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230話 元王妃

「……この度は助けて頂き有難うございました。私はメリエンダ様とケイリー様にお仕えする侍女、ミレイと申します」


「ああ、俺の名前はグリムドから聞いているかもしれないが、レディウス・アルノードだ。間に合って良かったよ」


 俺に礼を言う為に頭を下げるミレイ。見た目は恭しく頭を下げてくれているが、よく見れば槍を持つ手に力が入っているのがわかる。まあ、それも仕方がないのだろうけど。


 目の前には戦争に参加していた俺がいるのだから。しかも、戦争の大将を担っていたゼファー将軍を倒した俺が。


 ブリタリス王国に仕えていた彼女からすれば、俺の事など恨んでいてもおかしくない相手だ。それにまだ表はヘラヘラとしながら裏で何かを企てている奴よりかは、大分マシだ。そんな彼女を見ていると


「終わったの、ミレイ?」


 と、奥の屋敷から声が聞こえて来た。俺に頭を下げていたミレイはハッとして振り返ると、そこには金髪の髪を結い上げていて、赤色のドレスを着た綺麗な女性が屋敷から出て来た。


「メリエンダ様! まだ、屋敷から出て来ては駄目ですよ!」


 ミレイは慌ててメリエンダ夫人の方へと戻る。やっぱりメリエンダ夫人か。それにしても、話には聞いていたがかなり若いな。年はまだ20代後半って話を聞いていたが、正直に言ってヴィクトリアたちと見た目が変わらない。


 しばらくメリエンダ夫人とミレイが言い合う姿を眺めていると、パトリシアが乗った馬車が屋敷へと入っていく。俺たちも後に続くか。


 馬車と一緒に屋敷へと近付いてくる俺たちを見て目を見開くメリエンダ夫人。俺が来る事は前振りで知っているだろうし、容姿も聞いて知っていたのだろう。


 馬車が屋敷の前で止まり、降りて来るパトリシア。パトリシアと入れ替わるように兵士が2人馬車に入り、ケイリーを危なくないように馬車から下ろす。


 まさか、俺たちの馬車からケイリーが出て来るとは思ってなかったのだろう。慌てて近寄ろうとするけど、前に俺が立って阻む。2人、特にミレイが手に持っている槍を振りそうな雰囲気を出しているけど、軽く殺気を放って封じ込める。ここで暴れられている暇は無い。


「落ち着いて下さい、メリエンダ夫人。彼は大怪我を負っていたのを応急処置しただけです。早くちゃんとした手当をしなければなりません。どこか休めるところは?」


「っ! 中に入るわ。付いて来て」


 俺の言葉を聞いてどのような事がケイリーの身に起きたか分かったのだろう。メリエンダ夫人は辛そうな表情を浮かべながらも中へと案内する。


 そこからは早かった。屋敷の中にあるベッドにケイリーを寝かせて、屋敷から前に兵士に呼びに行かせた治療師にケイリーを診てもらい治療してもらった。


 メリエンダ夫人と落ち着いて話す事が出来るようになったのは、屋敷に来てから2時間後の事だった。


「……あなたたちのお陰で助かりました。有難う、アルノード伯爵」


「いえ。間に合ってよかったです。それで、メリエンダ夫人、この屋敷を襲って来た男たちに覚えはありますか?」


 俺の言葉に前に座るメリエンダ夫人とその後ろに立つミレイは顔を歪ませる。どうやら、誰がやったのか想像がついているようだ。


「襲って来たのは、おおよそだけどブリタリス公爵ね。兄である陛下が亡くなってから、俺の元へ来いとしつこく迫って来るの。表向きは私を守るため、ケイリーを守るためって言っているけど、本当は私の体目当てなのよ」


 そう言い、怒りを露わにするメリエンダ夫人。なるほどね。それじゃあ、ケイリーを捕らえて暴力を振るっていたのもブリタリス公爵の指示だろうか? 


 案外自演だったりして。ゴロツキに依頼してケイリーを捕らえさせて、死にかけのところを公爵の私兵が助け出すとか。ここを襲わせていたのも、自分の保護下にいないと危ないと思わせるため……とか。


 ……考えても仕方がないか。ただ、襲われるかもしれないのがわかっているのにこのままにはしておけない。


「メリエンダ夫人、今すぐ屋敷を出る準備をしてください。グリムド、3人を連れていくためにもう1つ馬車を用意してくれ。それに、俺とパトリシアが公爵の下に行っている間の護衛も振り分けておいてくれ。俺たちの方は少なめでいい」


「わかりました。選んで来ます」


 グリムドはそれだけ言って部屋を出る。俺の目の前には戸惑いが隠せないメリエンダ夫人の姿があった。いや、戸惑うというより迷っていると言ったほうが正しいのか。


「……どうして、私を、ケイリーを助けるの? あなたからすれば、私たちは敵国の元王族。助ける義理なんて無いはずよ?」


 そんな事で迷っていたのか。思わず笑ってしまった。


「そんな事、今となってはどうでもいい話です。もう、同じアルバスト王国の一員なのですから。まあ、メリエンダ夫人たちには申し訳ないのですが」


 俺の言葉にメリエンダ夫人が頭を横に振る。更には頭を下げて来た。これには俺もパトリシアも当然驚いた。まさか、元とはいえ王妃であったメリエンダ夫人に頭を下げられるとは思ってなかったからだ。


「お願い。私はどうなってもいいから、ケイリーだけは助けて頂戴。あの方の大切な息子だから」


 あの方というのはブリタリス王の事だろうか。そこら辺はわからないが、必死なメリエンダ夫人の願いは叶えないと。


 それにしても、ブリタリス公爵か。面倒そうだな。

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