を起き上がらせる事が出来た。


 母上は、しんどいはずなのに僕に笑顔を向けてくれる。昔から僕は母上のこの笑顔が好きだった。この笑顔を見るたびに辛かった事を忘れられるからだ。


「ありがとね、レディウス、ミア。ふふ、2人のおかげで少し元気が出たわ」


 そう言いながらまた微笑んでくれる母上。それから少し話をすると


「そうだ、ミア。例の物をレディウスに渡して」


「わかりましたメアリー様」


 と突然母上がそんな事を言い出す。そしてミアが隅に置かれた箱を持ち出す。その箱を数少ない家具の内の1つの机の上に置く。そして蓋を開けると


「こ、これは?」


「私がまだ侍女の頃に貯めたお金で買ったのよ。これはあなたの剣。これから大きくなっても使える様に少し大きめのを買ったけど、少し大き過ぎたかしら?」


 そう言いながらまたクスクスと笑う母上。ミアも笑っている。箱の中には僕の身長ぐらいある剣が入っていた。今の僕の身長が100程だから、刃の部分だけで80ぐらいはあると思う。剣にそれ程詳しいわけじゃないから余り言えないけど。


でも突然どうして何だろう? 僕は不思議に思いながら母上を見る。


「私のせいであなたには辛い思いをさせてしまったから、最後に母親らしい事と思ってね」


 僕は母上の言葉に黙ってしまった。だって最後にって! 何でそんな事言うんだよ。まだ色々と話したい事ややりたい事があるのに。


「そんな悲しそうな顔をしないでレディウス。私がいなくなるのは悲しいかもしれないけど、あなたの心には、あなたの側にはいつもいるから、ね?」


 そう言い僕を抱き締めてくれる母上。もう昔みたいな力は無い。それでも、母上のこの温もりは嬉しかった。気付いたら僕の目からは止めどなく涙が溢れていた。


「もう、レディウスは泣き虫なんだから。そんなんじゃ、好きな女の子が出来た時に嫌われるわよ?」


 そう言いながらも僕の涙を拭ってくれる母上。僕は自分の目を擦り涙を消して


「僕、もう泣かないから! 母上が安心して見ていてくれる様に頑張るから!」


 まだ涙は止まらないけど今日ぐらいは許して欲しい。明日からは頑張るから。隣を見ればミアも涙を流している。母上も僕を抱き締めながらも涙を流しているのがわかる。


 みんな泣きながらだけれど、笑い合いながらも最後は3人で抱き締めあった。


 それから1ヶ月後。母上の容態が急変して、天国へと旅立った。母上は自分の死期を悟っていたのだろう。だから僕に剣をくれた。ミアには可愛らしくとネックレスを。今も大事に握り締めている。


 ゲルマンは同じグレモンド家の墓には入れてくれなかったけど、墓地の片隅に質素な墓は作ってくれた。最後の手向けだって言って。


 僕は母上の墓の前で立っている。隣ではミアが声を上げながら泣いている。拾われた時から母親だと思っていると言っていたから、その母親がいなくなれば悲しいだろう。


 その上僕の分も泣いてくれているのだろう。僕はあの時に泣かないと決めたから。


「ミア。帰ろうか」


「……ぐすっ、は、はい……」


 僕は母上の最後の言葉を思い出す。


『辛い事、悲しい事、たくさんあると思うけど、その分幸せがやってくるわ。今は髪の色で辛い事があると思うけど、最後には必ず笑える時が来るから』


 母上は僕を生んだ事が幸せだと言ってくれた。嬉しかった事と言ってくれた。


 だから、母上。僕も今は辛い事の方が多いけど、母上みたいに幸せだった、嬉しかったと言える様に生きて行くよ。


 だから天国から見守って欲しい。頑張るから。母上、僕を生んでくれてありがとう。


評価等よろしくお願いいたします!

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