274話 王都で買い物
「……はい、次〜……ってアルノード伯爵様!?」
王都の出入りを担当している兵士が俺を見て驚きの声を出す。彼は俺の顔を知っていたようだ。まあ、伯爵が貴族用の門を使わずに一般用の門を使っているから驚くのは当たり前か。
「すまないな。少し個人の用事で外に出ていて一時的に戻ってきたんだ。手続きを頼むよ」
「は、はい。アルノード伯爵様はよろしいのですが、荷台になる子供たちは?」
「王都から少し離れたところに村があるだろ? そこの子供たちと王都に買い物に来たんだよ」
俺の話に一瞬ぽかんとする兵士。まあ、伯爵が平民の子供と買い物など本来はありえないからな。元平民の俺だからやる事だ。
それに、少しして兵士は思い出したように頷いている。俺の言う村が死壁隊の村だって言うのはあの戦争の時に王都にいた者なら皆知っている筈だ。それを思い出したのだろう。
「……これで良し。子供たちにはこの木札を持たせてください。仮の通行証です。出る時に返して頂けたら」
「わかった。任務ご苦労だな」
手続きを終えて俺は馬車を動かす。俺の指示に的確に動いてくれる老馬のお陰でスイスイと中へと入る事が出来た。どこか馬車を預けられるところを探さないとな。
荷台では子供たちが何を買うのか話し合っていた。バットの木剣は俺が買うつもりだったので、他の子供たちも同額程度のものは買ってあげよう。バットだけ買うと不公平だからな。
それから少し大通りから外れたところにある馬車置き場に馬車を止めて街を歩く。
子供たちは1番年上で10歳の少年、ダンが子供たちの1番後ろに立ち、2番目の年上で9歳の少女のミミムがシルと手を繋いで俺の後ろを付いてきてくれる。
「それじゃあまず木剣を買いに武器屋に行く。他の皆は他に何が買いたいか、行きたいところはどこか話し合っておいてくれ」
俺の言葉に元気良く返事をする子供たち。この子達を見ていると、早く領地に帰りたくなる気分になる。しばらく顔を見ていないヘレスティアとセシル。特にヘレスティアとは2ヶ月以上は顔を合わせていない。もしかしたら俺の事を忘れているかもしれないと思ったら、泣きそうになる。
早く会いたいが、そんなことをおくびに出さずに歩き続けて、武器屋へと辿り着いた。武器屋にはここで買う予定の子供だけを連れて行くことにした。中は武器や防具で危ないからな。
来たのはバットと興味があったのかダン、それから8歳の女の子でテラが付いてきた。シルと年の近い男の子2人にテラと同い年の男の子。それからシルにミミム、もう1人シルと同い年の女の子は武器には興味がないようだった。
バットたちは真剣の方へと向かおうとしていたが、俺が首根っこを掴み木剣の方へと向かう。テラだけは俺にしっかりと付いてきてくれた。
「ほら、この箱の中から選べ」
タル箱にぎっしりと刺さっている木剣。その箱のからダンとバットは木剣を引き抜きそれぞれ確認している。その間テラはというと
「それがいいのか?」
俺が尋ねるとコクリと頷く。テラが持っていたのは訓練用の槍だ。テラが扱うには少し長めだが、木剣と同じ木材で作られており、初心者の訓練にはもってこいだろう。
ただ問題があるとすれば、槍については俺が教えられないことだ。簡単な持ち方ぐらいならわからないこともないが、槍を持って振ったことはないため、教えようがない。ミネルバがいれば違ったのだが。
「にいちゃん! これに決めたぜ!」
そんな事を考えていると、バットが両手で木剣を掲げながら側に来た。ダンも自分に合っていると思う木剣を選んだようだ。俺はそれを2人からそれぞれ貸してもらい、軽く振るう……うん、子供が訓練で使う物ならこれで十分だ。
俺はテラの槍も貰ってそのまま店員の元へと向かう。ダンとテラは親から貰ったお小遣いを出そうとしたが止める。バットの分元々払うつもりだったから、同じように払ってあげる事を伝えると喜ぶ2人。そのまま支払い武器屋を出る。
外では待ちくたびれた用に子供たちがおり、俺が呼ぶとぱぁっと顔を明るくさせて近寄ってくる。それから、子供たちがそれぞれ行きたかったところへと連れて行く。
女の子たちで多かったのは雑貨屋だった。部屋に飾れる物を皆で話し合いながらそれぞれ買っていく。シルもその中に混ざっており、楽しそうに話していた。
それぞれの買い物が終われば子供達を連れて飯を食べに行く。子供たちも村では食べられない料理に終始興奮しっぱなしだった。連れてきた甲斐があったというものだ。
全ての買い物が終わったのは夕方ごろで、俺たちは再び馬車に乗って王都を出る。子供たちははしゃぎ疲れたのか眠っている子もいるが、バットは興奮しているのか、ずっと木剣を眺めていた。
この時は思いもしなかったが、この木剣の購入で問題が起きるとは思いもしなかった。




