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256話 お別れと託すもの

「あっ!」


 俺の姿を見たエミリーはぱたぱたと走って姉上の後ろに隠れた。その姿を見て姉上やロナは笑っているが、俺としては少しショック。


「ふふっ、エミリーは恥ずかしがり屋さんね。ほら、挨拶しないと」


「うー……うー……こにちは」


 少したどたどしくではあるが挨拶をしてくれるエミリー。姉上曰くどうやら恥ずかしがっているようだ。まあ、昨日父親って言ったばかりだからな。嫌われてなくて良かった。


 俺はその場に膝をついてエミリーの視線に合わせると、姉上の後ろからおずおずと出て来るエミリー。そして、ゆっくり近づいて俺の左手の袖を掴む。


 まだ、緊張しているようだが、これだけでも嬉しい。抱き締めたい衝動に駆られるが、驚かせるのは本意では無いので、頭を撫でるだけで済ませる。


 それから、俺が持って来たお土産のジュースをエミリーにあげて、皆で席に座る。父上は部屋にいるから、ここには俺とロナと姉上とエミリーだけ。クルトは王城に行っているようだ。


「……そう、もう行くのね。寂しくなるわね」


「すみません。もう少しいたかったのですが」


「仕方がないわ。あなたも家族を持つ身だし、貴族なのだから」


 そう言って悲しそうに微笑む姉上。俺はそのまま立ち上がり姉上の側に寄り抱き締める。姉上も抱きしめ返してくれた。


 その様子をほわぁーと言いながら見て来るエミリーと微笑みながら見て来るロナ。少し恥ずかしいがしばらくはそのまま姉上を抱きしめた。


 それから少し話をしてもうお昼前になってしまった。この後トルネス陛下との謁見があるため帰らないといけない。


 俺たちを家の前まで見送りに出てくれる姉上とエミリー。そういえば、あれを渡しておかないと。


「姉上これを」


「……これは」


 姉上に渡したのは赤色の宝石が付いた指輪だ。以前アルバストの王都で見つけたもので、いつか渡そうと持っていたものだ。


 これには防御用の魔法が付与されており、魔力を込めた状態で使うと発動するようになっている。魔力は既に込めているため、後は意識すれば使える。それを姉上の左薬指につける。


「遅くなってごめん。これをつけていて欲しいんだ」


「……ふふっ、ありがとう。大事にするわ」


 姉上はそう言って俺に抱きついて来る。しばらく抱き締めてから姉上と離れ、次にエミリーと視線を合わせるようにしゃがむ。そして、俺は腰にあるものを抜く。


「えっ!? レディウス様それって!!」


 後ろではロナが驚いた声を出すが、俺は気にせずにそれをエミリーに渡した。まだエミリーには扱えなくて重たいものではあるが、他のものよりは軽い。エミリーは受け取ったがバランスを崩してしまい、その場に尻餅をついてしまった。


「おっと、ごめんな、エミリー。ちゃんと持てるか?」


「うん」


 エミリーを支えながら立たせてあげると、少しふらつくようだが立ち上がる事が出来た。両手で抱き締めるように持つそれ……レイディアントを抱えながら。


「……レディウス、それってあなたの大切な剣じゃないの?」


「ええ。ですが、この剣をエミリーに持っていて欲しいのです。まだ、体的には使えないでしょうが、剣を続けるなら扱えるようになるはずです。エミリー、しばらく会えなくなるけど、お母さんと仲良く暮らすんだぞ?」


 俺はそう言いながらエミリーを抱き締める。エミリーはおずおずと俺の服を掴んでくれた。エミリーが剣を続けていくとは限らない。今はクルトのを真似をしているだけかもしれない。その時はクルトにでも渡して使って貰えればいいが、出来ればエミリーには続けて欲しいな。


「それじゃあ、行こうかロナ」


 エミリーから離れると、ギュッとレイディアントを握るエミリーの姿が目に入る。俺は優しくエミリーの頭を撫でて、家を後にする。このままいたら離れづらくなってしまうからな。すると


「ぱぱぁ〜!! またねぇ〜〜〜!!」


 と、大きな声で言ってくれるエミリーの声が聞こえて来る。振り返ってエミリーに手を振ると、エミリーも手を振ってくれた。


 少し寂しい気持ちを胸に抱えながら、俺とロナは王城へと向かう。ロナの「私もレディウス様との子が……」って言っているのを聞きながら。


 王城では帰る理由を話すと、トルネス陛下は許可してくれて、急遽送別会を開いてくれる事になった。そこではレグナント殿下とフローゼ様にもお礼を言われて、久し振りに出会ったランドルやアルフレッドとも話す事が出来た。


 そして、クルトとアルテナもおり、2人には姉上たちの事をお願いした。2人は勿論と頷いてくれた。本当に助かる。


 そんな夜を過ごした翌日、俺たちはトルネス陛下たちに見送られながら、王都を後にした。色々とあった遠征ではあったけど、大切な出会いもあった。来られて良かった。


 ◇◇◇


「ママぁ〜、パパからこれっ!」


「ふふっ、良かったわね、エミリー。今はまだ危ないから私が預かっておくけど、これを使えるようにならないとね?」


「うんっ!!」

書籍化に伴う書き下ろしのアンケートは本日までです!

活動報告に詳しい内容が書いてありますので、良かったら参加してください!!!

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