153話 結婚式
俺が1人で会場に入ると、会場にいる人たちが一斉に俺を見て来る。知っている人もいれば知らない人も。どちらかといえば知らない人の方が多いが。
知っている人といえば、ティリシアやクララも参加してくれて、銀翼騎士団団長のミストリーネさんやミレイアさん、シオンさん、近衛騎士団長のブルックズさんも。この辺は陛下たちの護衛も兼ねているのだろうけど。
それからオスティーン男爵夫妻、アレスの家族にクリティシアさんとその両親のマクレーン伯爵夫妻。
それから死壁隊でガラナが作った村に残っていた奴らぐらいか。後は知らないけど招待状を送った貴族だな。
俺が来てくれた人たちを見ていると、俺が来たみたいに扉が開かれる。その方を見ると、扉の向こうから2人の親子が入って来る。セプテンバーム公爵とヴィクトリアだ。
その後に続くように、ミストレアさんとヘレネーが腕を組んで入って来る。
先ほどまで少し騒がしかった貴族たちも、2人の美貌に見惚れて言葉を失っている。2人はその中を堂々と歩き、ヴィクトリアは俺の右側、ヘレネーは俺の左側に立つ。セプテンバーム公爵とミストレアさんは、親族席に座る。
この国の結婚式は、自分たちが頼めると思った人に結婚式の進行をお願いする。進行の手順は基本的な事は決まっているため、誰でもできるからだ。
他の国だと、教会にお願いして、神父などに仕切ってもらうらしいが、この国は教会はあるものの、そこまで使われてはいない。
そして、俺たちの結婚式を進行してくれるのは、当然ながらこの人だ。
「オホンッ、では私、バーデンハルク・アルベルトが、レディウス・アルノード、ヴィクトリア・セプテンバーム、ヘレネー・ラグラスの結婚式の進行を務めさせてもらう」
みんなの前で威風堂々と宣言する国王陛下。国王陛下が結婚式の進行を務めるなんて滅多に無いらしい。忙しいのもあるが、それ以上に信頼している人にしかしないようだ。この事を光栄に思えよ、と事前にセプテンバーム公爵に聞かされていた。
それから、粛々と式は滞りなく進んでいく。陛下の前で愛を誓い、そしてみんなの前でキスをする。みんなに見られて物凄く恥ずかしいのだが、ヴィクトリアもヘレネーも幸せそうに微笑むので良しとしよう。
そして、陛下の締めの挨拶で、結婚式は終了になる。この後は場所を移動して、結婚パーティーとなっている。貴族たちの目的は、どっちかというとこのパーティーの方だろう。
他に集まった貴族たちと縁を結ぶために。男は相手を探し、女も着飾って来るのを待つ。まあ、俺たちは知り合いから祝ってもらえれば良いからな。特に気にはしないが。
当然ながら、俺たちのところにも知らない貴族が挨拶に来る。結構な数がいて、顔と名前が中々覚えられない。ヘレネーも悪戦苦闘しているようだ。
ただ、このような事に慣れているヴィクトリアは、事前から知っていたのか、俺たちの前に来た瞬間、名前を言って来てくれた事への挨拶をしてくれる。俺もヘレネーもつられて頭を下げるだけだ。
しばらく、貴族の波を捌いていると、俺の見知った人が挨拶に来た。その人は
「久しぶりだな、アルノード子爵よ」
「はい、お久しぶりです、オスティーン男爵、それから初めまして、になりますね。オスティーン夫人」
「はい、初めましてアルノード子爵。改めてご挨拶をさせていただきますわ。私はフレデリック・オスティーンの妻、ミルハ・オスティーンです。あなたのおかげで、アレスちゃんは死なずに、私も助かったと聞きます。あの時はありがとうございました」
そう言い、俺に頭を下げるオスティーン男爵と夫人。
「頭を上げてください、オスティーン男爵、夫人。夫人を助けられたのは、アレスと協力をしたからであって、そんなお礼を言われるような事ではありません。だから、頭を上げて下さい」
俺が慌ててそう言うと、渋々頭を上げる2人。本当に気にする事は無い。俺も修行の成果の確認とかも出来たしな。
頭を上げた2人にお礼を言われて、入れ替わるようにアレスとクリティシアさんがやって来る。
「ふふ、先を越されちゃったわね、ティナ」
「う、うるさいなぁ〜、ほ、ほっといてよ! ……結婚おめでとう、レディウス」
「ああ、ありがとうな、アレス。アレスのそのピンクのドレス似合っているな、可愛いよ」
俺は目の前にモジモジしながら立つアレスに、率直に感じた感想を言う。すると、アレスは顔を赤くして照れてしまった。そして、みんなからは見えない位置で、俺の両脇腹を捻るヴィクトリアとヘレネー。や、やめてくれ。
「……全く、結婚式の場で、他の女性を褒めるなんて、新郎失格よ?」
「そうです。今日だ……これからもずっと、私たちを見てください!」
俺がちょっとアレスの格好を褒めただけで、嫉妬しやがって。可愛い2人だな全く! 俺は少しニヤける顔を周りにバレないように口元を手で隠す。
アレスは残念ながらも、また後で話そうと言って、他の場所へ移ってしまった。クリティシアさんは、周りの男と話をして、次々と撃沈して行っている。中々手ごわいようだ。
それからよ、俺たちが色々な人と挨拶をしていると、グリムドが、ゆっくりとだが、俺の側までやって来た。そして俺の耳元に来て、とある事を話す。
それは何かというと、丁度タイミングよく会場の扉が開けられた。そして入って来たのが
「……はあ、面倒だなぁ〜」
と、呟くウィリアム王子の姿があった。その後ろには2人の男が。なーんか嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか?
俺の隣のヴィクトリアも少し体が震えているし。あー嫌な予感。
別作品
「異世界で彼女を探して何千里?」
という作品を始めました。
もし良かったらご覧ください。




