157話 ケストリア支店再び
「あの子に似ている?」
メルさんの呟きに思わず反応してしまった。俺が聞き返した事で、メルさんはハッとして、首を横に振る話してはくれないようだ。
「ふふ、それで2人は泊まりかしら? アレスちゃんは一緒じゃ無いの?」
そうだ。ここに来た目的を果たそう。
「アレスは王都の学園に入って頑張っていますよ。俺たち以外に20人ほどいるのですが、数週間ほどここで泊まる事は出来ますか?」
「20人ね〜……2人部屋でも構わないのだったら大丈夫よ」
兵士たちはそんなの気にしないから大丈夫だな。ロナだけ1人部屋にしてもらって後は2人部屋にしてもらおう。
「わかりました。それじゃあ、彼女、ロナだけ1人部屋で後は2人部屋で頼みます」
「駄目です!」
えっ? 俺がメルさんに部屋割を伝えた瞬間、後ろからロナが叫んで来た。な、何が駄目なんだ?
「おかみさん、部屋割は私とレディウス様を一緒にして下さい」
……何を言っているんだ、ロナは。男の俺と女のロナが一緒の部屋なんて。メルさんも困惑しているのか、眉を寄せて俺とロナを交互に見る。
「……どう言う事だロナ? 今まではそんな事言わなかったのに」
今までもどこかに泊まる事はあったが、ロナは一言もそんな事を言った事は無かった。一体どうしたんだ?
「それは、この1年間はどこかに行くとしたら、各地の貴族の挨拶などで、必ずどちらかの奥方様がいらっしゃいましたからです。でも、今回は2人ともいませんので、奥方様たちから頼まれたのです! 絶対に1人にしないようにと!」
ロナは、俺がヘレネー、ヴィクトリアと結婚してからは、2人の事を奥方と呼ぶようになった。まあ、屋敷内とかでは名前に様付けなのだが、外ではそう呼んでいる。
でも、あの2人は何を心配しているんだ? 愛しい2人がいるというのに、他の女性に手を出すなんて……ヘレネーはその辺はあまり信用してないかも。前例があるわけだから。
「でも、それならロナは良いのか? 俺と一緒で?」
「もちろんです! むしろご褒……コホンッ! とりあえず、おかみさん、私とレディウス様は同じ部屋にして下さい」
ロナは鼻息を荒くして、メルさんにお願いする。2人からそう言われているのなら、仕方がないか。どうするかわからないメルさんは俺を見るが、俺が頷くと、微笑んで受付に戻った。俺たちも後に続く。
「それじゃあ、ここに代表の名前を書いて、その隣に人数をお願い。この代表は、他の人が何か問題を起こした時に、しっかりと言える人が好ましいわ」
そういう事なら俺の名前だな。レディウス、と、これで良いだろう。
「お金は部下が持っていますので、後で渡します。夕方には全員が来ますのでよろしくお願いします」
「ええ、わかったわ。それで2人はこれからどうするの?」
「俺はもう1つ行きたいところがあるので、そこへ行きます。ロナは?」
「私ももちろんついて行きますよ」
「わかったわ。それじゃあ、夕方待っているわね」
メルさんに手を振られながら宿を出た俺たちは、再び街の中を歩く。
「次はどこへ行かれるのですか?」
「ん? 次はとあるお店に行くんだよ。昔ちょっとお世話になってな」
宿からそんなに遠くはなかったはずだ。この大通りにあるのは覚えている。確か……あっ、ここだ。風鳴亭から歩いて10分ほど。あったあった。
「ガラブキス商会ケストリア支店……ですか?」
「ああ。さあ、入ろうか」
ケストリア支店へ入ると、中は色々な人で賑わっていた。冒険者のような格好をした男、日用品を見ている親子、地下の奴隷がいるところへ向かう身なりの良い老人。様々だ。
「ガラブキス商会ケストリア支店へようこそ。本日はどのようなご用件で?」
中を見渡していると、従業員らしき女性が話しかけて来た。彼女に呼んでもらうか。
「この支店にケイマルという方がいるはずだが、呼んでもらえるか?」
「……確かに支店長でいらっしゃいますが、どのようなご用件で?」
「俺の身なりとレディウスという名前を伝えてくれたらわかると思う」
俺の言葉に首を傾げながらも、伝えに向かってくれた従業員。ただ、向かう途中に男性の従業員にしっかりと俺たちの事を報告していた。やっぱり怪しいか。
それから、5分ほど待つと、2階に繋がる階段が騒がしくなる。そして現れたのは、昔より少し恰幅が良くなったケイマルさんが降りて来た。その後ろにはケイマルさんの奥さんであるマーナさんもやって来た。
「おおっ! これはレディウス様! よくぞお越し下さいました!」
そう言って俺の前まで来ると頭を下げてくる2人。周りの従業員たちはその光景に驚く。俺もびっくりした。
「頭を上げて下さい、ケイマルさん。それに昔みたいな話し方で構いませんよ」
「いえいえ、レディウス様のお噂はここまで届いております。その若さで子爵まで登り、陛下の覚えも良いと。ケストリア子爵も良くあなたと縁を結びたいと私のところへやって来たものです。ただ、私とあなたは昔少し知り合った程度の縁。ケストリア子爵に申し訳ないと断っていたのですよ」
あはは、と笑うケイマルさん。何だか懐かしい。俺もつられて笑ってしまう。
「何を言いますか。ケイマルさんたちのお陰でアレスの母親は助かりましたし、俺も色々とお世話になりました。ケイマルさんとならこれからも仲良くしたいぐらいです」
「おおっ! それはありがたいです! まあ、ここではなんですので奥へどうぞ!」
ケイマルさんはそう言って、周りの従業員に来客の準備の指示を出す。マーナさんは俺に微笑みながら頭を下げて、ケイマルさんから引き継ぎ指示を出して行く。
ケイマルさんには色々とお願いしたい事があるから、しっかりと話をするか。
最近仕事が忙し過ぎて、1日1作しか投稿できていません。1日2作投稿出来たら良いのですが……。
待っている人には(いなかったらすみません)申し訳ありません。土日はなるべく2作ずつ投稿したいと思います。
これからもよろしくお願いします!




