253話 珍客
「へぇ〜、それじゃあ、レディウスさんとクーネって知り合いだったんですか?」
「ああ。まあ、知り合いと言っても、ほんの少し話した程度なのだけど」
「……」
酒を飲むために入った店『ハピネス』に入って30分ほどが経った。俺の左側に座る茶髪の女性、メディナは髪の色関係無く積極的に話しかけてくるが、右側に座る金髪の女性、クーネリアはそこに座ってからちびちびとお酒を飲むだけで、あまり話さない。
「もー、クーネったら。恥ずかしがって話さないなんて無しよ。レディウスさんが可哀想じゃない」
その姿をチラチラと見ていたメディナが流石に見兼ねたのか苦言を漏らす。その言葉にクーネリアはビクッと震え、俺の方を向いて謝ってきた。
「ご、ごめんなさい。知っている人だとどうしても緊張しちゃって」
午後の打ち合いの時とは全く違ったしおらしい態度に少し驚いてしまったが、俺は気にしていないと首を振る。
「ふふっ、クーネが許してもらったところで、2人はどこで出会ったの?」
メディナの問いに、俺とクーネリアは顔を見合わせながらお酒を飲む。まあ、別に隠すような事ではないので話してもいいか。
「俺とクーネは剣術道場で出会ったんだよ。烈炎流って知ってる?」
「もう、馬鹿にしないでよ〜、知っているに決まっているじゃない。クーネが通っているのも知ってるんだから」
「そうなのか。なら話は早いな。その道場で俺が喧嘩を売られたんだよ」
「ちょっ!? 言いかたってもんがあるでしょう!?」
俺がニヤリと笑みを浮かべながら言うと、少し慌てた様子で俺の袖を引っ張るクーネ。クーネも恥ずかしくなくなってきたのか、かなり話すようになって来た。
「あっ、そういえば、レディウスさんはどうしてエリシア様と一緒にいたのよ? どこで知り合ったの!」
「あら、レディウスさんはエリシアさんと知り合いなのね」
そんな風に色々と話していると、話題は姉上の事になった。しかも、クーネリアだけでなく、メディナも知っているようだ。案外有名なんだな、姉上。
詳しく聞くと、姉上はスラム街寄りのところで、子供たちに文字や簡単な計算を教えたりしているらしい。後、魔法の才能のある子には魔法を教えたりと。その界隈には有名なのだとか。『紅蓮の魔女』として。
その辺りをシマとしている奴らを吹き飛ばし、そいつらの親分のところまで単騎乗り込んだりした事があるのだとか。さすが姉上だな。
「まあ、別に隠しているわけじゃないから言うけど、彼女は俺の腹違いの姉なんだよ。久し振りにあったから2人でエミリーを迎えに行ったんだ。そこで絡まれて……」
「も、もういいじゃないその事は! それよりも、エリシア様のお話を聞かせてよ!」
姉上の話になると、最初の頃が嘘のようにグイグイとくるクーネリア。それから2人の事を聞きながら姉上の事を話したりと、意外と楽しい時間が過ぎて行った。
メディナは昼間は図書館の司書をしているらしいのだが、あまり賃金が良くないらしく、そのため夜も働いているそうだ。
クーネリアは父親の病気の治療のためにお金が必要らしく、母親は付きっ切りで世話をしないといけないため、長女のクーネリアがお金を稼いでるそうだ。
思ったよりも重たい話で、気不味い空気になってしまったが、もう少しでお金が貯まるから、それで父親を治せるという話を聞けたおかげで重たい空気も和らいだ。
しばらく話をしながら飲んでいると、気が付けば2時間近く経っていた。初めての経験で気分が高揚したせいか時間が経つのが早く感じてしまうな。そろそろ、帰ろうかとした時
「おう、邪魔するぞ」
と、4人の男たちが店へと入って来た。男たちが入って来た騒然とする店の中。俺の相手をしてくれた男の店員が顔を引きつらせながら対応すると
「おう、兄ちゃん。店長呼んで来い。そろそろ貸した金を返してもらわなな」
……ふむ、どうやらこの店は金貸しに金を借りているようだな。しかし、営業中に来るか普通?
男の店員を囲む様子をじっと見ていると、俺の視線に気がついたのか、4人のうちの1番背の低い男が俺に気がついてやって来た。
「おい、黒髪。お前みたいなクズがこんなところに何の用や? それから、俺らの事睨んどったやろ? 喧嘩売っとんのかお前?」
おーおー、初対面に対してえらく喧嘩腰だな、こいつ。俺が黙って男を見ながら酒を飲んでいると、男は突然俺の胸ぐらを掴んできた。
「無視すんじゃねえよ。舐めてんのか? あぁ?」
「ちょっと! やめなさいよ、あんた!」
男が胸ぐらを引っ張るため、嫌でも立たないといけなくなり立つと、クーネリアが掴む手を離させようとするが、男はキレながらクーネリアを突き飛ばした。……はぁ、黙っていれば離れると思ったが、この類いの奴らはこういう時に限って絡んでくるんだよな。
「離せよ」
「あぁん? んだと?」
「離せって言ってんだよ。女に手を出すクズが」
酔っているせいか自分でも口悪いなー、と思いながらも男の胸ぐらを掴み持ち上げる。男は持ち上げられた事に慌ててジタバタとして、掴まれている俺の腕を叩くが、全く痛くない。
俺はそのまま掴んだ男を、こちらへと近づいてくる男たちに向かって投げる。まさか投げるとは思っていなかったのか、慌てて避ける男たち。俺が投げた男は誰にも受け止められる事なく、壁に激突した。可哀想に。
しかし、自分の思っていた以上に酔っているなこれ。王都に着く前の姉上たちと飲んだ時は、同じぐらい飲んだがここまでじゃなかった。もしかしたら夕方の事があったせいか、悪酔いしてしまったのかもしれない。その日の気分によっても酔いは変わるようだし。
「てめえ、誰に手を出したかわかってんのか!?」
「知らねえよ。それより絡んで来たのはお前らだろ。これ以上絡んでくるって言うのなら、か「グゥ」ごしろよ? ……ぐぅ?」
俺と絡んでくる男たちが睨み合いながら話していると、そこに割り込むように謎の鳴き声が聞こえて来た。しかも、聞き覚えのある声だ。店の中にいた全員が声のした方を見ると
「グゥ」
よっ! という感じで右前足を上げて、もぐもぐと何かを食べているロポが机の上に座っていた。背中にはロポの体ぐらいある鞄を背負って。……なぜお前がここにいるんだよ。
6月25日に更新予定です!
その時にご報告がありますので、ご覧いただけたらと思います!




