194話 凱旋
ブリタリス・ゲルテリウスの連合軍との戦争が終結して2週間後、戦争に赴いていた俺たちは半年振りぐらいに王都へと帰って来た。特に変わることの無い王都の見栄えに何故か安心している。
「帰って来ましたな、アルノード子爵」
「ええ、ようやくですよ」
俺の隣に馬を走らせるのはオスティーン男爵。オスティーン男爵も久し振りの王都を見て嬉しそうだ。そう思って見ていたら、オスティーン男爵が俺の方を見てくる。なんだ?
「アルノード子爵よ。今度我が家に来ないか? 妻も娘も会いたがっているだろうからな」
オスティーン男爵の屋敷か。そうだな、今回の戦争ではとてもお世話になった。お礼に伺うのも良いだろう。
「そうですね。こちらも落ち着きましたら伺わせて頂きます」
「うむ、勿論奥方たちが出産された後で構わないですからな。今は何よりそちらの方が気になっているだろうから」
「はは、そうさせてもらいます。しかし、変な気分ですよ。自分が父親になるなんて」
「その気持ちはわかるぞ。私自身味わいましたからな。これは子育てに1度失敗している私の戯言にはなるのですが、子供は子供で自身の考えを持っています。それなのに親の意見を押し付けるのは逆効果でしょう。親は間違えないように助言するだけで良いようです」
自虐地味に自分の経験を話すオスティーン男爵。アレスを男として育てた事を言っているのか。俺は神妙に頷く。そこに
「アルノード子爵、オスティーン男爵、何か楽しいお話ですか?」
と、俺の横に馬を並べる美女。本来ならあるはずのない狐の耳と尻尾を持つ獣人の女性、パトリシア王女が訪ねて来た。
彼女は今は特に顔などは隠していない。ただ、街の中などに入った際はローブを被ってもらっている。今の獣人たちは、敵国の捕虜だけだからな。あまり表立っては動けないのだ。そのかわり、周りは兵しかいない今のような場合は脱いでもらっている。
ただ、これに関してはいつまでも隠してはいられない。いずれ話さないと行けないのだが、どうするのだろうか。
そうこうしているうちに王都の門の前までやって来た。今から戦勝の凱旋が行われる。王都中の人々に見られるという少し恥ずかしいものだが。
そういえば、前の時は凱旋パレードには参加出来なかったなぁ。死壁隊の奴らやガラナは元気にしているだろうか。
この凱旋の順番は今回の戦争の大将であるレイブン将軍から順番に入って行く予定だ。俺やオスティーン男爵は真ん中あたりだ。別に場所なんてどうでも良いのだけどな。そんな事より早くヘレネーたちに会いたい。
「開門!!!」
門兵の号令により門が開かれる。そして少しすると地面が揺れるほどの歓声が巻き起こる。その流れに乗って俺たちも馬を進める。
オスティーン男爵は慣れているのか国民に向かって手を振っていた。俺なんかガチガチなのに。グリムドも慣れたように手を振っており、女性たちからきゃあきゃあと歓声をもらっていた。
俺は慣れないのでぎこちなかったが、なんとか王宮まで馬を進める事が出来た。時間をかけて進めたため、ブランカが面倒くさそうに鳴いていたが、まあ、許せ。
王宮にたどり着くと、文官がやって来て中に入れる者を呼んで行く。まあ、全員は入られないからな。俺やオスティーン男爵も呼ばれて中へと入る。真っ直ぐ玉座の間へて連れて行かれる。
先頭をレイブン将軍とパトリシア王女が並んで玉座の間へと入る。俺はオスティーン男爵と共に列の後ろに並ぶ。玉座の間に陛下と王妃様が並んで座っていた。
ただ、やっぱりと言うか、皆パトリシア王女の姿を見て戸惑いの声を出す。パトリシア王女は見る限りは気にした様子はないが……。
「陛下、レイブン以下5万、ただいま戻りました」
「うむ、よくぞ戻ってきた。私はそなたたちの様な英雄たちがこの国の兵士としている事を誇りと思う。パトリシアも良く戻ってきた。無事で良かった」
「はい。心配おかけいたしました、お父様、お母様」
「良いのですよ。無事に帰って来てくれて。ねぇ、あなた」
「ああ。その通りだ。パトリシアがこの通り戻って来たのも皆のおかげだ。この事に報いようと思う。宰相よ」
「はっ、それではこれより褒賞会を行う。名前を呼ばれた者は前へ出るように」
まず初めに呼ばれたのは当然軍を率いたレイブン将軍だ。レイブン将軍は伯爵位から侯爵位へと、更に褒賞金が大量に出た。土地を持った貴族ではないので、爵位だけだ。
次に呼ばれたのがオスティーン男爵だ。少ない兵士を連れて準備が出来るまでの間、砦を守り抜いた事により、男爵位から1つ飛びで伯爵位を賜った。勿論褒賞金もだ。
その次が俺だった。名前を呼ばれた瞬間、俺は堂々と国王陛下の前まで行く。中には黒髪の俺をまだ認めない貴族もいるが、そんなのを気にせず堂々と進む。
国王陛下の前まで歩くと、国王陛下と王妃様が微笑んでくれる。なんだか照れるな。
「アルノード子爵よ。そなたのおかげで我が娘、パトリシアは助けられた。更に、敵国の大将であり、近隣諸国に名を馳せたゼファー将軍を討ち取った事も賞賛に値する。レイブンが言うには、その一戦のおかげで勝敗が決まったと言う。
そなたには伯爵位の地位と褒賞金、更にはこの度勝ち取った元ブリタリス王国の土地を1部任せたいと思う。どうだろうか?」
「ブリタリス王国の一部……ですか? しかし、今私は自身の子爵領がありまして」
「うむ、わかっておる。その事で、レイブン」
「はっ、来るんだ」
困惑する俺は他所に呼ばれたのはまさかのガウェインだった。ガウェインは俺以上に緊張してガチガチだ。
「此度の戦争でレイブンの補佐として活躍したガウェインを男爵位を与え、任せようと思うのだが」
ガウェインに子爵領を任せるのか。知らない人に任せるよりかは良いのだが……。俺が迷っていると
「お待ち下さい、陛下! 幾ら此度の戦争で活躍したからといってそんな若者に折角手に入れた領地を任せるなんて!」
陛下の提案に口を挟んで来る男、あれはリストニック侯爵だな。よく見れば隣にランバルクが俺を睨んでいた。ランベルトはいないようだ。
「ふむ、ならリストニック侯爵よ。そなたはアルノード子爵への褒美は何が良いと考える? 数的に圧倒的不利な状況なのに先陣を切って砦を守り、敵軍の中へと入りパトリシアを助け出した。ブリタリス王国最強と言われたゼファー将軍を倒したこの少年に、私が言った以上の褒美があるのなら言うが良い!」
覇気のある声色でリストニック侯爵に問いかける陛下。リストニック侯爵は陛下の覇気に気圧されて黙ってしまった。
「他にリストニック侯爵と同じ考えの者はおるか?」
他の者たちも侯爵と同じような感じだ。周りを見渡しで誰も出てこないと分かると満足そうに頷く陛下。そして
「アルノード子爵……いや、アルノード伯爵よ、任されてくれるな?」
「……はっ、ただ、1つお願いがあります」
「む? なんだ?」
「この度の戦争で捕らえた新たな兵士、獣人たちの身柄を私に譲って欲しいのです。彼らは元はブリタリス王国の兵士、私自身何も知らない土地なので、知っている者がいると助かります」
「ふむ、レイブンはどう思う?」
「構わないかと。獣人たちを捕らえたのは彼です。獣人たちも彼には従うようでしたし」
「わかった。獣人たちはアルノード伯爵に任せよう。ただ、ゼファー将軍だけは……」
「わかっております。武人であるあの方も私の下にはつきませんでしょう」
詳しい話はまた別の日という事で俺の褒賞は終わった。元ブリタリス王国の領地も今回の戦争で活躍した貴族に分配するようだ。後で挨拶しておかないとな。ただ、出発は出産後にしてほしいな。折角生まれる前に帰って来たのに、見れないのは悲し過ぎる。陛下も認めてくれるとは思うが。
その後の褒賞も無事に終わり、祝勝会が開かれた。この日は国民にも国からお酒や食べ物が振舞われ、街中に笑い声が響いていた。
ただ、その凱旋から3日後、新たな問題が発生した。それは……リストニック侯爵家からパトリシア王女との婚約の破棄という話だった。




