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195話 嘆願書

「……オスティーン男……伯爵も呼ばれたのですか?」


 突然陛下に呼ばれた俺は急ぎ足で王宮の中を歩いていると、目の前を歩くオスティーン伯爵を見つけた。俺が呼んだ事で振り向くオスティーン伯爵。


「おお、アルノード伯爵、やはりお主も呼ばれていたか」


「ええ、今回の事については?」


「詳しくは聞いておらん。ただ、この前の戦争に関わってパトリシア王女と親しい者だけを呼んだとしか」


「俺も似たようなものです。しかし、リストニック侯爵は何を考えているのでしょうか? 王女との婚約の話を破棄するなんて」


「私にもわからんよ。あの者が何を考えているかなんて」


 俺たちはそのまま案内された会議室へと入る。中には既に国王陛下やレイブン将軍、セプテンバーム公爵などもいた。


「よく来たな2人とも。座ってくれ」


 陛下の言葉に従い、俺とオスティーン伯爵は席に座る。人数は全員で8人。陛下、レイブン将軍、セプテンバーム公爵、宰相、見たことの無い貴族の男性が2人。そして、俺とオスティーン伯爵だ。


 見たことない2人の男性の内1人はセプテンバーム公爵と年齢がさほど変わらないぐらいで、かなり引き締まった体をしている。


 もう1人はグリムドと同年代ぐらいの若い男性だ。ただ、隣に座る男性に比べてかなり線が細い。剣も持てなさそうだな。


「オスティーン伯爵は知っていると思うが、アルノード伯爵は知らぬからな、この2人を紹介しておこう。こっちの老年の方が北の国境を守るネイギア・バルスタン公爵だ。その隣が公爵の次男でシルーグ・バルスタンだ」


「お主か、セプテンバームと親戚となった貴族というのは。可哀想に。こんな堅物が義父になるなんてな」


「ふん、貴様のように息子に全てを任せているような奴に言われたく無いわ」


「まあまあ、父上もセプテンバームおじさんもそこまでにしましょうよ。ほら、アルノード伯爵も驚いていますよ」


 紹介のはずなのに突然始まった喧嘩を止めてくれたのは、シルーグ殿だった。困ったように笑みを浮かべるシルーグ殿の言葉で、バルスタン公爵とセプテンバーム公爵は睨み合いながらも黙る。そして、はぁ、と溜息を吐いたシルーグ殿は俺の方を見て来た。


「初めまして、アルノード伯爵。僕の名前はシルーグ・バルスタン。バルスタン公爵家の次男で研究者だ」


「初めまして、私の名前はレディウス・アルノードです。よろしくお願いします、シルーグ殿」


「むっ、シルーグに先を越されてしまった。私の名前はネイギア・バルスタンだ。そこの堅物ジジイよりは役に立つからいつでも頼るといい」


「は、はは、よろしくお願いします」


 や、やめてくれよ。なんて返せばいいかわからない内容で話すのは。バルスタン公爵の言葉に再び睨み合いを始める2人。また、始まるのか? そう思って見ていると、パンパンと手を叩く音がする。手を叩いたのはレイブン将軍だった。


「2人ともそろそろ話を始めましょう。陛下」


「うむ。既に皆をここに呼んだ理由はわかっていると思うが、昨日リストニック侯爵が直接やって来てな。パトリシアとの婚約を破棄していった」


「理由はわかっているのですかな?」


「ああ、混じりは認めない、だそうだ」


 バルスタン公爵の問いに簡潔に答える陛下。混じりは認めない……パトリシア王女が獣人の事を言っているのか。


「終いには、こんなもんまで用意しておったわ」


 陛下は忌々しげに机の上に紙束を放った。結構な厚さの紙束だ。セプテンバーム公爵が視線で見てもいいか尋ねると、陛下は頷く。セプテンバーム公爵がパラパラとめくって中を見ていくと、次第に表情が変わっていく。


「セプテンバーム公爵、何が書かれていたのですかな?」


「オスティーン伯爵……パトリシア王女を王家から外す事への貴族たちからの嘆願書だ。ふざけおって」


 セプテンバーム公爵が見終えると、その嘆願書とやらを順番に回していく。俺の番が来て内容を確認すると、確かにパトリシア王女を王家から外す事を希望する内容が書かれていた。神聖な王族の血が獣の血で汚れないように、と。


 俺は思わず嘆願書を破りそうになった。まだ、見ていない人がいたので何とか耐えたが、それが無ければ切り刻んでいるところだ。


 パトリシア王女が汚れているだと? ふざけているのか。彼女が命を張って連合軍を足止めしたからこそ、俺たちが間に合って、戦争に勝つ事が出来たんだ。そんな彼女の事を汚れているなんて……


「落ち着くんだ、アルノード伯爵。君の気持ちは皆一緒だ」


 嘆願書でイライラしているとレイブン将軍に窘められる。無意識に怒気を周りに撒き散らしていたようだ。俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。ふぅ、よし。


「これがリストニック侯爵だけなら侯爵に相応の罰を与えればよいのだが、問題はこの嘆願書だ。侯(?)爵以下の貴族が30近く出して来ている。彼らは、リストニック侯爵が寄子としている貴族たちだろう。国としては流石に30にもなる貴族の意見を無視する訳にはいかない」


 苦々しく呟く陛下。それは仕方ないだろう。いくら王の力が強いといっても、貴族の意見を無視するわけにはいかない。これが1人、2人程度ならともかく、かなりの人数、それもそれなり大きな貴族が含まれている。余計に無視するわけにはいかないだろう。


「それで陛下はどのようにお考えで?」


「うむ。忌々しい話だがこの嘆願書を無視する事は出来ないだろう。かといって、このままこやつらの言う通りにするのはわしが許さん。だから、こやつらの希望も受け入れて、わし自身が許せる方法は……」


 陛下はそう言いながら俺の方を見てくる。そして


「アルノード伯爵よ。私の娘であるパトリシアをそなたの新しい領地へと連れて行ってはくれないだろうか?」


 そのまま俺に向かって頭を下げるのだった。

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