286話 国の間違い
「よく来てくれた、アルノード伯爵、リンダロス副団長」
柔らかな笑みを浮かべながら俺たちに挨拶をしてくるレイブン将軍。既に座っている2人の団長。1人は俺も知っている銀翼騎士団の団長であるミストリーネ団長。もう1人は知らないが、金髪で髭の生やした50代の男性は、俺を呼びに来たリンダロス副団長が確か銀虎騎士団だったはずなので、そこの団長なのだろう。
そして俺たちは促されるまま席に座る。上座にレイブン将軍、左側にミストリーネ団長でその隣が俺、俺の向かう席で銀虎騎士団の団長と思われる人物の隣がリンダロス副団長だ。
そして俺たちを連れて来たティリシアたちは部屋を出ようとして、ティリシアだけ残るようにミストリーネ団長に指示をされた。そして俺の隣に座るティリシア。まあ、リンダロス副団長と同じ副団長だからな。いても問題無いと判断されたのだろう。
「それでは全員揃ったから話を始めようか。わかっているとは思うけど、内容はエシュフォード伯爵の殺人事件についてだ。既に犯人の仲間と思われる人物を捕らえて、伯爵を殺したと思われる人物を追っているところだが……クロイツ騎士団長、この事について報告をしてくれ」
「……申し訳ございません。私も先ほど知ったばかりで詳しい内容についてはまだ知らされていないのです」
そう言ってミストリーネ団長の前に座る50代程の金髪の男性、クロイツ団長はレイブン将軍に頭を下げた。その光景に俺は思わず唖然としてしまった。
いやいやいや、なんでロナを連れて行こうとした騎士団の団長が内容を知らないんだよ! 俺が怒りを込めてリンダロス副団長を睨もうとした時には既に事態が進んでいた。
クロイツ団長がレイブン将軍に答えた瞬間、机にかけていた剣を抜き、クロイツ団長へと振り下ろそうとしていたのだ。
俺も慌ててシュバルツを抜こうとしたが、既にこうなる事はわかっていたのか、リンダロス副団長の周りに氷や風の槍や矢が浮いていた。ミストリーネ団長とティリシアが発動したようだ。
「最近、団内でも不審な動きをする者がいると聞いていたが、まさかお前も関わっていたとはな、リンダロス。なぜこのような事をしたのか教えてもらおう」
残念そうな表情を浮かべて言うクロイツ団長だったが、目は今にも刺し殺しそうなほど鋭いものだった。それほど怒っているのだろう。
その視線を向けられたリンダロス副団長は、悔しそうに呻きながらも俺の事を睨んできた。なんだ?
「……ぐっ、私はこの国が間違った事をしているため、それを正そうとしただけだ!! 魔法の使えない無能で忌々しい黒髪を貴族にしているこの国の誤りを!! 由緒正しく、伝統を慮る誇り高き貴族たちの名に泥を塗る行為を行う陛下の行いを!!」
俺を指差しながら目を血走らせるリンダロス副団長。副団長のあまりの言葉に俺たちは何も言い出す事が出来なかった。
まさか、俺が原因の事件だとは思わなかったが、こんな王宮の、しかも将軍たちがいる目の前で、ここまで陛下の事を糾弾するなんて。流石に見過ごせなかったのか、リンダロス副……副団長はいいか。
リンダロスの周りに浮かべている魔法が放たれた。証人のためか、命に関わるような急所となるようなところは狙われずに、足や腕などを魔法が貫き、切り裂いていく。
痛みに叫び倒れるリンダロスに、クロイツ団長が近づく。そしてリンダロスの頭を掴むと、何か魔法を発動したのか、リンダロスはそのまま気を失った。
その光景を見ていたレイヴン将軍は外に待機させていた兵士を呼び、リンダロスの治療と拘束を指示して、牢屋へ連れていくように命令をしていた。
俺はその光景を眺めながらぼーっとしてしまっていた。思わず笑いそうになるのを抑えて。はっ、まさか今回の事件のきっかけが俺だったなんて。
黒髪の俺が貴族になってしまったから、エシュフォード伯爵が殺されて、ロナをこんなドロドロとした貴族同士の争いに巻き込んでしまった。
確かに貴族たちから良い目で見られていないのはわかっていた。なりたての頃は何度か貴族からの嫌がらせ的な事も多々あったし。まあ、それもヴィクトリアと結婚して、セプテンバーム公爵家が後ろ盾にあると思われてからは無くなったが。
……犯人はリンダロス1人じゃないだろう。伯爵を殺すほどだ。他にも誰かしら貴族が関わっているはず。これにロナが関わった理由はやっぱりリンダロスが捕らえたロナの父親と名乗る男が関わっているのだろうな。そいつに話を聞かないと。そんな事を考えていたら
「レディウス、リンダロス副団長の言った事は気にするな。確かに貴族の中には黒髪のレディウスを新参者とよく思っていない者たちがいる。
だけど、それ以上にレディウスの活躍を知り、認めている貴族も沢山いるんだ。ヴィクトリア様のセプテンバーム公爵家や私の家だって。ここにいる団長や将軍もだ」
そう言い俺の手を握ってくれるティリシア。顔を見上げたティリシアは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。そのまま周りを見ると、頷くレイヴン将軍やミストリーネ団長が頷き、クロイツ団長が頭を下げてきた。
……そうだよな。俺が髪の色のせいで認められない事があるなんてわかりきっていた事だ。その中で、俺の事をしっかりと見て、認めてくれる人がいた事もわかっていたはずだ。
「すみません。変な気を使わせてしまって」
「構わないよ。彼女の言っている事は間違っていない。それに陛下が決めた事に面と向かって言わず、こんな裏で動く彼らが悪いのだから。
アルノード伯爵、今からリンダロス元副団長が捕らえたという男を連れて来させる。一緒に話を聞くかい?」
「勿論です」
ロナの事を聞き出さないと。




