275話 2人の妹
「……あっ、アルノード伯爵、今度は貴族用の門から入るのですね?」
「ああ、手続き頼むよ」
昼頃子供たちと来た時に一般の門のところで手続きをしてくれた兵士が、夕方ごろでは貴族用の門の当番をしていた。交代制なのだろうな。
一般用よりも簡略された手続きを行い王都に再び入る。しかし、子供たちがあれほど喜んでくれたのはよかった。
バットたちには殆ど教えられなかったが、剣の持ち方と立ち方、後は簡単な振り方だけ教えただけでかなり喜んで貰えたし。
テラの槍だけは、教えるのが難しいためどうしようかと思ったが、村に少し知っている者がいて、その者に教えてもらう事になった。少しでもわかる人がいてよかった。素人が教えて変な癖がついた後じゃあ中々直せないからな。
「レディウス!」
村の子供たちのことを考えながら王都の中を歩いていると、後ろから名前を呼ばれる。声のした方へと振り向くと、そこには騎士団がいた。
ただ普通の騎士団ではない。住民たちは騎士団が来たので左右に分かれて見ているが、視線が畏怖したものでなく、華やかなものを見るような視線が多い。
男性だけでなく女性もキラキラと見惚れる騎士団。アルバスト王国唯一女性しかいない騎士団、銀翼騎士団が歩いているからだ。
全員が兜を被り歩く姿は、壮観ながらも男性の鎧のようにゴツゴツとしたものでなく、女性特有のラインをしっかりと出した鎧のため、さっきも言った通り華やかさがある。
その銀翼騎士団の先頭を歩く女性が真っ直ぐと俺の方へと向かってくる。俺の前まで来ると被っている兜を脱ぐ。
すると兜の中から髪が落ちてきてパサァと広がる。ピンク色の髪が広がり落ちて行く姿に、周りの人も、後ろにいる他の銀翼騎士団の団員たちも見惚れていた。
兜を脱いで素顔を晒したのは、俺やヴィクトリアと共に学園の対抗戦でチームを組み共に戦った仲間である、ティリシア・バンハートだった。
首を振り髪を揺らすその姿は男女問わず見惚れさせる。学園の時よりも髪は伸びており、かなり大人びた印象を与える。
「久しぶりじゃないか、レディウス。いつ王都に?」
「久しぶりだな、ティリシア。昨日帰って来たんだよ」
「そうなのか。という事は死竜の討伐を終えて帰って来たのだな!? 流石レディウスだな」
「はは、ありがとな。俺が帰って来たのを知らないって事は何処かに行っていたのか?」
俺はティリシアの背後にいる騎士たちを見ながら尋ねる。人数は13人で少し少なめだが、銀翼騎士団の団員はそれぞれが一般の兵士10人分ぐらいの力はある。それが12人もいるのだから。盗賊の討伐とかだろうか?
「私たちはとある夫人の護衛をしていたのだ。今はそれが終わり帰って来たところ」
なるほど。銀翼騎士団は女性だけで作られた騎士団だからな。要人の護衛でも基本女性の護衛が多いのだろう。普通の貴族であれば他の騎士団があるからな。
「へぇ、この人があの有名な黒髪伯爵? 黒髪の男性が公爵令嬢と結婚した、物語のような男の人は?」
そんな風にティリシアと話していると、ティリシアの後ろに立っていた1人の騎士がそんな事を言ってきた。無遠慮に近づいてきて俺の顔をジロジロと見てくる。
「おい、やめろ、ラティファ。レディウスはお前も言ったように伯爵だぞ。あまり無礼な事をするな!」
「はいはい、わかりましたよ、お姉様。これは失礼しましたアルノード伯爵。私、ついこの間まで留学していたものですから、あなたの事を全く知らなくて」
そう言い女性の騎士は兜を外す。兜を外して現れたのは紫髪の女性だった。年は俺より上でティリシアより下ってところか?
「私の名前はラティファ・リストニック。どうやら兄たちがお世話になったようで」
……まじかよおい。あのリストニック兄弟の妹か。それってティリシア的には複雑じゃないのか? 兄であるランバルクにもう少しで奴隷にされそうだったのだから。
チラッとティリシアを見るが……あまり気にしていなさそうだな。それなら、俺がとやかくいう必要もない。
「あの2人に妹がいたんだな。初めまして。レディウス・アルノードだ。よろしくな」
「ええ、よろしくお願いしますわ。よろしくお願いするところで、もしよろしければお手合わせ願いたいのだけど。ランバルク兄上はともかく、ランベルト兄上を倒した実力、見てみたいですわ」
そう言うラティファは、笑ってはいるが目がかなり真剣だった。普通に断っても聞いてくれそうな感じじゃないなあ。さて、どうしたものかな。




