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255話 久し振りの対談

「グウ」


「おっ、戻ったか、ロポ」


 トルネス王国より借りている屋敷の執務室で、書類を見ていると、開けっ放しの窓からロポが入ってくる。ロポには姉上のところに行ってもらっていたのだ。


 理由は昨日ロポが持って来た手紙だ。3人からの手紙を見て直ぐに帰る事を決めた俺は、ロナにトルネス陛下への謁見の申請をお願いしに行ってもらい、その間ロポには姉上のところに手紙を持って行ってもらっていた。


 ロナは既に戻ってきており、今日の午後に挨拶をする事になっている。今回の援軍の副官には先に帰る事は伝えており、まだ砦に残している兵士たちの事は任せる事にした。帰るのは俺を含めて100人に満たない人数で帰る事になる。まあ、帰るだけだから問題はないだろう。


 今帰って来たロポの背には、昨日と同じように鞄が背負われており、中に手紙が入っている。姉上からの手紙だ。内容はロポがやって来た事に驚いた事と、直ぐに会えるという内容が書かれていた。それから、ケリー夫人はミアが連れ出してくれている事が。


 昨日の今日で顔を合わせるのは少し難しいと思っていたので、姉上の気持ちは有り難い。俺は手紙を見て直ぐに準備をして屋敷を出た。今回はロナにも付いて来てもらう。最後にクルトにも会いたいだろうし。


 昨日は道中買い物しながら行ったため、かなり時間がかかってしまったが、今回は真っ直ぐと向かったため、20分ほどで着いた。ドアノックを鳴らすと、ガチャっと開かれる扉。扉を開けたのは姉上だった。


「いらっしゃい、レディウス。それからロナちゃんだったわね」


「急に来てすみません、姉上。急いで帰らないといけない用が出来まして」


「お、お久しぶりです、エリシア様」


「ふふ、そんなに固くならなくて良いわよ。それなら、少しは話せるかしら? エミリーにも会ってあげて欲しいの」


 俺は姉上の言葉に頷く。謁見まではまだ時間がある。話す時間は十分にある。俺たちは姉上に促されるまま家に入る。ただ、そこでロナとは別の部屋に案内された。姉上は何も言わずに入って欲しいというので入ると中には


「よく来た」


 俺を勘当した元父であるゲルマンがいた。ここはどうやらゲルマンの書斎らしい。


「……お久しぶりです。昨日は挨拶が出来ずに申し訳ありませんでした」


「いや、あの様な事が起きれば仕方あるまい。それに、今は私など平民にかしこまる必要はない。いや、私がかしこまるべきでしたな」


 そう言い、頭を下げてくるゲルマン。俺は慌てて頭をあげる様言う。それにこの場であればかしこまる必要もないことも伝える。勘当はされたが、この人は俺の親に違いないのだ。


 勘当された理由もわかっているし、今更あの時の事でこの人を恨む事なんてない。あの勘当があってこそ、今の俺がいるのだから。


「昨日の事はすまなかった。何度もケリーとは話したのだが、本人に会ってしまうとどうしても興奮してしまった様でな。許して欲しい」


「構いません。夫人の気持ちは子供を持つようになった身としてわからない事は無いですから。ただ、あの時の事を悔いる事もありません。俺は正しい事をしたと思っていますから」


「わかっている。あの時の事は誰もがバルドが悪かったと思っているからな」


 そう言いゲルマンは目を瞑ってしまった。少し気不味い時間が過ぎるが、その話をするためだけにここに呼んだのだろうか? しばらく沈黙が続いていると


「エミリーの父親はお前か?」


 と、尋ねられた。あまりにも突然尋ねられたので今の俺は間抜けな顔を晒しているだろう。その俺の表情だけでゲルマンは納得したようだ。……何やっているんだよ、俺。


「初めはウィリアム王子との子供だと勝手に思っていたが、ウィリアム王子の廃嫡の話がこの国まで流れて来てもエリシアは反応は薄かった。無かったと言ってもいいだろう。

 その後、エリシアを見ていると、クルトやミアたちとお前の話をしているのを聞いてな。エリシアの話の中で出て来る異性といえばお前かクルト、後はこちらに来てから出会った者たちだが、エミリーを授かった時期を考えれば、クルトとお前しかいなかった。

 ただ、クルトは誰が見てもミアを愛しているのがわかったのでな、消去法ではあるがもしかしたらと考えていたが……当たっていたか」


「……申し訳ありません」


 俺は正直に謝った。そこまでわかっているのなら隠す必要も無いし、怒られる覚悟はそういう関係を持った時から覚悟していた。しかし


「別にいい。あの娘が決めた事だ。私がとやかく言う事ではない。確かに一族間の結婚は貴族の中ではない事もないからな。あまり勧められた事では無いが」


 そう言いながら苦笑いするゲルマン。……そういえばこんな表情を見るのは初めてだ。あの家に10年近くいたけど、俺の前で笑みを見せた事は無かった。そんな事を考えていると


「私の命は後数年らしい」


 と、とんでも無い事を言ってきた。突然な事に驚いていると、ゲルマンは話を続ける。


「最近血を吐くようになってきてな。治療師に診てもらったが治せなくてな」


「……皆には知らせたのですか?」


「いや、まだ知らせていない。お前が初めてだ。そこで頼みがある。私が死んだ後、エリシアたちは勿論だが……ケリーの面倒も見てはくれないだろうか? 

 勝手な事を言っているのはわかっている。私がお前を勘当して、お前が死ぬような思いをした事もエリシアから聞いている。そんな仕打ちをした私が頼める立場では無いのはわかっているが、他に頼める者がいないのだ。私の事はいくら恨んでくれてもいいが、だが……」


「恨んでなんかいないですよ」


 苦しそうな表情でお願いをして来るゲルマンの言葉を遮るように俺は言葉を続ける。


「あの時の事があったから今の俺がいると思っています。確かに死にかけた事はありましたが、あれも俺が自分で進んだ結果です。誰のせいでもありません。

 それに、姉上たちは勘当されたとしても家族です。ケリー夫人も。だから……父上はまずは治療を専念して下さい。本当に助からない病かもしれませんが、まだ、諦めるのは早いはずです。俺も力になれる事は力になりますから」


 俺が真剣に言うと、それを見た父上は目頭を押さえて涙を流していた。……本当に今更ながらだが、この時初めてゲルマン……いや、父上と心が交わせた気がした。

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