273話 子供を連れて王都へ
「……えっ? 良いの、兄ちゃん?」
驚いた表情で俺を見てくるバット。さっきまで俺が渋っていたのがわかっているのだろう。少し緊張した様子で尋ねてくる。
「ただ、俺も王都に居られるのは1週間ほどしかない。バットに教えられるのは精々剣の持ち方と振り方のような基礎中の基礎だけだろう。それでも良いのなら教えてやる」
俺がそう言うとやったー! 両手を掲げてぴょんぴょんと跳ねるバット。そこまで喜んでくれるのなら嬉しいものだ。
「ガラナ、この村に木剣か模擬剣とかはあるか?」
「木剣か模擬剣なぁ。この村は王都から近くて割と平和だからよ。あまり訓練用の武具は置いてないんだよ。精々、はぐれの魔獣を倒す時に使う武器ぐらいだ。ここは、夕暮れに王都に間に合わなかった旅人や商人たちの休憩地として使われているから、王都の兵士も来てくれるんだ」
なるほど。それなら確かに武器が無くても大丈夫か。王都的にはほんの少し離れたところへの訓練としては便利な場所だろうし。しかしそうなると
「買いに行くしかないか」
ここには無いって言うし、木から作れるほど器用じゃ無いし。それなら少し歩いて王都で探した方が早いし楽だ。
「しかし、どうしたんだ? さっきの感じだとあまり乗り気じゃなかったようだが?」
俺が急に教える気になったのが不思議なガラナは、その事を俺に尋ねてきた。俺はシルの両手を掴みながら喜んで一緒に回るバットを見ながら話す。
「つい、思い出してしまったんだよ、昔の俺を。バットがどう言う理由で剣を習いたいのかはわからないが、病に伏せる親を見るバットの後ろ姿がさ」
俺もバットと同じぐらいの年に母上を見送った。その時の事をつい思い出してしまった。
「悪いな。本当は俺らの誰かが教えてやれたら良かったのによ」
「別に構わないさ。それに、さっきも言った通り、教えると言っても基礎だけだ。それ以上は時間が無いからな。その後のことは本人に任せるしか無い」
「それもそうだな。そうだ、行くなら他の子供たちも連れて行ってくれねえか? いくら近いと言っても、子供だけで行かせるわけにも行かねえし、親たちは仕事があるからな。滅多に王都には行けねえんだ」
「別に良いが 、子供たちは耐えれるのか? 近いと言っても、俺が走って30分くらいはかかる距離だぞ?」
「……イマイチわからん例えだなそれ。それについては問題ない。村の馬車を貸すからよ。屋根はついてねえが、乗るだけなら十分だろ?」
そう言ってガラナに連れていかれた場所には、2台の馬車と馬が2頭並んでいた。片方は屋根付きで、もう片方は先ほど言っていた通り屋根無しだ。馬たちは老馬のようで、えらく人馴れしている。初めて見る俺が触っても落ち着いている。
俺とガラナで馬車を準備している間に、ガラナが別の人に頼んでおいてくれたようで、子供たちが集まっていた。
人数はバットとシルを入れて9人。上は10歳くらいで下はシルと同じ5歳くらい。
「うちの村じゃあ12歳になると家の手伝いをするか、王都に出てどこかに弟子入りするからな。外に出られる子供はこれだけなんだよ。後はシルたちより下ぐらいしかいねえんだわ」
「なるほど。まあ、この人数なら連れて行くのには問題ないか。お前ら、俺の名前はレディウスだ。ガラナと親友でな。今から俺がお前たちを王都に連れて行くから、しっかりと俺に付いてくるように。後、どこか行きたいところがあっても、勝手に行くなよ。王都は広いから逸れたら迷子になってしまうからな。ちゃんと俺が連れて行ってやるから。わかったか?」
俺がそう言うと、はいっ! と元気に返事をする子供たち。子供たちは親からお小遣いをもらったのか、それぞれ袋の中を見ながら何を買おうかと話し合っている。その中で
「俺は木剣を買うぞ! それで強くなって冒険者になって、シルと父ちゃんを守るんだぜ!」
と、言う。その言葉に子供たちは笑うが、俺はつい泣きそうになった。まだ20にもなっていないのに、涙脆くなっているな俺。なんて良い事を言うんだよ。バットのその言葉にシルも「……私も兄ちゃんと父ちゃん守る」と呟く。この2人良い子すぎるぞ。
「それじゃあ、任せたぜレディウス」
「ああ、夕方には戻ってくるから」
俺はそう言いながら御者台に乗る。よくよく考えれば、俺貴族、伯爵なのに子供のお守りをさせられている。俺じゃなきゃキレていたね。ガラナも俺だからお願いしているってのもあるのだろうけど。
まあ、俺の事はいい。子供たちの楽しみな時間のために出発しますかね。




