250話 姉を狙う者
「あれが烈炎流の道場よ」
姉上が指差す先には、そこそこ大きな門構えをした屋敷があった。貴族の屋敷と平民の屋敷の境目辺りの場所に建つ屋敷で、入り口から烈炎流の生徒だと思われる青年たちが座っているのが見える。
三流派を習って来た俺だが、師匠の元を旅立って王都についてからは色々とあってこういう道場を訪れる事が出来なかったから、なんだか不思議な感じだ。
そんな事を考えながら姉上と共に烈炎流の門をくぐる。門下生たちもやって来た俺達を、特に姉上を見ていた。姉上を見て頰を赤く染める門下生たち。まあ、姉上は美人だからな、当然の事だが。
そしてその門下生たちは屋敷と繋がっている道場へと入って行った。えらく忙しない奴らだったがなんだっだ?
変に思いながらも俺たちも道場の中へと入ると、カンッ、カンッと剣を打ち合う音が聞こえる。音のする方を見ると2人の男女が模擬戦をしており、その奥では俺の膝ぐらいの身長しかない子供たちが子供用の木剣で素振りをしていた。
そして、その奥の保護者が何人かいる中には懐かしい顔があった。俺と母上を支えてくれた女性、ミアだ。最後に見た時は少女の面影があったが、今ではもう母親の表情を浮かべている。膝の上で眠る彼女の息子の頭を優しく撫でて。
そんなミアの方を見ていると、カカンッと一際甲高い音がするとともにこちらに何か飛んできた。それは真っ直ぐと姉上の方へと向かい……左手で掴む。
飛んできたのはどうやら木剣で、先程まで打ち合っていた男女の内、男の方が尻餅をついて女の方が剣先を男の喉元へと突き付けていた。
「もう終わり? そんな程度の実力であの方に近づこうとしたの?」
「ぐっ……い、今のはす、少し足が滑っただけだ! 次やれば俺が勝つ!」
男はそう言いながら木剣が飛んで行った方を見て、俺たちを見て固まる。正確に言えば姉上をだが。その男を見下ろしていた女も、男の視線の先を見て姉上がいるのを気が付いていつの間にか目の前にいた。速いな、おい。
「いらしていたのですね、エリシア様! もうっ、言ってくださりましたらお屋敷までお迎えに行きましたのに!」
「こ、こんにちは、クーネ。そんな良いわよ、迎えなんて。気にしないで」
姉上を少し引かせるほどの勢いのある女。身長は160ぐらいある姉上とおなじぐらいで、金髪を訓練の邪魔にならないように団子のように結んでいた。
「はぁ……はぁ……エリシア様のフローラルな香り……たまらないっ!」
姉上の手をしっかりと握りはぁはぁと息を荒くするクーネと呼ばれた女。こいつ……変態だ。俺もクーネの態度に軽く引いていたが、俺以上に姉上が頬を引きつらせていたので、木剣の剣先を向け軽く威圧する。
姉上の手を握ってニヤニヤとしていたクーネは、俺の威圧に当てられてその場を飛び退く。先ほどの動きからして上級に近い中級の実力はあるようだ。
「……あなた誰かしら? 師範以上の威圧を受けるなんて。それに、どうして私の場所にあなたがいるの?」
汗をかきながらも睨んでくるクーネ。私の場所? ……ああ、姉上の隣って事か? 俺がその事について何かを言う前にクーネは突然笑い出した。なんだ?
「……なるほど。これは試練という事ですね、エリシア様。あなたの隣に立つためにはその男性を倒せという!」
と、1人で完結して、木剣を構えて来た。色々と言いたい事はあるが、姉上を狙うというなら容赦はしなくても良いだろう。俺は黙ったまま剣先をクーネへと向けると姉上が
「程々にお願いね? ちょっとあんな感じだけど悪い子じゃないの。娘の事もよく見てくれるし」
と、言ってきた。ふむ、それなら少し手加減してやらない事もない。俺は特に構える事なく真っ直ぐとクーネの方へと歩く。
「……行くわよ!」
その俺を見て、先程まで姉上を見て惚けていた表情を真剣なものに変えて、木剣を烈炎流の構えにし、向かって切りかかって来た。
それを木剣で逸らすと、流れるように横に振って来る。それを受け止めて弾くと、俺から距離を取り、次は突きを放って来た。ふむ、鋭さもあり力もある。ヘレネーや俺とあまり年の変わらないのにかなりの実力だ。
「こ、のっ!」
しかし、まだ中級の域を出ない。烈炎流の剣を真正面から受け止められているのが答えだ。ヘレネーや師匠くらいになると、両手で踏ん張らないといけないからな。師匠だとそれでも厳しいし、手が痺れるが。
カンカンと何度も弾いていると、いつの間にかギャラリーが増えていた。皆、俺とクーネの試合を見ていた。その中には手を口に当てて驚くミアの姿と、こちらを指差してミアに何かを言う赤髪の少女がいた。もしかしてあの子が……
「くっ、これならどう!? 烈炎流、大火山!」
そんな姿を眺めていると、クーネが両手で木剣を掴み、魔力の込められた木剣が上段から勢い良く振り下ろして来る。俺はそれに対して軽く剣を振り上げてぶつける。
「明水流、水鏡」
効果は簡単、相手の力をそのまま跳ね返す技だ。言うのは簡単だがやるのはかなり難しい。相手の力をそのまま返さないといけないから強敵相手だとほとんど使えない技だ。これで初級だって言うんだから、明水流の難しさが伺える。
そんな明水流の技で自身の力をそのまま返されたクーネは、木剣を弾き返されて、衝撃で地面を転がる。まあまあの威力だ。これで諦めてくれたら良いのだけど……クーネはより燃えてきたようで、更に鋭く剣を振ってきた。
俺はそれを木剣でいなす。これを続ければ諦めるかと思ったが、何度防いでも勢いが弱まるどころか更に増していくクーネの剣速。思わず笑みを浮かべてしまう程の才能。それこそ下手すれば俺なんて勝てないかもしれない程に。
「はぁ……はぁ……なんて実力なの。師範よりも上じゃない」
「そろそろ諦めるか?」
「まさか!? 私はあなたを倒してエリシア様の隣に立つの!」
クーネはそう言いながら木剣を鞘に戻すように腰に戻して抜剣の構えを取る。そして木剣に集まる魔力。これは……
「……烈炎流……奥義」
彼女は抜剣の構えのまま、俺に向かって走り出す。防ぐのは簡単だが、彼女の意気込みを買って俺も真正面から受けて立とう。俺もクーネと同じように抜剣の構えを取る。魔力は抑え気味で。
「絶炎!!!」
「絶炎」
そしてクーネの居合に合わせて、俺も木剣を振り抜く。剣がぶつかり合う音も無く、俺とクーネの剣は止まることなく振り抜かれた。
しーんと静まる中、カランと1つ音がする。その音の元凶は木剣の先っぽだった。音に気がついた観覧者たちは俺とクーネの木剣の先を交互に見る。剣先があったのは……俺の木剣だった。
俺は油断なく構えながらクーネを見ると、クーネはその場に膝をついて下を見たままだった。悔しくて落ち込んでいるのかと思い近づくと、くーと音がする。不思議に思い覗き込んでみると……クーネは寝ていたのだった。
おそらく最後の絶炎で力を使い切ってしまったのだろう。そこに至るまで限界以上の力で剣を振っていたし。
「あれ……何やってんだアニキ?」
その眠ってしまったクーネを見ていると、観覧者たちをかぎ分けて入って来たクルト。その隣にはアルテナもいる。そして
「お久しぶりです、レディウス様」
と、俺に近づいてくるミア。その彼女の手には赤髪の少女の手が握られていて不思議そうに俺を見上げていた。
……ここからが本番だな。ただ、その前にクーネの事をどうにかしないと。
胃腸炎で1週間近く死んでいました。
投稿が遅くなり申し訳ございません。




