193話 終戦
「……体が動かん」
目が覚めた俺の一言目がこれだった。全く動かないわけじゃないけど、体が怠すぎて動かすのが億劫なのだ。このまま眠っていたいけどそんな訳にもいかない。
何とか体を起こすがやはり怠さは抜けない。ここのところ戦いの後は眠ってばっかだな。限界以上の戦いをしなければ勝てない程の強敵ばかりだから仕方ないといえば仕方ないのかな。
……しかし、戦争はどうなったのだろうか。俺はゼファー将軍と戦って確か勝ったんだよな。あの辺りの記憶が曖昧で確実ではないのだが。
俺はふらつく足に力を入れて何とか立ち上がる。辺りを見回すとレイディアントとシュバルツが立て掛けられていたので腰に差して部屋を出る。思っていた通り砦の中の部屋だった。って事は連合軍を追い返す事が出来たのか。
「お、お目覚めになられたのですか!!」
俺が部屋を出たのに気が付いた兵士が驚きの声を上げる。俺の部屋に護衛を付けていてくれたようだ。片方の兵士は直ぐにどこかへと走ってしまい、もう1人の兵士は俺を見てくる。なぜかそわそわとしているが。
「俺、子爵様の戦いを見ていたんです! なんて言葉で表していいかわからないのですが、とても凄かったです!」
キラキラとした目で俺を見てくる兵士。なんだか慣れない視線だな。睨まれる事なら慣れているのだけど。
しばらく目を輝かせた兵士と話をしていると、何処かへと向かった兵士が戻って来た。どうやら呼ばれたようだ。
まだ、ふらつく体に力を入れて呼ばれた場所へと向かう。あー、体が本当に怠い。この怠さが早く無くなって欲しいものだ。そんな事を考えながら言われた場所へと辿り着いた。当然、兵士が立っており、面会を希望する。
直ぐに許可が下りて中へと入ると、中には将軍たちが座っていた。パトリシア王女やオスティーン男爵もいた。良かった、2人とも無事なようだ。そして、1番奥にはニコニコと笑みを浮かべるレイブン将軍が座っていた。
それより、気になったのが、レイブン将軍の後ろに立つ若い兵士だった。そいつの顔を見て思わず笑みを浮かべてしまった。お前まで来ていたのか……ガウェイン。
話しかけたいところだが、それは後だな。まずは将軍たちだ。
「お呼ばれ参上いたしました、レイブン将軍」
「うむ、よく来てくれた。もう体は大丈夫かい?」
「はは、これが歩く分には問題ないのですが、戦闘となるとまだ厳しいですかね」
俺がにこやかに話すと、何故か辛そうな顔をするパトリシア王女にオスティーン男爵。それから、ガウェインも。
「そうか。本当なら敵大将を倒した君にも来てもらいたかったが、無理はさせられないな。現状については何か聞いたかい?」
「いいえ。先ほど目を覚ましたばかりですので」
「そうか。今の現状について話そうと思う。アルノード子爵が敵軍の大将であるゼファー将軍を倒してくれたおかげで、ブリタリス軍は瓦解、ゲルテリウス軍も初めは攻めてはきたが、もう勝てないと判断すると撤退したのだ」
「って事は」
「ええ。此度の戦争は我々の勝利でしょう。かといってこのまま終わらせる訳にもいかない。当然奪われたものは取り返さなくては」
なるほど。そこで俺にも来て欲しかったって話になるのか。
「このままブリタリスを攻めるのですね」
「ああ。ゲルテリウス軍は半壊はさせたが、それ以上追う事は出来なかったので、後の事は文官に任せるとして、ブリタリスについてはこのまま3万の軍を率いて王都まで攻め込むつもりだ。大将を失い瓦解したブリタリス軍相手なら多易いだろう」
「それでは、私はここで待機となりますね。この体では思うように戦えませんし」
「すまないね。本当なら今回の戦争の立役者であるアルノード子爵の回復を待ってから攻めたいのだが、そうすると相手に準備の時間を与えてしまうからね」
「仕方ありません。私はここで、良い報告を待っております」
体が上手く動かせない今無理して戦場に出る事はない。国の危機ならともかく、既に勝敗は決したのだ。無理する必要もないだろう。
「ここに残るアルノード子爵にはこの砦の管理を任せたいと思う。補佐には始めと同じようにオスティーン男爵にお願いしてあるから、問題はないだろう」
「そうですね。大丈夫でしょう」
オスティーン男爵となら何の問題もない。それからはこれからの事の話をして会議は終わった。その後もレイブン将軍は色々な将軍と話をして忙しそうだったので、俺はそのまま部屋を出る。ガウェインもレイブン将軍に付いているらしく、目線だけで挨拶を交わして終わった。
「アルノード子爵」
「オスティーン男爵。それにグリムドも」
少し廊下を歩いたところで後ろから呼ばれたため振り返ると、やって来たのはオスティーン男爵、その後ろを護衛のように付くグリムドだった。
「目が覚めて良かった。3日も目が覚めぬから心配していたのですぞ。それでお体は?」
「ええ、会議でも話した通り、歩く分には少し怠さがあるだけで問題ありません。ただ、戦闘になると問題が」
「そうか。まあ、この度の戦争での役目はもう終わったのです。良くなるまで休みましょう。レイブン将軍もそういう意図があって我々に砦を任されたのですから」
そう言いオスティーン男爵は笑う。俺もそのつもりだ。それから俺たちは一応砦の事について話すのだった。
その次の日にレイブン将軍が率いる3万の軍は奪われた土地を奪還、それに加えて進行のために砦を出発した。
ブリタリス王国も簡単にはやられないと最後の抵抗をしたが、やはりゼファー将軍の役割は大きかったようで、彼ほど卓越して軍を動かす者がいなかったため、次々とアルバスト軍が勝利していった。
それに加えて、ブリタリス王国が接する国の内、アルバスト王国の反対側、フェングランド王国が、ブリタリス王国の現状を知り、進軍を始めた。
ブリタリス王国もそのための対策を取っていたが焼け石に水、抑え切れず東側を攻められる。アルバスト王国が王都に辿り着く頃にはフェングランド王国が東の3分の1を抑えていた。
アルバスト王国軍はそのまま王都に進軍、最後の抵抗もあったが、ブリタリス国王を捕らえてブリタリス王国は降伏した。ここまでに3ヶ月の期間を要した。
それから、フェングランド王国との話し合いが行われ、アルバスト王国とフェングランド王国の間に新しい国境が引かれた。その結果、地図上からブリタリス王国の名前は消えて行ったのだった。
そして、その話し合いから2ヶ月後、元ブリタリス王国の王都から王族を連れたレイブン将軍たちが戻って来て、砦に残った俺たちも国に帰る事になった。
戦争で捕らえた捕虜も全て連れて帰る事になった。その中にはゼファー将軍の姿もある。獣人部隊の奴らもだ。彼らの処遇については王都で決めるらしい。悪いようにはしないとは言っていたが。
戦争が始まって半年近くが経って、ようやく俺たちは国帰れる事になった。ここに来る前でヘレネーたちは赤ちゃんが出来たのを知ったばかりの時だった。俺が王都に帰る頃にはかなりわかる状態だろう。間に合って良かった。
俺は早くヘレネーたちに会いたい気持ちを何とか抑えて国へと帰るのだった。
これで防衛戦は終わります。
ようやく書きたかった半分ほどは終わりました。
折り返し地点ですが、このまま頑張りたいと思います!




