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251話 娘との話し合い

「……クーネはあのままで良かったのですか?」


「大丈夫よ。道場の人たちが看てくれていたし、アルテナちゃんも残ってくれたしね」


 先ほどでの道場の事を思い出しながら姉上に尋ねると、そんな答えが返って来た。まあ、道場の人たちの中で女性の方たちが率先して引き受けてくれたから大丈夫だとは思うけど。


「まあ、とにかく座って。直ぐにクルトたちも来ると思うから」


 道場での一悶着があったが姉上たちの家に帰って来た俺たち。道場で汗をかいてしまったエミリーをミアがお風呂に入れに行き、その間クルトとミアの息子であるアルトの様子をクルトが見ている。その間俺は姉上と共にリビングにいた。


 姉上が淹れてくれた紅茶を飲みながら椅子に座って待つ。みんなを待つ間は俺も姉上も黙り込んでいた。今からの事を考えるとどうしても話しづらかったのだ。しばらく重苦しい雰囲気が続くと


「ママぁー!!」


 と、ピンクの可愛らしい部屋着を着たエミリーが現れて姉上の方へととてとてと走っていく。お風呂でゆっくりと温まったのか、暑さで頰を赤く染めて、髪の毛からは微かに湯気が立つ。


「お待たせしました、レディウス様」


 そして、エミリーをお風呂に入れていたミアとアルトを抱くクルトもリビングへとやって来た。長方形のテーブルに、俺の前には姉上、姉上の隣にエミリー、アルトを抱いたミアと続き、俺の隣にクルトが座る。


 その様子を見た姉上は、深く深呼吸をしてから目を瞑り、そして意を決して目を開いてエミリーの方を向く。姉上の真剣な眼差しに不安そうな表情を浮かべるエミリー。そこから、俺に関しての話が始まった。


 姉上と俺との関係から始まり、今は離れて暮らしている事、ミアやクルトとの関係も。正直に言ったらまだ3歳だと言うエミリーには物凄く難しい話だろう。だけど、エミリーは黙って姉上の話を聞いていた。


「……じゃあ、パパはパパじゃないの?」


 それは姉上の話を聞き終えたエミリーの言葉だった。その一言にみんなは黙ってしまう。


 ここで言うエミリーのパパとはクルトの事だろう。彼女にとってのパパはクルトだった。だけど、今の話を聞いて違うという事が分かったのだろう。賢い子だ。


 不安そうに俺たちを見るエミリーになんて言おうかと困っている姉上。俺はこのままでは駄目だと思い立ち上がりエミリーの下まで近づく。俺を不安そうに見上げるエミリーを見るのは辛いが、そのままエミリーの側まで行き、その場に膝をついてエミリーと同じ視線になるようにしゃがむ。


「パパはパパだよ。それは変わらない。エミリーが生まれてくれたその時から側にいてくれたクルトは君のパパだよ」


 クルトは俺が側にいられないからと姉上たちについて行ってくれた。それは自分が好きなミアがいるからついでなのかもしれないが、それでも、男1人で彼女たちを守ってくれた。そのクルトを血が繋がっていないからエミリーの父親じゃないなんて俺はとても言えない。


「本当は俺がエミリーの側にいてあげないといけないのに、側にいてあげられなくてごめんな」


「……パ、パパはは私の事が嫌いなの? だから私の側にいてくれないの?」


「そんな事はない! 俺はエミリーの事を愛している。本当なら今すぐ連れて帰りたいくらいだ。だが……いや、エミリーにそう思われてもしかたないな。俺が不甲斐ないせいだ」


 エミリーにこうなった原因の事件の事を話しても仕方がない。結局こうなってしまったのは俺に力が無かったせいなのだから。


「レディウスだけが悪いわけじゃないわ。私がエミリーにちゃんと伝えなかったが悪いのよ。エミリー、パパは側にはいられなかったけど、誰よりもエミリーの事を愛してくれているわ。それは間違いないわ」


「……ほんと?」


 尋ねてくるエミリーに俺は頷く。それは間違いない。俺をじっと見ていたエミリーは、椅子から降りて恐る恐る俺に近づいてくる。そして、ぼふっと抱きついてきた。俺は何も言わずにエミリーを抱き締め返す。思わず力が入ってしまうがそれは許してほしい。そんな俺たちを包むように姉上も抱き締めてくれて、気が付けば姉上も俺も涙を流していた。


 ……どれぐらいそうしていたかわからないが、落ち着いた俺たちは再び椅子に座り、料理をする姉上とミアの後ろ姿を眺めていた。


 エミリーは色々とあり過ぎて疲れたのか眠ってしまい、今はアルトと一緒に寝ている。


「いやー、話が上手くいって良かったっすね、兄貴」


「ああ、良かったよ。それから、今までありがとうな、クルト。お前がみんなを守ってくれたから、俺も会う事が出来た」


「へへっ、やめてくれよ。俺がここにいられるのは兄貴が助けてくれたおかげなんだから」


 照れた風に笑うクルトを見て、俺をつい笑ってしまう。そんな風に話しながら料理を待っていると、ガチャっと扉が開かれた。俺もクルトも音のした方を見ると


「ふぅ、帰ったぞ、エリシア、クルト、ミア。今日も中々の売り上げ……で……」


 と、懐かしい人が入って来た。3年前に別れてからかなり老けてしまったが忘れる事のない顔。俺や姉上の親である父上だった。向こうも俺の顔を覚えていたのか、俺を見て固まってしまった。


「あら、何をしているのあなた? 入り口で立ち止まらないでちょう……だい」


 更に入って来たのは姉上の母親で、俺たちの事を目の敵にしていたケリー夫人だった。ケリー夫人も俺を見て固まってしまい、その姿を見た父上が止めようとしたが間に合わず


「ど……どうして人殺しがこの家にいるのよっ! バルトを殺したあなたがどうして!?」


 俺に掴みかかろうとするケリー夫人を見て、俺は話が終わって直ぐに帰るべきだったと後悔してしまった。 

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