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141話 帰国

「やっと帰って来たなぁ〜」


 俺は馬車から降りて凝り固まった体を伸ばしてほぐす。隣でヴィクトリアも同じような事をしているので、見てみると胸がぷるんぷるんと揺れていた。役得だ。


 俺たちは今、王宮の前の広場にいる。今日はこのまま解散となるらしい。ずっと馬車に乗っていたから、疲れているだろうという事でだ。


 時刻は既に日が昇りきって、下ろうとする時間帯だ。他の学園の生徒たちもそれぞれの帰路につく。


 俺もロナたちのところへ帰ろうかね。結構な期間1人にしてしまったし。まあ、ガラナたちやフランさんもいるだろうから大丈夫だろう。


「それじゃあ、今日は解散だな。明日は親善戦に参加していた俺たちは学園が休みなので、次に会うのは明後日だな」


「そうだな〜、明日は色街に出て可愛い子でも探そうかな! レディウスも行くか!?」


 ……ヴィクトリアの前でそんな事を聞いて来るなよ。物凄く睨んで来ているだろ。それにガウェインにはシャルンがいるじゃないか。そんなとこに行っていたらやばいじゃないのか? まあ、俺には関係無いから言わないけど。


「……行かないですよね?」


 そんな事より、後ろで凍えるような殺気を放つヴィクトリアをどうにかしなければ。そんなところに行くわけないじゃ無いか。


「レディウス様、そのようなところに行かなくても大丈夫ですよ……そ、その、私もゴニョゴニョ……」


「主人様、明日はそんなところへ行かずに私と模擬戦をしてほしいです。ボレアスを試したい」


 ヴィクトリアの殺気を流していると、ヘレナとミネルバがそんな事を言ってくる。ヘレナの最後の方は小さくて聞こえなかったが。


「まあ、とりあえず今日は解散しよう。また明後日だ」


 ティリシアはそう言うと、自分の家へと帰って行った。ガウェインもクララもじゃあ、と行って帰る。残ったのはヴィクトリアと俺たちだけ。


「さてと、俺たちも帰るか。屋敷まで送って行くよ、ヴィクトリア」


「本当ですか! では、お願いしますね」


 俺がそう言うと、ヴィクトリア放つ嬉しそうに顔を綻ばせ、俺の隣に並ぶ。普段より距離は近く肩は触れほど。そして、おずおずと俺の手に自分の指を絡めてくる。ヴィクトリアの顔を見ると少し赤い。だから、逆にぎゅっと握ってあげると、ビクッとする。可愛い。


 後ろでは「私も……」とか聞こえてくる。ヘレナとミネルバが俺の後ろをついて来ているのだろう。


「レディウス、も、もしよろしければ、夜でも一緒にいかがですか? 屋敷にはマリーたちもいますし。そ、その、私たちの事も報告したいですし……」


 ヴィクトリアは、空いている方の左手で風に揺られる髪を押さえながら、顔を伏せがちに呟く。ありがたい申し出なのだが


「ごめん、ヴィクトリア。家に帰ってロナたちに帰った事を伝えないと。今も待っているだろうから」


「あっ、そ、そうですよね。すみません、私の事ばかりで……」


「いや、俺もヴィクトリアの申し出は嬉しいよ。また、誘ってほしい」


 断ると悲しそうな顔をするヴィクトリアだったが、次の俺の言葉に嬉しそうに「はい!」と返事してくれる。


 それから、歩いていると、ようやくセプテンバームの屋敷が見えて来た。門の前ではルシーさんが掃除をしていた。


 そして、ヴィクトリアが帰って来たのがわかったのか、こちらを見て驚いた表情を浮かべ、屋敷へと走って行ってしまった。


 俺とヴィクトリアが顔を合わせて首を傾げていると、屋敷からマリーさんとルシーさんに他の侍女たちも出てくる。その他にはグリムドや執事のベンさんを伴って、セプテンバーム夫人も出て来た。


「お帰りなさいヴィクトリア」


「ただいま帰りました、お母様」


 2人は再会を喜ぶかのように抱き合う。そして、セプテンバーム夫人はヴィクトリアから離れると、俺の方を見てくる。


「レディウス君、あなたの事は夫から手紙で聞いたわ。私からは特に言う事は無いわ。あなたがヴィクトリアを幸せにさえしてくれるのなら。もし、あの王子みたいにヴィクトリアを泣かせるような事をしたら……」


「わかっています。私の出来る限りを尽くして、ヴィクトリアを幸せにします」


 俺の言葉に満足そうに頷くセプテンバーム夫人。その隣で顔を真っ赤にさせるヴィクトリアに、色めき合うマリーさんたち。


 俺は夫人とヴィクトリアに別れの挨拶をして、屋敷から離れる。今から馬に乗って帰れば日暮れまでには帰られるな。馬車でもお願いするか。


 そう思い街中を歩いていたら、建物から出てくる3人の女性がいた。その建物はよく見れば冒険者ギルドだった。そして、俺はその建物から出た女性たちを見て固まってしまった。


「ヘレネーさん、今日の夜ご飯はどうします?」


「うーん、どうしよっか。食材は魔獣のがあるから良いけど、野菜とかは買って帰らないとね。フランは何が良い?」


「私はなんでも良いわ。ヘレネーの作る料理はなんでも美味しいもの」


 姦しく楽しそうに話す3人。久し振りの2人に、何よりずっと待っていた彼女までもが、ここにいるなんて。俺が立ち止まったのを不思議そうにヘレナとミネルバが見てくるが、俺は3人から目が離せなかった。


 そして、3人も立ち止まる俺たちに気が付いた。その3人の内、真ん中に立つ青空のように透き通るような水色の髪をした女性が、そのまま俺に向かって走ってくる。


 ミネルバが俺の前に立って止めようとするが、それを止める。そのまま俺の数歩前で止まる女性。目には涙を溜めている。


「……遅かったじゃ無いの、バカ」


「うん、いろいろあってね。ただいま、ヘレネーさん」


 俺が微笑むと、勢い良く抱き着いてくるヘレネーさん。俺はしっかりと抱き締め返す。


 ヘレネーさんの事を知らないヘレナとミネルバは困惑とした表情で、ヘレネーさんの後ろには走ってくるロナとフランさんの姿が。ようやく、帰って来たんだと実感する事が出来た。

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