278話 思惑と決着
「父上、ただいま参りました」
「遅いぞっ、ランバルク! 直ぐに出る支度をしろ!」
私を見た瞬間、怒鳴る父上。何をそんなに興奮しているのだ?
「何かあったのですか?」
「ラティファの馬鹿者が、アルノード伯爵と決闘を始めよった!」
歩きながら尋ねると、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませながら呟く。アルノード伯爵。あの忌々しい黒髪とラティファが?
「あの馬鹿娘め。留学から帰って来れば勝手に銀翼騎士団に入り好き勝手にしおって、ここでも迷惑をかけるか! 帝国へ献上する予定だったのが、ただでさえ狂っているというのに!!」
怒りながら歩く父上。私はその後に続くだけ。しかし、ここで問題を起こすとは。計画の準備がもう終わりまで来ているというのに。ラティファめ。
腹が立つ事に私やランベルトより才能があるため、父上も甘やかした結果面倒な妹になってしまった。父上がどう考えているのかわからないが、計画の邪魔になるようなら消す事も考えないとな。
「慌ててどこへ行く、リストニック侯爵?」
そんな事を考えながら父上の後を付いていたら、曲がり角から陛下が現れた。私も父上も直ぐに頭を下げる。
「これは陛下。いえ、私の娘がアルノード伯爵と決闘をしていると聞きましてな。今から向かうところだったのです」
「おお! 私も丁度向かおうとしていたところだ。それでは一緒に行こうではないか」
どこに行くか聞かれたため父上が答えると、陛下は上機嫌にそんな事を言う。陛下に言われれば、私たちは断る事も出来ずに、陛下の後に続くしかなかった。父上的には、いない方が良かったのだろうが。
しかし、本当に忌々しい男だ。必ずこの手で……。
◇◇◇
「行くぞ、ラティファ!」
俺は魔天装を発動し、闇属性の魔力を身に纏う。黒髪の俺が属性のある魔力を使えるとは思っていなかった周りからは、驚きの声が上がる。なんか楽しい。
特にミストリーネさんの雰囲気が顕著に変わった。さっきまでは観戦を楽しそうにしていたのだが、俺の姿を見て戦士の雰囲気になった。俺の動きを少しも見逃さないように。そこまで真剣に見られるのは恥ずかしいものだ。
ラティファも驚きの表情を浮かべていたが、すぐに引き締めた表情を浮かべて剣槍を振るってくる。
俺に向かって振り下ろされる剣槍を俺は避けるそぶりを見せずに、領域を発動する。ラティファの剣槍が領域に触れて地面へと叩きつけられるが、振り下ろされた後が残ったのは領域の範囲外だった。俺にはなんともなくただ立っているだけ。
理由は領域にある。領域は俺の周囲に薄く広く魔力を広げて、察知能力を高める技だが、その魔力にシュバルツの闇属性の魔力を乗せた。その結果出来たのは、触れると消滅する結界だ。
ただ、弱点がないわけではない。領域の特性上、どうしても薄いのだ。今だって一太刀食らっただけで、領域の魔力は霧散し、結構な魔力を持っていかれた。この技はそう連続して使うものではないな。いくら、昔に比べて魔力が増えたからといっても、何度も使えない。
それに、ラティファのお陰でもある。剣槍は魔力を使い剣先を伸ばすという特性上、手で握っている柄の部分は魔力が多いが、どうしても離れると魔力の流せる量も変わってくる。
それでも、これだけ伸ばしても切れ味が落ちる事がなく魔力で伸ばせるのは、それほど魔力を持っていて、魔力の操作が上手い事になる。
俺は師匠に魔力の操作については厳しくされたが、ここまでは出来ないだろう。才能の差が恨めしいぜ、全く。
剣槍を振り下ろしたのに全く変化のない俺を見て、魔天装した時以上の驚きの表情を浮かべるラティファ。しかし、直ぐに顔を引き締め構える。そうだ、それでこそ戦士だ。もっと君の本気を見せてくれ。
◇◇◇
「かなり盛り上がっているようだな」
陛下の言葉を聞きながら私たちは銀翼騎士団の訓練場に訪れた。来たのは陛下に護衛としてブルックズ近衛騎士団長に、その部下である近衛騎士が10人。他にもいるのだろうが私にはわからない。
それに私と父上、取り巻きの奴らが数人だ。全員が訓練場の中心を見ていた。その光景を見て、武を知る者たちは声を失っていた。
ランベルトに及ばないまでも、ソコソコの実力はあると思っていたラティファ。その想像を超えていたのはこれからの計画のためにも良いことではあったのだが、そのラティファを圧倒する黒髪の姿があった。
あの時から年月が経ち、様々な戦場に出ているのは知っていたが、これ程とは。これは計画に支障をきたす可能性がある。
「……伯爵はなぜ属性の魔力を使っているのだ? 黒髪にはない、というのが常識だったのでは?」
「陛下、恐らくでしょうが、あの剣でしょう。あの剣には闇属性の力を引き出す効果があるようで、どうやら、アルノード伯爵はその力を利用しているのでしょう。それに、あの姿、あれはレイヴンから聞いた事がありますが、魔剣王の作った技、魔天装だと思われます」
「なるほど。これもアルノード伯爵の訓練の賜物というわけだな。それに、あの剣は……」
「ええ、あの剣でしょう」
陛下とブルックズ近衛騎士団長が忌々しい黒髪を褒める。本当に忌々しい。あいつをどうにかしなければ、本当に問題が起きる。
そんな事を考えている間に決闘は進み、気が付けばラティファの喉元には黒髪の剣が突き付けられていた。
「……あの馬鹿娘め。負けよって……」
陛下たちには聞こえない声で呻く父上。これは計画を練り直さなければならない。
気が付けば「黒髪の王」1巻が発売して1月が経ちました!
本当は発売してから1月目の日に投稿したかったのですが、色々と準備や作業に追われて遅くなってしまいました!
既に買ってくださった方はありがとうございます!
まだの人は良ければ手に取っていただけたらと思います!
売上によって次巻に繋がるようですので、他のヒロインたちが見たい方はよろしくお願いします!!




