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249話 溺愛のあまりの失敗

「姉上は王都に来てどれくらいになるんですか……あっ、おばちゃん、その果物下さい」


「……まだ、買うの?」


 俺は姉上の少し呆れた声を背に受けながら、果物屋を営んでいるおばちゃんに欲しい果物を指差す。果物屋のおばちゃんは、俺の髪型を見て物凄く嫌そうな顔をするが、胸に付けられているこの国の国賓の証であるバッチを見て慌てて準備する。


 ここに来るまで何度目にかになるこの対応。このおばちゃんほど露骨な人はいなかったけど、皆似たような反応で、笑いを堪えるのが大変だ。


 先程からの店の対応を見て姉上から少し怒気が漏れているけど、騒ぎになるほどじゃないから気にしないでおこう。昔のように感情が高ぶって辺りで発火するような事が無ければ大丈夫だし、俺の事で怒ってくれていると思ったら嬉しいし。


 しかし、この国賓のバッチは効果が凄まじいな。トルネス王国の国章が入っているからだろうけど、このバッチのお陰で面倒な事に巻き込まれないから助かるのだが。


 顔を青くして慌てて果物を手渡してくるおばちゃん。俺は苦笑いしながら果物を受け取り、買い物袋へと入れる。


「……それで私たちが王都に来てどれくらいになるか、だったわね。ええっと確か……もうすぐで2年になるわね。クルトが王宮で働く事になったから、元々私たちがいた町から通うのは辛いだろうからとクルトだけ先に王都で住んで、私はエミリーを産んでから後を追った形になるわ」


「そういえば、どうしてクルトは軍に? ドタバタしていてその辺聞けていなかったんですよ……あっ、そのハート形のネックレスください」


「フロイスト王子の剣術指南役兼護衛の試験に受かったからよ。まあ、指南役と言っても烈炎流? だったかしら。その上級の師範が教えてくれるのを王子と一緒に学ぶのもあるみたいだけど」


「へぇ〜、上級の師範か。俺、師匠以外の人で3流派習っている人と会った事が無いんですよね……おっ、その人形1……2つください」


「……そうなの。そういえば、私もあなたの師匠に会った事が無かったわね。それから、あなたのヴィクトリアじゃない方の相手にも。いつか会えたら良いのだけど」


「……そうですね。俺も俺の大切な人たちに姉上を紹介したいです……あっ、そのお菓子下さい」


「……どれだけ買うのよ、レディウス?」


「えっ?」


 背後から呆れた声が聞こえて来たので振り返ると、溜息を吐く姉上。姉上の視線には先程からエミリーのために買った物を抱えている俺の腕を見ていた。


「いやー、エミリーって何が好きかわからないので、色々買ってあげようと思って……そうですね、少し買い過ぎましたね」


 ジトーと見てくる姉上の視線には耐えれずに目をそらす俺。姉上は溜息を吐きながらも、俺の両腕から荷物を取る。


「まあ、これも私が伝えなかったのがいけなかったからね。今回は良いけど、次からはあまり買わないでね。買い与えるのが当たり前だと思っちゃうから」


 やれやれといった風に荷物を持ってくれた姉上。俺は苦笑いしながらその後を追う。確かに買い過ぎちゃったな。興奮し過ぎたようだ。


 それから、歩く事15分ほど。王都の中心から少し外れたところに姉上たちが住む家があった。一軒家で、二階建ての家。両親に姉上とエミリー、クルトとミアの夫婦に息子のアルトが一緒に住んでも余裕があるほどの大きさの家だった。


 姉上はポケットから鍵を取り出して鍵を開け中へと入る。俺はドキドキしながら姉上の後に続く。ただ、家の中に人の気配がなかった。


「あら? 誰もいないのかしら? ミア〜、いないの?」


 ミアの名前を呼びながら中へと入る姉上。クルトはまだ死竜の関係で帰って来ていないのでいない。父上たちは仕事に行っていると姉上は言っていたから、いるのミアと子供たちだけのはず。


 もしかして何かあったのだろうか? そう思い荷物を玄関に置いて中へと入ると


「あー、そういえば今日は道場に行くって言っていたわね。忘れていたわ」


 と、手に持つ置き手紙をヒラヒラさせながら笑う姉上の姿があった……心配して損したぞ。


「……道場って、ミアと子供たちがか? 何しに行っているんだ? クルトもいないのに?」


「クルトから教われない時はね、王都にある烈炎流の道場に通っているのよ。ほら、さっき話した烈炎流の上級の師範で、フロイスト王子に剣を教えている人いたでしょ? その人の道場だから、安心して通わせる事が出来るの。エミリーくらいの歳の子は、何人かいるんだから」


 へぇー、エミリーってまだ3歳で今年4歳だろ? その歳で良く飽きずに通えるものだ。しかも、列炎流か。第2のヘレネーみたいになりそうだな。ヘレネーも4種類の魔法と烈炎流を使い分けて戦うし。


「それじゃあ、道場に行きましょうか」


 そう言い再び玄関へと向かう姉上。剣術を習うエミリーの姿もそうだが、師匠以外の烈炎流の師範には興味がある。どんな人がいてどんな訓練をしているのだろうか? 少し楽しみになって来た。


 ◇◇◇


「おい、準備はどうなっている?」


「はい。おおよその準備は完了しております。狙うとしたら、終戦記念で陛下が王都を離れた時でしょう」


「そうだな。少し計画を前倒ししても、狙うとすればその時だろう。ただ、それでも様々な事情で延びており、行われるのは1年後だと言われている。それまでにはある程度準備を終わらせておかなければ。

 あのお方には既に準備はしてもらっている。ベルギルス帝国からも、この辺りからは取ることの出来ないものを沢山輸入してもらっておるしな。

 後1年と言ってもあっという間だ。準備を怠るなよ?」


「はっ、かしこまりました」

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