16話 来訪者
「ギィイイ!」
ふぅ、これでゴブリンの集落終わりっと。全部で50ぐらいはいたかな? リーダーにホブゴブリンもいたし、そいつも倒したからこの辺りはもう大丈夫だろ。
「グゥ」
ゴブリンの死体だらけになっている周りを見渡していたら、森の方からのそのそとロポがやって来た。……こいつ、ミストレアさんにここに送られて来た瞬間に、森へ走り去って行ったからな。大方草でも食べていたのだろう。
「ロポ、ゴブリンから素材を剥ぎ取るからその間、辺りを警戒しておいてくれ」
「グゥグゥ」
ロポが鳴いて周りを警戒しだしたのを確認すると俺はゴブリンの死体の側に寄りしゃがみ込む。そして、ゴブリンの耳を切っていく。この作業も2年も続ければ慣れてくるな。
黙々黙々とゴブリンの耳を切る事1時間。
「やってるねぇ」
とミストレアさんが迎えに来てくれた。ロポはミストレアさんが来たのがわかると、見張りの役を放り出してミストレアさんの下へと駆け出す。まあ、ミストレアさんがいるから危険はないのかな。
「よしよし、ロポも頑張ったかい?」
「グゥグゥッ!」
うそつけぇ! お前は森の中で草を食べてただけだろ! 見てないからわからないけど絶対そうだ。
「レディウスも終わるかい? 家に帰ってご飯にしよう。ヘレネーが作ってくれているよ」
俺がロポにグルルゥと威嚇していると、ミストレアさんがそう言う。今日はヘレネーさんの日か。2人とも料理が上手だから毎日のご飯が楽しみなんだよなぁ。
そして解体が終わった後は、ミストレアさんが死体を焼いてくれて、家に戻る。これらは最近の日課になっている。
朝は山でロポと追いかけっこをして、帰って来たら昼まで剣術の練習とミストレアさんやヘレネーさんとの模擬戦など。昼からはミストレアさんに何処かの山や森、洞窟など様々な場所へ飛ばされ魔獣を討伐している。
今までで1番強かったのは、ツインヘッドスネークだな。大きさは10メートルくらいあり頭が2つついている蛇なのだが、動きは早いし、皮膚のは表面は何か濡れているのか、滑って剣筋が立たなくて中々切れないし、毒は吐いてくるしと中々手強かった。
最終的には何とか倒せたのだが、牙で噛まれるわ、そこから毒が回るわで、中々やばかった。あれが遅効性の麻痺毒で無かったら死んでいた。
後でミストレアさんとヘレネーさんにこっ酷く叱られた。勝てそうに無い時は逃げるのが当然だと。
その時は全面的に俺が悪かったので地面に頭がつくくらい謝った。それから1ヶ月、家事全般が俺の当番になってしまったけど。
そんな生活を繰り返していたらいつの間にか、俺がミストレアさんの下で剣術を習いだして3年が経とうとしていた。
この3年間で何とか纏の基礎を覚えて、流派も烈炎流が中級、旋風流が上級、明水流が下級まで修得する事が出来た。
この事には流石にミストレアさんやヘレネーさんも驚いていた。どうやら俺は体を動かすのが得意らしい。自主練だとあまりわからなかったけど、こういう武術を覚えたりするのは早いのだろうと言われた。
ヘレネーさんは俺が3年ほどで旋風流を上級まで修得したから、頰を膨らませて拗ねていたけど、最終的には認めてくれた。
剣術を習い始めた頃はかなり気まずい雰囲気が漂っていたけど、1年程して俺が全ての流派の下級を修得した辺りから、態度が柔らかくなって来て、昨年中級になった頃は、習う前ぐらいまで戻っていた。
ただ、最近は少し様子がおかしい。俺と顔を合わせるとプイッと逸らされるのだ。態度も何処かよそよそしいし。怒っているわけじゃ無いんだけど。
まあ、俺も見惚れてしまう事があるから恥ずかしいのだけれど。ヘレネーさんは3年前から美少女だったけど、最近は美女へと変わって来ている。
肉体も女性らしくなり、服を押し上げる程の胸に、すらっと細い腰。綺麗な形をしたお尻に、豹のようにしなやかな筋肉をした足。そんなヘレネーさんに微笑まれると顔が熱くなってしまう。
しかも、ヘレネーさんは家の中だからかなり無防備なのだ。ここら辺はあまり気温が下がらないため薄着でもいられるのだが、ヘレネーさんは家着だとタンクトップに短パンとかなり際どい格好をしているのだ。
その上たまに昼寝をしている時があるのだが、そういう時に限って自分の部屋でなく、リビングのソファで寝ているのだ。あの服の隙間からちらりと見えるおへそが……って何を考えているんだ俺は!
俺は頭をぶんぶん振って頭から忘れる。はぁ……何なんだろうなこの気持ちは。今までは姉上とミアしか女性で接点がなかったからわからない。
そんな事を考えていたらいつの間にか家へと着いていたようだ。リビングに行ってヘレネーさんの手伝いでもするか、と思ったが、どこか様子がおかしい。
今は俺とミストレアさんは家の裏庭にいるのだが、玄関の方で怒鳴り声が聞こえてくる。この声は……ヘレネーさんか。しかし何でこんなに怒っているんだ? 俺がミストレアさんを見ると
「私たちも行こうかね」
とミストレアさんが玄関へ向かう。俺も後を付いて行こう。玄関まで辿り着くとそこには
「だからお婆様は今はいないって言っているでしょ! それにいないからって、そっちは名乗りもせずに家で待とうなんて図々しいとは思わないの!?」
「何だとこの女! せっかくレイブン様が直々にお越し下さったのに頭も下げずに!」
何だか一触即発の雰囲気だ。ヘレネーさんは腰の剣に手をかけ直ぐにでも抜けるような体勢をしている。相手は兵士っぽい人が2人いてヘレネーさんと口論をし、後ろには他の2人とは違う綺麗な鎧を着た男性が立っていた。
「止めないか、お前たち! そのお嬢ちゃんの言っている事が正しい。私たちはお願いをしに来たのだぞ」
「しかし、レイブン様! アルバスト王国軍大将軍であられるあなた様が直々にお越しいただいたのにこの娘は家にも入れずに外で待てと言うのですよ! この者には痛い目をあってもらわなければなりません!」
アルバスト王国の大将軍? なんでそんなお偉いさんがこんなところに来ているんだ? 大将軍って確かアルバスト王国の軍のトップだったよな。俺はミストレアさんを見ると……やべ、これはキレている。
そんなミストレアさんを止める暇もなく
「私の家で何を騒いでいるんだい?」
ヘレネーさんたちの下へと向かう。……仕方ない。俺も付いていくか。問題が起きませんように。
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