276話 妹と決闘
「おい、ラティファ! ふざけるのもいい加減にしろ! いくらお前が侯爵家の出でも、相手は陛下から正式に爵位を賜っているレディウス・アルノード伯爵だぞ!」
「そんな事はわかっていますわ。それでも、私は知りたいのですよ。留学する前までは大人にも負けた事が無かったランベルト兄上を倒した男の実力を。勿論、終わった後にどのような罰を与えてくださっても大丈夫ですわ。全て受け入れます」
手合わせを願ってきたラティファにティリシアが怒る。まあ、いくら侯爵家の娘でも、伯爵本人にさっきの態度はまずいよな。
1つ下の位だからと言っても、伯爵もそれ相応の権限を持つ貴族だ。場合によっては相手が侯爵家の令嬢でも、処罰する事は可能だ。
今回のだって、ティリシアを含む銀翼騎士団の団員が見ている。騎士団は王の名の下に作られた団体であり、どの派閥にも寄らない陛下の剣。騎士団は基本中立であり、どちらに肩入れすることもない。その彼女たちが発言すれば、ラティファが罪に問われるのは必然。
……まあ、俺がラティファの対応にキレればだけど。
「そこまで考えて俺と戦いたいんだな?」
「ええ、そうですわ」
兄を倒した事に逆恨みして、勝負していちゃもんでも付けてくるのかと思ったが、彼女の目は真剣そのもの。ランバルクなんかより戦う者の目をしていた。こんな目をされたら断れないよな。
「いいよ、やろうか」
俺が笑顔で頷くと、ぱぁと笑みを浮かべるラティファと、はぁと溜息を吐きながら額を抑えるティリシアの姿が目に入った。そこまで呆れなくても良いだろうに。
「……決めてしまったものは仕方ない。いつするのだ?」
「俺はいつでも構わないさ。それこそ彼女が良いのなら今からでも」
「私もいつでも構いませんわ」
って事ですぐに決まった俺たちは戦える場所へと向かう事にした。場所はどこかないとティリシアに尋ねると、騎士団の訓練場を貸してくれると言う。どうやら騎士団ごとに訓練場があるようで、銀翼騎士団の訓練場は所属員ならいつ使ってもいいらしい。
王城から少し離れたところにあり、そこは魔法で結界が張られているようで、いくら暴れても大丈夫らしい。
訓練場の側には銀翼騎士団の宿舎があり、王都に家を持たない団員が泊まっているらしい。そのせいで……俺とラティファの戦いは見世物のようになってしまった。
訓練場には観戦席が設けており、そこで訓練風景を見る事が出来るのだ。俺とラティファが戦う事を誰かが言い回ったようで、銀翼騎士団の団員たち、団長であるミストリーネさんに副団長であるミレイアさんとシオンさんまでいる。
俺の視線に気が付いた3人は笑顔で俺に手を振ってくる。その姿に今度は俺が頭を抑える事になった。普通は止める側のはずなのに楽しんでやがる。
「すまないな、私の団員が無理を言って」
訓練場の真ん中で立っていると、審判をする事になったティリシアが側に来て謝ってくる。
「はは、なんだか懐かしいよな。俺とティリシアが初めて会った時も、決闘したっけ?」
あの時は初めて学園に行き、クラスでの訓練の時にティリシアに誘われたんだっけ。いきなり過ぎて驚いたものだ。
「あ、あの時の事は忘れてくれ! 戦争で活躍した黒髪の男の実力が知りたかっただけなんだ!」
「わかっているよ。ただ、多分、ラティファも同じなんだと思う。あの時のティリシアの気持ちと」
「……そうだな。ただ、そのやり方がかなり悪いがな」
「違いない」
2人で笑いあっていると、準備が出来たラティファが訓練場へとやって来た。見た目にそこまで変化はないが、彼女を中心に渦巻く魔力がとんでもない事になっている。
俺の目でわかるのは、光以外の5色の魔力。ティリシアに聞いたのだが、彼女は2人の兄それぞれにあった弱点がないらしい。
ランバルクのように魔法一辺倒では無く、ランベルトのように強化魔法しか使えないわけでもない。遠い敵には5種類の魔法を撃ち込み、近づいてくるのであれば、ティリシアも唸るほどの剣で打ち向かう。2人のそれぞれの長所が合わさったのが彼女のようだ。
闘志みなぎる彼女を見てティリシアも俺から離れて準備をする。俺もシュバルツを抜きいつ始まっても良いように立つ。
「……もう1本の剣は使わないのですの? あなたは2剣で戦うと聞いたのですが?」
ラティファは俺の腰にささったままのイデアを見て尋ねてきた。俺も使ってみたいというのはあるが
「この剣は譲り受けたばかりでな。まだ使い慣れていないんだよ。いざとなれば抜くが、今はまだな」
使い慣れていない剣に今までの動きを阻害されるわけにはいかないからな。下さった陛下には申し訳ないが今日は抜く事はないだろう。しかし
「なるほど。その剣を抜かせた時があなたの本気というわけですわね」
ラティファは違うようにとらえたようだ。そういうわけじゃないんだけどな。
「2人とも準備はいいか? 勝敗は相手が降参するか気を失うまでやる。いいな?」
俺もラティファもティリシアの言葉に頷く。そして、ティリシアが右手を上に掲げる。それを見た俺とラティファが構えて
「始め!」
振り下ろされた瞬間、俺もラティファも前に出る。さて、あの2人の妹の実力、見させてもらおうか!




