147話 謎の盗賊団
「ちっ! シュパシュパと撃って来やがって!」
凄腕の弓兵は、後ろに小さな少女に大量の矢筒を持たせて、そこから次々と矢を取り出し放ってくる。ここに来てこんな連射を見せてくるとは……ってか、弓矢ってこんな連続して放てるのかよ!
大量の矢が降ってくる中、普通の弓兵が放つ矢は、明水流の矢流しで逸らし、凄腕が放つ矢は、両手の剣で弾く。
俺が凄腕の弓兵に迫ると、弓兵の後ろから2つの影が飛び出して来た。そして振り下ろされる長物。これは……薙刀か?
俺は左手に持つシュバルツで振り下ろされる薙刀を逸らし、右手に持つレイディアントで、相手の喉元を狙う。そこに
「やっ!」
その相手の横を抜けて来たもう1人がレイディアントを下から打ち上げる。そして、そいつはそのまま薙刀を回して、石突を俺の顎目掛けて振り上げてくる。
俺は後ろに飛んで避けるが、2人は俺を追う事はせずに、弓兵を庇うように立つ。2人とも同じ顔をしている。
右側は金髪の女の子。髪の毛を後ろで一括りにしている。左側は金髪の男の子。耳が隠れるほどの長さだ。2人とも同じ薙刀を持って、俺を睨んでくる。
「これ以上、グレイブを狙わせないわ!」
「兄貴を狙うならぶっ倒してやる!」
……俺は思わずにやけてしまった。この2人を見ていると、何故かロナとクルトを思い出したからだ。あの弓兵は、2人にかなり慕われているようだ。少し話を聞いてみたいな。
俺は体中に魔力を張り巡らせる。俺の魔力が見えるのか、後ろの弓兵は顔を強張らせる。ここのところ魔力の限界量が増えて、普通の纏でもかなりの量を纏えるようになった。
弓兵は2人を止めようとするが、間に合わず、2人は俺に迫る。男が薙刀で突いてくるのを、しゃがんで避け、下から切り上げようとしたところに、女の方が俺の足を刈り取ろうと、足下に横払いをしてくる。
俺は薙刀の上を転がるように避けて、一気に女の方へと迫る。これだけ近づけば薙刀も振りづらいだろう。だが、そこに鋭い一閃が俺の前を過ぎる。
弓兵が放った矢だ。しかも、ただの矢では無く、纏がされた強力な矢なので、木を貫通するほどの威力を持っていた。
2人の隙間を縫うように飛んでくる矢。本当にとんでもないなこれは。だが、俺が俺が弓兵を引きつけている内に、グリムドたちが登って来た。
他の盗賊たちも弓矢を捨て、剣やら斧やらを持って兵士たちに向かう。数は盗賊の方が多いが、熟練度はまだ兵士たちの方がマシだ。それにグリムドの指示も合わさって、数での差を縮める。
俺はその内にこの3人を取り押さえるか。俺を警戒してジリジリと様子を見る双子に、弓を構えたまま動かない弓兵。
このまま見あっても仕方がないので、俺から攻める。その瞬間、弓兵は矢を放つ。こいつ、纏に加えて風魔法まで付与してやがる。
俺はその矢を避けようとするが、途中で軌道を変える。まるで初めから俺がそっちに避けるのがわかっていたかのように、俺の方へ曲がったのだ。
俺は避けきれずに顔に刺さる……寸前で鏃を噛んだ。あ、あっぶね! 一歩間違えれば、口から貫通していたところだ。まさか、あんな曲がり方するとは。
双子はそんな光景を見て素っ頓狂な声を上げるが、今がチャンスだ。口にくわえたままの矢を吐き出し、再び双子へと駆ける。
弓兵が何度も矢を放ってくるが、もう避けない。全て弾き落とす。双子は交互に薙刀で攻撃してくるが、速さはミネルバの槍術の方が断然速い。
何度も振るわれる薙刀を避け、男には蹴りをお見舞いする。男は横腹を蹴られ、そのまま吹き飛ぶ。
女の方が叫ぶが、その隙に薙刀を弾き飛ばし、当身をする。腹に思いっきり衝撃を与えられた女は、呼吸が出来なくなり、痛みに気を失った。
弓兵は連続して矢を放ってくるが、見慣れて来た俺は風切で撃ち落とす。さすがに慣れて来た。風切で撃ち落としながら俺は弓兵へと走り、弓を切り落とす。
これで終わりだな、と思ったが、弓兵はそんな事では諦めずに、矢を掴み、俺の顔目掛けて突いて来た。少し焦ったが、避けれない事は無く、弓兵の腕を掴み、捻り上げ、そのまま地面に叩きつける。そのまま喉元に剣を突き付けて
「盗賊たち! 今すぐ武器を捨てろ! さもなくばこの男の首を跳ねるぞ!」
俺は大声で叫ぶ。さっきの双子は、この弓兵をかなり慕っていた。それに弓兵の側で震えながらも、庇おうとする女の子も。これだけ好かれる男が、他の奴らにも好かれない筈がない。
そして、俺の予想通り、盗賊たちは悔しそうに武器を捨てていく。グリムドは兵士たちに指示を出して、盗賊たちを縛っていく。
弓兵の男も縛られていると、
「やめて下さい!」
と、奥の方から叫び声が聞こえる。その方を見ると、盗賊の居住地と思われる場所から、女子供、果てには老人まで現れたではないか。
さすがに、この事は予想だにしていなかったのか、グリムドも困惑な表情を浮かべる。この盗賊団は一体なんなんだ?




