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211話 山積みの問題

「やっと着いたな」


「ええ、予定より2日程遅れてですからね」


 ハーピーの群れに襲われてから5日後。俺たちは新しいアルノード領へと辿り着いた。ハーピーの群れに襲われた日から、何度か再び襲われる事があったため、予定より到着が遅くなってしまったのだ。


 ハーピーはハーピーで面倒だったが、ハーピーの死体から流れる血の匂いに誘われてやってくる魔獣も面倒だった。


 ハーピーの死体は焼いてしまえばそれでおしまいなのだが、兵士の装備についた返り血までは完璧に取る事が出来なかった。そのため、兵士の装備から匂う血の匂いを辿って、何度か魔獣が襲ってきたのだ。その度倒していたため、予定より到着が遅くなってしまったってわけだ。


 俺たちのなる馬車が門に近づくと門兵が門を開けてくれる。そして、門の向こうにはグリムドとクリスチャンが待っていた。そういえば、もう引き継ぎは終えていたから、グリムドと一緒に行かせたんだった。忘れてた。


 馬車はグリムドたちの前まで行くと止まる。兵士が馬車の扉を開けてくれたので降りると


「全員、敬礼!」


 グリムドの号令に姿勢を正す兵士たち。別にここまでしなくても良いのだが。まあ、事前にグリムドから手紙を貰っていたから驚きはしないのだけど。民たちに兵士がどれだけ鍛えられているか見せるなんてな。


「ご苦労。何か問題は?」


「はい、まあ、色々とありますが、それは屋敷でたっぷりと。今からは領主の顔を覚えてもらうためのパレードを行います……そんな嫌な顔をしないでくださいよ」


 クリスチャンの言葉に思わず顔を顰めてしまった。何だよ、パレードって。


「ブランカの準備は出来ていますよ、伯爵」


 グリムドお前もか……仕方ない。俺はグリムドたちの言われるがままブランカの背に乗り、街の中を歩き回る。


 この目的は、領主である俺の顔を領民たちに知ってもらうためだそうだ。領民は皆一様に俺の頭を見てくる。まあ、黒髪の奴が貴族なんて今までいなかっただろうしな。


 俺の顔を覚えてもらうためのパレードは街を歩き回るまで続いた。この街の俺の新しい屋敷に入れたのは、この街に辿り着いてから2時間後の事だった。


 ◇◇◇


「あぁぁ〜、疲れた」


「ふふっ、ご苦労様です、レディウス。でも、これも領主としての大切な仕事ですよ」


「わかっているよ、ヴィクトリア。ただ、どうしても口に出さないと気が済まなくてな」


「まあ、その気持ちはわかります。私も王女の時は何度もパラードを行いましたし。どれだけ疲れていても笑みを絶やしてはいけない。それだけは必死に守っていましたから」


 そうだよな。パトリシアなんて俺以上に苦労しているはずだからな。


「レディウス、私はそろそろ戻るよ」


 ヴィクトリアとパトリシアと話をしていると、後ろから師匠がやってくる。着いたばかりなのにもう帰るのか。もう少しゆっくりして行ったら良いのに。そう思ったけど、師匠は俺たちのために早く帰ってくれるんだろう。本当にこの人には頭が上がらない。


「2週間ありがとうございました。師匠のおかげで快適な旅を行う事が出来ました」


「別に私のおかげじゃないさ。それじゃあ、次に会うのは子供たちを連れて来た時だね」


「はい、ありがとうございます!」


 俺は深く師匠に頭を下げる。師匠は手をひらひらと振りながら転移で戻って行った。


 それから、俺たちは昼食を食べてから、この屋敷の会議室へと集まっていた。到着した時に聞いた問題について話し合うためだ。


 集まったのは俺、ヴィクトリア、パトリシア、グリムド、クリスチャン、それから新しい部隊獣人部隊の副隊長をするフクロウの獣人、ファレマだ。隊長は勿論パトリシアになる。


「まず、1番の問題は戦争の傷跡でしょう。大平原が近く、危ない場所というのもありますが、この街は孤児が多いようです。しかも、その孤児を捕まえて売る奴隷商や孤児を利用して悪事を働く奴らも後を絶ちません」


「グリムドたちが派遣される前の代官はどうしていたんだ? 陛下からの勅命で孤児に対しては保護するように通達が出ていたはずだ」


 陛下は戦争で孤児が増える事を見越して、そういう命令は既にでていた。保護が無理なら街の孤児院や教会に資金を渡して手伝ってもらう手筈になっていたはずだが。


「私どもが来る前の代官も同じ様に甘い蜜を吸っていたのです。賄賂を貰って。既に捕らえて地下牢に入れています」


「……わかった。その孤児たちをどうにかしないとな。他には?」


「やはり冒険者ギルドですね。これを読んでください」


 グリムドが懐から手紙を取り出して俺に渡して来る。俺は手紙を受け取って内容を読んでみると……ふざけているのかこれは。思わず握り潰してしまったじゃないか。


「レディウス、何が書かれていたのですか?」


「……パトリシア、気を悪くしないでくれよ。冒険者ギルドは獣人を人間として認めない。見つけ次第魔獣として討伐する、と書かれていた。本当にふざけている。彼らだってなりたくてなった奴は少ないというのに」


 戦争中、少しの間だが獣人たちと一緒にいた時期にがあるからその時に聞いたのだが、獣人部隊に入った奴らの大半は金に困っている奴らだった。家族の誰かが病気だったり、借金だったり、理由は色々だけど、自分から進んでなった奴は少なかった。


 パトリシアだってそうだ。彼女だって好きで獣人になった訳ではない。今は普通に過ごしているけど、慣れるまで苦労していたのを俺は知っている。


 そんな事も知らないで勝手な事を言いやがって。


「わかった。冒険者ギルドには明日向かう。パトリシア、少し嫌な思いをするかもしれないけど、明日ついて来てくれるか?」


「今更ですよ。勿論ついていきます」


 俺の言葉に笑顔で答えてくれるパトリシア。はぁ、来て早々問題が山積みだな。

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