224話 帰宅
「……やっと森を抜けたぞ」
アルーヴ族の村から転移をしてもらって今日で2日目。魔獣に襲われながらもようやく森を抜ける事が出来た!
森を抜けたところから見える俺の領地。ああ、やっと帰ってきたんだな。約2ヶ月ほどか。かなり時間が経ってしまったがようやく帰ってこれた。
俺少しずつ近づいていく街へと急ぎ足で向かう。早くみんなに姿を見せたい。早くみんなの姿を見たい。その気持ちが前へ前へと足を進ませる。
大平原の入り口から歩いて1時間ほど。ようやく俺は街へと辿り着いた。俺は早くみんなに会いたい気持ちで、とある事を失念していた。それは
「身分を証明出来る物を提示しろ」
自分の身分を明かせる物が手元になかったのだ。前にギルドへ行った時は、ギルドからの手紙があったため持って行ってなかったのだが、そのまま大平原の中へと転移させられ、そのまま喰われてしまったので、身分を明かせる物を何1つとして持っていないのだ。そして
「もし身分を証明出来る物が無いのなら、通行料を払ってもらう」
と言われたのだが……お金も持っていない。数週間の腹の中の生活で持っていた金が入った袋を無くしてしまったのだ。その結果、街に入る手段がこの通り無いというわけだ。
「怪しい奴だな。見窄らしい格好で、それに黒髪。どこかの浮浪者か? 剣だけは良いものを持って。それを俺たちに渡せば中入れてやるが?」
そう言い俺の剣へと目をつける兵士。確かに通行料としては十分どころか損しかしないほどだが、これは当然渡せない。
気が付けば3人の兵士に囲まれている俺。通行待ちをしている人たちからも怪しい目で見られる。さて、どうしたものか。誰かが中へと伝えてくれたら話は早いのだが。そう思っていたら
「レディウス!?」
と、俺の名を呼ぶ声が。振り返るとそこには1台の馬車が止まっていた。見た目からして貴族の馬車である。そして馬車から降りてきたのは1人の令嬢だった。
昔に比べてかなり伸びた金髪。腰には護身用に2本の剣が差されている。そして、真っ直ぐと俺の方へ向かって来る……のだが
「あっ、近寄ってはなりません。まだ、身分がわからない怪しい者です!」
と、兵士が俺と令嬢の間に入って止めようとする。だけど
「あなたはこの領地の主人の顔も知らないのですか! 彼はレディウス・アルノード伯爵、この領地を治める者です!」
と、怒鳴り声を上げた。兵士たちが呆気に取られる中、令嬢は俺の手を引いて馬車へと乗る。そして、街の中へと馬車を走らせる。
「……少し強引過ぎるんじゃ無いのか、アレス」
俺は目の前に座る令嬢、アレスティナ・オスティーンに苦笑いを浮かべながら尋ねる。アレスは俺の言葉に少し申し訳無さそうな表情を浮かべるが、直ぐに怒りの顔へと変わる。
「だって、領地の主人であるレディウスに対してあの対応はないじゃ無いか」
「まあ、仕方ない部分もあるんだよ。俺がこの領地にいたのはたった1日だけだったし。俺の顔を覚えている方が少ないよ。でも、ありがとな、俺の為に怒ってくれて。それで、アレスはどうしてここに?」
「そうだよ! レディウス、君を探しに来たんだよ! 王都でもレディウスの事、話題になっていて。それで私も少しでも力になればと……」
どうやら俺が行方不明になった事は、王都でもかなりの噂になっているらしい。その話を聞いたアレスは俺の事を探しにわざわざやって来てくれたのか。
「心配かけてごめんな、アレス。それから、わざわざ来てくれてありがとう」
「べ、別に良いさ。わ、私は生きていてくれさえいたら」
アレスは顔を赤くしてそれだけいうとそっぽを向いてしまった。気が付けば、懐かしの屋敷へとたどり着いており、馬車が屋敷の前で止まっていた。
ただ、馬車から見える屋敷の雰囲気はどこか暗く感じる。やっぱり、これは俺のせいだよな。
「ほら、何をしているんだよ。レディウスが先に行かなきゃ」
1人で申し訳ない気持ちになりながら屋敷を見ていると、アレスに先を急かされる。そうだよな。俺も早くみんなに会いたいし。
俺とアレスが馬車を降りると、近寄って来る門兵。そして、俺とアレスを交互に見てから屋敷の中へと走って行ってしまった。
「……行っちゃったね」
「……ああ、何も言う暇が無かったぞ」
俺もアレスも苦笑いしながら待っていると、屋敷の扉が吹き飛んだ。いやいや、勢い良く開けすぎだろ!
そんな勢い良く吹き飛ばされた扉の向こうから姿を現れたのは、ここにいるはずのないヘレネーだった。その後ろにはパトリシアとヴィクトリアが付いて来る。
ヘレネーは全身に纏を発動して全力で俺に飛び込んできた。これはやばい! 俺も纏を発動してヘレネーに負担がないように抱きしめる。
ヘレネーはなんとか踏ん張ったが、その後に続いてヴィクトリア、パトリシアが俺に抱き付いてきたため、俺は踏ん張り切れずにその場に倒れ込んでしまった。
つい何か言ってやろうかと思ったが、3人が3人とも涙を流して力一杯俺に抱きつく姿を見て、そんな思いは消え去った。ただ、今俺の中にあるのは、帰って来て良かった、と、心配かけてごめん、と言うことだけだった。




