235話 竜との邂逅
「……これは」
「……くそっ、私がいない間にここまで」
アルバスト王都でトルネス王国の現状を聞いた翌日から旅立って今日で2週間と少しが経ったが……俺たちが訪れた村は酷い有様だった。
アルバスト王国との国境辺りは、警戒はしていても被害は無かったのだが、南の方へと下っていくにつれて魔獣に襲われた町や村を見かけるようになった。
まだ、被害が少ないところもあれば、町1つ放棄したところもあった。中には鉄の門がドロドロに溶けているところも。聞けば、竜のブレスでなったという。
これは、ヴィクトリアの言う通り断っておけば良かったかな? と、少し後悔が頭を過る。あの時のヴィクトリアは凄かったからな。どうしてまた俺なのか、と陛下に詰め寄って、陛下もタジタジだったし。俺と王妃様が宥めてようやく納得してくれたからな。
ヴィクトリアにはメリエンダ夫人……領地でお世話になるからメリエンダさんで良いと言われたが、彼女と代官と一緒に伯爵領に戻って貰っているが、ヘレネーとパトリシアに帰ったらなんて言われるか。
早く解決してさっさと帰りたいところだが……この光景を見る限りかなり厳しいとしか言えない。
アルバスト王都で待っていて欲しいと頼んだが、自分がいた方が何かと話が進むだろう、とレグナント殿下も来たが、少し危険過ぎるな。
「ロナ、悪いがレグナント殿下の側にいてくれ。最悪はレグナント殿下を逃す事になる」
俺は隣に馬を並べるレグナント殿下を見て、反対側で馬を走らせるロナに小さな声で言う。今回はグリムドはヴィクトリアたちの護衛をお願いした。
陛下から賜った隊の方は隊長がいるからな。今も指揮をとってくれている。本当はロナも帰らしたかったが、今回は折れてくれなかったため、渋々ではあるが、補佐として連れてきた。
「……そんな時になれば、出来ればレディウス様も一緒に逃げて欲しいのですが……わかりました」
「ははっ、悪いな」
俺がロナに微笑むと呆れられてしまった。そんな、私が何を言っても聞いてくれませんしね、みたいな呆れた表情を浮かべないでくれよ。俺だって危なくなったらちゃんと逃げるからさ。
それからしばらく辺りを警戒しながら馬を進めていると、空気を震わせる怒号が辺りに響いた。俺たちは予想外の事に固まってしまい、馬たちも突然の事に恐慌状態となってしまった。ビアンカは領地に置いてきたため、王国から借りた良い馬だが、流石にこれには耐えられなかった。
「レ、レディウス様、今のは!?」
「……竜だろうな。隊長、この近くで村や町は?」
「……こ、ここから馬で30分ほど走らせたところに町があります、が……」
馬で30分なら中々の距離だが、それでも届く咆哮か。これは本当にレグナント殿下を先に安全なところへと行かせた方が良いかもしれない。いざという時には手遅れになるかも。
「レグナント殿下、いつでも逃げられる準備をお願いします。君たちは殿下の護衛を。ロナも頼んだよ。隊長、総員戦闘準備だ。馬を走らせるぞ!」
俺の言葉にレグナント殿下は悔しそうながらも頷いてくれて、ロナも渋々だが頷いてくれる。馬を走らせると、後ろに隊が同じようについて来た。
そして、10分ほど馬を走らせると、目の前に魔獣たちに襲われている町が見えた。魔獣はそこら辺の森から集まったのかゴブリンやオークにウルフなどいるが、数が多い。
そして、空にはどこから来たのかわからないがワイバーンが2体、そして、町を襲っているのをジッと見ている竜が1体いた。
赤黒い鱗をしており、所々傷でボロボロになっており、本来であれば生きているはずのない程の傷を負っているのに、竜は近くを飛ぶワイバーンが小鳥に見えるほどの圧を放っていた。
「あ、あれが竜か。私も聞いていただけだったため、初めて見たが……」
初めて竜を近くで見たレグナント殿下は、顔を青ざめていた。兵士たちですらそうなのだからこれは仕方ない。しかし、ここで固まってもいられない。
「全軍、今からあの魔獣の群れへと突っ込むぞ。町にいる兵士たちが避難出来れば、我々も殿として退く。ロナは兵を50名ほど率いて、レグナント殿下と共に、避難してくれ」
「……わかりました。ご武運を、レディウス様」
「……すまないが頼む。私では力不足で足を引っ張ってしまう」
俺は2人の言葉に頷き、レイディアントを抜く。さて、対策もなく戦うつもりはない。精々逃げる時間を作るだけだ。
「全軍、突撃!」
俺たちは町を襲う魔獣たちに向かって馬を走らせるのだった。




