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165話 新たな屋敷

「ふぅ……何とか間に合ったな」


 俺は目の前にそびえ立つ城壁を見て呟く。ケストリア子爵領で、地竜を狩ってから早1ヶ月。ようやく王都へ辿り着いた。


 王都の入り口には行列が出来ていた。来週行われる陛下の誕生会のせいか、商人たちが集まってきているようだ。そんな光景を見ていると


「確か、既にヘレネー様とヴィクトリア様たちは王都についていたのですよね?」


 と、俺の前に座るロナが尋ねてきた。俺はロナの言葉に頷きながら


「ああ、ヴィクトリアから送られてきた手紙によると、王都の屋敷にいるそうだ」


「屋敷……ですか?」


 ロナは、俺の言葉に首を傾ける。あれ? 言ってなかったっけ? うーん……言ってなかった気がするな。


「ああ、俺が子爵を賜った時に、王都に屋敷も一緒に賜ったんだ。そういえば、王都に行く事が無かったから、使う機会が無くて、伝えるのも忘れていたよ。ごめんな」


 俺が謝ると、慌てて両手を振るロナ。そんな可愛らしいロナを見ていると、馬車を外から叩く音が聞こえる。ロナが窓を開けると、馬車に並べるように、馬を並べるグリムドがいた。


「レディウス様、通行の許可がおりましたので、馬車を進めます」


「ああ、頼むよ」


 グリムドの言葉通り、進む馬車。すると


「ああ? なんで俺たちは通れねえんだよ!」


「ここは、貴族様用の門になる。お前たちは、向こう側の一般用の門を使え」


「だから、俺たちはレディウスの連れだって言ってんだろうが。ぶっ飛ばすぞ!」


「貴様、アルノード子爵に向かって呼び捨てとは! お前たち来い!」


 ……何をやってんだよ、あの馬鹿は。門兵たちに囲まれている金髪の男とその奴隷たち。ロックドラゴンの討伐に参加したレイグたちだ。


 ただ、今回はレイグが1人でキレている。奴隷の女たちが止めようとするけど無視。あいつあのままだとマジで捕まるぞ。


「……どうしますか?」


 あいつが牢屋にぶち込まれる姿は見て見たいが、あの馬鹿が暴れて門兵たちが怪我するところを見るのは忍びない。仕方ない。


「ロナ、扉を開けてくれ」


「……わかりました……あいつなんて捕まれば良いのに」


 ……ロナはレイグに対しては、敵意むき出しで話す。目上の相手に対しては基本礼儀を欠かさないが、レイグには中々辛辣だ。奴隷の女たちとは普通に接しているのだが。


 俺は、ロナの開けてくれた扉から降りて、揉めているレイグと門兵たちのところへ行く。


「おっ、レディウス! こいつらに言ってやってくれよ。俺は知り合いだって」


 俺が来た事で威張り出すレイグ。いや、俺が来る前からも威張り散らしていたか。門兵たちは直立不動になり、冷や汗をかいている。


 俺はレイグ近寄り、そして


「痛てえっ! 何しやがる!」


「何しやがるはこっちのセリフだ、馬鹿野郎! この門は、門兵たちが言っている通り貴族専用の門だ。今回は俺しか使ってないから何も起こらなかったが、もし他に貴族がいたら、お前は捕まっていたぞ。下手すれば死罪だ」


 俺の言葉に顔を青くさせる奴隷の女たち。レイグは気にした様子もない。俺はため息を吐きそうになるのを我慢して、門兵たちの方へと向かう。


「この馬鹿が悪かった。申し訳ないが俺たちと一緒に通して欲しい」


 俺が頭を下げると、門兵たちは慌て始める。それから門兵の許可を得たレイグは、俺たちの馬車の後ろについて来る。馬車に戻った時のロナの機嫌は、最悪だったが。


 ロナを宥めながらも、馬車から見える王都の光景を眺める。やっぱり誕生日前は活気があるな。所々に屋台が立ち、今から既に気分が高揚している人は、昼間から酒を飲んでいる。


 子供たちは、花束を持って王宮へと向かう。確か、花束を渡せばお菓子がもらえるんだったかな。野花だが、集まれば綺麗な色をしている。


 この商機を逃さないと、娼婦たちも客引きに力を入れる。流石に昼間から向かう人はいないが、今の内に唾をつけておいて、夜に来てもらおうという事だろう。中々逞しい。


 そういえば、住民からの意見書の中に、花街を作って欲しいというのがあったな。前までは小さかったから存在してなかったが、昔とは違って活気がある。治安が悪くならない程度に考えなくては。


 そのまま馬車を進めていると、貴族街へと辿り着いた。この中の屋敷のどれかが俺の屋敷なんだよな。貰ったのは貰ったが、一度も行った事が無いのでわからないのだ。


 ぼーっと、外の景色を眺めていると、馬車がある屋敷の門をくぐる。周りの屋敷とも変わりなく豪華な屋敷だ。そして、屋敷の入り口には俺の愛する家族が立っていた。


 馬車は屋敷の入り口で止まり、まずは扉を開けてロナが降りる。ロナは降りてから俺の家族である、ヘレネーとヴィクトリアに頭を下げて、馬車の入り口を見る。


 そして、俺が降りる。俺の顔を見た2人は、花が咲いたように微笑んでくれた。ドキッとしてしまった。


「ただいま、ヘレネー、ヴィクトリア」


「ふふ、お帰りなさい、レディウス」


「お帰りなさいませ、レディウス。元気そうで良かったです」


 まずはヘレネーが抱きついて来て、続いてヴィクトリアが抱きついて来た。久し振りの2人の匂いだ。ヘレネーは陽に干した布団ような暖かい匂いが、ヴィクトリアは華やかな花の香りがする。どちらも落ち着く。


 2人の後ろにはヘレナとマリーがそれぞれ付いている。クリスチャンが領地に残り、兵士たちをまとめてくれるミネルバがいる。侍女たちはルシーがまとめてくれているのだろう。


「ここで話もあれだから中に入りましょう。色々と話が聞きたいわ」


「そうですね。とてもいい香りのする茶葉が手に入ったのです。それを入れましょう!」


 そう言い、ヘレネーとヴィクトリアは俺の手を握る。そうだな。ここんところ忙しかったし、日が来るまでゆっくりとするか。

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