266話 予想外の奇跡
「レ、レディウス様ぁぁぁっっ!!!」
腹を貫かれて吹き飛ばされた俺を見て叫ぶロナ。大丈夫だよ、と伝えてあげたいけど、今はそんな余裕が無かった。
「……アアアァァァア……アァァアッッ!!!」
俺の左側の首を狙って噛み付いて来た男の頭が目前にあるからだ。腹の痛みのせいで反応が遅れたのと、力が入らなかったせいで少し噛み付かれた。
何とか纏を俺の今の限界近くまで発動して、噛み付いてくる部分を強化しているが、男の噛み付く力が強いせいで、徐々に入り込んでくる。左手で頭を押さえているが、中々きつい。
こいつの顔を何とか押し返そうと力を入れると、貫かれた腹に力が入って痛むし、痛みに集中してしまうと男が力を入れて噛み付いてくる。
吹き飛ばされた時に握っていたシュバルツはほんの少し離れたところに落ちている。腹を貫かれていなければ、手を伸ばせば簡単に届く距離なのだが、今は指先が触れるか触れないかの距離にある。
「ちっ、このクソ野郎が!!」
レイグのキレる声が聞こえて来たので、チラッと声のした方を見ると、男の体から血の槍が無造作に放たれていた。
魔闘眼で男の体を見ると、明らかに魔力が暴走していた。それに、両手両足心臓部分と離れたところに落ちている頭に明らか人間には無いものが付いていた。それは……魔獣の魔石だった。
「ぐっ!!」
少し男の体に集中し過ぎたせいか、力が緩んでしまい更に深く噛み付いてくる男。男の頭が血で出来ているせいか、噛み付かれているだけなのに、血を吸われるのがわかる。しかも、血を吸うのと同時に俺の魔力まで吸ってやがる。
……もうしのごの言っていられない。このままでは被害がでかくなるだけだ。俺は今まで抑えて来た魔力を一気に解放する。
同時に全身に激痛が走る。腹の痛みと違って、内側から張り裂けるような感覚。魔力通路と言うのか、魔力の通り道が死竜戦以来せき止められているように詰まった感覚がある。そこに無理矢理魔力を流し込んでいるため、通路の壁の部分が悲鳴を上げているのだろう。
それでも俺は魔力を流すのをやめない。そのせいで頭は割れそうなほど痛く、目からは血が流れるのがわかる。
痛みに気を取られたせいで、男の噛みつきが更に深く刺さり、吸われる血と魔力の量が増えるが、それを気にすることなく俺は魔力を流し続ける。
そんな風に激痛に襲われながらも流し続けると、全く予想だにしていなかった奇跡が起きた。さっきまで魔力を流そうとすると詰まっていた感覚が一気に無くなったのだ。
自分自身でも焦るほど一気に流れる魔力。多分だが、男が俺の血を吸うのと同時に魔力も吸ったからだろう。外から吸う力と、中から押し流す力が作用して、つまりが抜けたのだと思う。
男に血を吸われるのは最悪ではあるが、結果的にそのおかげで助かった。俺は体を無理矢理動かして側に落ちているシュバルツを掴む。そして、シュバルツに向けて一気に魔力を流す。
魔力を流したシュバルツは黒い剣身が更に黒く染まり、俺の魔力も黒く染まる。
「魔天装……黒帝!!」
魔天装を発動し、シュバルツの能力である消滅も発動した。その瞬間、俺に噛み付いていた男の血の顔と腹に刺さっていた血の触腕も全て消え去った。
腹がぽっかりと空いたままだが、俺は真っ直ぐと男の体へと迫る。男の体は俺を脅威と思ったのか、俺の腹に串刺しだ触腕を何本も伸ばしてくる。しかし、消滅の力を纏わせたシュバルツで容易く切っていく。
何故、男は首の無い状態でも動いているのか。絶対にそうだとは言い切れないが、体に埋め込まれている6つの魔石のせいだろう。
あれ1つでも獣人の核となり、かなりの強さを引き出す。それをこの男は6つも埋め込んでいるのだ。そのメリットの1つに自己再生があってもおかしくは無い。
男が銀髪なのも6つの魔石が埋め込まれているのが原因だろう。人工とは言え、全ての属性を持っているのには間違いないのだから。
俺は迫る血の触腕を全て切り裂き、男の体へと近づく。切るのは全ての魔石だ。これが核となっているのであれば、これさえ切ってしまえば
「烈炎流……桜火乱舞!!」
魔闘眼で魔石の場所を確認した俺は、全ての魔石を切り裂く。右腕の緑色の魔石に向かって振り下ろし、左腕の茶色の魔石に向かって返すように切り上げる。
男の体から触腕が伸びるが、俺はそれをしゃがんで避け、右足の赤色の魔石と青色の魔石を回転切りで切り裂く。回転しながら体を上げて、引き絞った右腕で一気に胸元にある白色の魔石に向かって突き放つ。
男の体の中心に風穴が空き、そこから消滅の魔力が流れ込んで、男の体は消えていった。
俺はそのまま落ちている頭の元へと向かう。男は近付いてくる俺に気が付いたのか、俺を見上げていた。……頭だけになったのに生きているなんて。
「……まさか、やられるとは。それに、黒髪の剣士か。お前が例の目的だったとは」
「目的だと? 一体何を言って……」
訳のわからないことを言う男に俺が尋ねようとした時、男の頭に1本の矢が突き刺さった。その矢は真っ直ぐ男の頭にあった魔石を貫いており、男は即死だった。
俺が気が付いた時には刺さっていた。俺は辺りを警戒するが、それから矢が飛んで来ることは無かった。
……最後に気になる言葉を残しやがって。
発売まで後4日!!!




