282話 長年の気持ち
「……すまない。アルノード伯爵には妻を助けてもらい、私の過ちを気づかせてくれて、そして、アレスの支えにもなってくれているのに、こんな頼みをして」
そう言い再び頭を下げるオスティーン伯爵。伯爵の過ちってアレスを男として育てた事だよな。それについては俺が何かしたわけでは無いし、アレスを支えているかと言われれば違うだろう。まあ、それほど思ってくれているのは嬉しいものだが。
……しかし、本当にどうしたものか。俺はチラッとアレスを見る。アレスは頭を下げているオスティーン伯爵の方を見ていた。ここは本人に聞くしか無いか。
「アレス、君はどう思っているんだ?」
「えっ?」
「俺はアレスの本音が聞きたい。アレス自身が今回の事をどう思って、これからどうしたいのか。アレス自身の口から聞きたい」
突然俺が尋ねたからか、質問の意味がわからずに首を傾げている。そこに俺が言うと、徐々に理解して来たのか、俺と伯爵を交互に見始める。それを見ていた伯爵が
「アレスの本音で話すといい。もう、昔のように止める事はしない。私はお前の後ろから支えるだけだ」
と、格好いい事を言った。そんな事俺も言ってみたい。まあ、そんな言葉に似合う風格では無いのだが。ジッと伯爵の目を見ていたアレスは、一旦視線を下に落として深呼吸をする。そして、落ち着いたのか、顔を上げて俺の目を真っ直ぐと見てくる。
「アルノード伯爵……ううん、レディウス、僕はずっとずっとレディウスの事が好きだった! レディウスが結婚する話を聞いた時に諦めようかと思ったけど、諦め切れずに、レディウスが行方不明になったと聞いた時は、居てもたってもいられず、伯爵領まで行くほど心配だった。
僕はレディウスに助けられたあの日から、1日もレディウスの事を忘れた事はない。それ程、レディウスの事が好きなんだ! 僕はレディウスと一緒にいたい! レディウス以外の人と結婚するなんて嫌だ!!」
アレスの心の奥底に秘めていた思いが、俺の心を温めてくれる。ティリシアに続いてアレスまで。俺は何度か自分が生まれて来た事を後悔した。生んでくれた母上に申し訳ないが。
ロナたちが拐われた時。ヴィクトリアが流産しそうになった時と。俺が黒髪のせいで周りを不幸にするんだと。
だけど、こんな俺を好きだと言ってくれる人たちがいる。ヴィクトリアにヘレネーにパトリシアは勿論、師匠やクルト、姉上に、隣に座るロナ。ティリシアだってそうだ。こんな嬉しい事は他にはないだろう。
「アレス、わかっていると思うが俺には2人の妻がいる。それに今日の朝、ティリシアにも告白された。身分なんかのせいで堂々と言えないのが悔しいが、パトリシアに……隣に座るロナも同じだ。
優柔不断で女たらしな俺だ。俺のところに来ても不幸になるかも知れないぞ?」
俺が真剣な顔でアレスにそう問うと、アレスは目を丸くしてから、プッと吹き出した。俺も夫妻も呆気にとられたが、アレスは可笑しそうに笑う。それに、何故かロナも同じように笑っていた。なんだ?
「そんなの奥さんたちを見ていたらわかるよ。レディウスと結婚が出来て幸せなのは。誰が見たってそう思うよ。レディウスと結婚して不幸に思うことも、後悔することもあり得ない。
逆にこの気持ちを抑え込んで、レディウスと違う人と結婚する方が僕は後悔する」
真剣な目で真っ直ぐと俺を見てくるアレス。……本当に涙が出そうになるよ。こんな俺をここまで好いてくれる人がこんなにもいるのだから。
俺は椅子から立ち上がりアレスの前まで行く。彼女の前で片膝をついて彼女の右手を掴む。
「……アレス。これから先の人生、俺と共に歩んでくれるか?」
俺がそう告げると、少し不安そうな表情を浮かべていたアレスの表情がぱぁっと花が咲いたように輝く。アレスは何も言わないまま、俺に抱き付いてきた。
俺が彼女を抱き締めると、アレスは俺の胸に顔を押し付けたまま泣いてしまった。俺は黙ってアレスの背中をさすってあげるのだった。
来週3月10日には「黒髪の王2 〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜」が発売になります!!
表紙はレディウスとロポに加えて、ヒロインのヴィクトリアにティリシア!!
綺麗な2人に囲まれたレディウスの表紙を探して手に取って頂ければと思います!!




