136話 最後の日
「はぁ〜、やっぱり最後のパーティーは豪華だなぁ〜」
俺は部屋の中を見て、そう呟く。中には豪華な食事に、音楽隊、この国の歌姫と呼ばる人たちの生演奏などが行われている。その中で貴族たちは歌を聴きながら話をしたり、食事をしたりしている。
なぜこんなパーティーが行われているかというと、今日が俺たちがこの国に居られる最後の日だからだ。明日の午前には王都を出発する手はずとなっている。
そのため、数日ズレてしまったが、トルネス国王が毎年行われる最終日のパーティーを開いてくれたのだ。
このパーティーは立食式のダンスパーティーのため、俺たちもいつもの制服ではなく、仕立ててもらった礼服を着ている。
隣のガウェインも当然着ている。根っからの貴族だからか何気に着こなしているのが腹が立つ。俺は着せられているって感じだからな。礼服は苦手だ。
そして、このパーティーも当然、最初の歓迎会と同じ様にチーム全員が揃わないと中へは入らない。だから俺とガウェインは外で待っているのだが
「……物凄く見られるな」
「……確かに」
俺とガウェインの前を通っていく貴族の人たちがチラチラと俺たちを見てくるのだ。俺の髪色を見ているわけでは無さそうだが、何なのだろうか? そう思っていたら
「待たせたな」
と、ティリシアの声が背後からした。俺とガウェインか振り向くとそこには、綺麗なドレスを着て化粧をした、普段では見られないほど綺麗なチームメンバーが立っていた。
水色のロングドレスを来たティリシア。黄色でスカート丈が膝ぐらいの短さでフリフリがついたドレスを着るクララ。そして、ヴィクトリアは肩を出して胸を強調しているエメラルドグリーンのドレスを着ていた。
「おおっ、馬子にも衣装って感じだな、クララ」
「むっかぁっ! ぶっ飛ばしてやるから顔貸しなさいガウェイン!」
「全くあいつらは……2人とも物凄く似合っているな。とても綺麗だぞ」
俺は走り回るガウェインたちを横目にティリシアとヴィクトリアに正直な感想を述べる。現に既に部屋の中にいる貴族の令息などはヴィクトリアに釘付けだ。
「ふふ、レディウスに褒められると嬉しいですね。レディウス、エスコートしていただいてもよろしいですか?」
「私も頼むよ」
2人はそう言いながら俺の腕に自分の腕を回して着た。ヴィクトリアは右側、ティリシアは左側に……周りの男たちの視線が痛い。いつの間にか戻って来たガウェインとクララはニヤニヤとしているし。
それからみんなで会場に向かうと
「ガウェイン様ぁっ!」
と、1人の女性がガウェインへ突撃していった。言わずと知れたシャルンだ。ガウェインの腹へモロに突っ込んだシャルンはピンピンとしながら抱き着いており、ガウェインは腹を押さえて悶えている。
「て、てめぇ! もう少し貴族として慎みを持てって言っているだろ! それに周りの目があるのに引っ付くなよ! 女性が寄ってこないだろうが!」
「何を言うのです! ガウェイン様の目の前には私という女性がいるでは無いですか! 私以外の女性は見ないで下さいまし!」
ガウェインとシャルンがギャーギャーと喚いていると、他のメンバーもやって来た。ただ、アルフレッドだけは女性に囲まれている。ビーンズは何故か男に囲まれていた。
「明日でお別れとは寂しいな」
「はは、ロンドルたちのおかげでこの3週間は楽しかったぞ」
俺とロンドルは握手をする。そこにロンドルの後ろからメイリーンがすっ、と出て来た。クララのドレスに似たピンクのドレスを着ている。
「待ってて、レディウス。来年行くから」
メイリーンはそれだけ言って会場から出てしまった。来年行くってどういう事だろうか。聞く暇もなかったな。そして右腕が痛い。ガッチリと握り過ぎだヴィクトリア。メシメシいってるよ。
俺はヴィクトリアにバレないように右腕だけに魔闘拳をして、痛みを我慢していると、会場にラッパの音が鳴り響く。そして扉が開かれ、トルネス国王とアルバスト国王が並ぶように入ってくる。
後ろには腕を組んだレグナント王太子とフローゼ様、フローゼ様の右手にはフロイスト王子が、レグナント王太子の左手にはベアトリーチェ様が手を繋いでいる。俺の姿に気が付いたベアトリーチェ様は手を俺に振ってくれた。可愛らしい。
「今日は、隣国の友人であるアルバスト国王たちがこの国にいる最後の日だ。ぜひ楽しんでいってもらいたい。せっかくの日なので堅苦しい挨拶は無しだ。乾杯!」
トルネス国王がグラスを掲げると、みんなが一斉にグラスをあげる。酒自体あまり得意では無いが、もらったワインは飲もう。
それから、みんなで立食しながら楽しく話をしていると、音楽が変わる。それと同時に会場の真ん中に男女のペアがそれぞれ出てくる。さらに真ん中にはレグナント王太子とフローゼ様が立っていた。
音楽が鳴り出すと、それぞれが踊り出す。そういえばダンスパーティーなのを忘れていたな。俺は料理を食べながら隣を見ると、ヴィクトリアが俺をチラチラと見ていた……あまりダンスは得意では無いが。
食器机の上に置いて、俺は片膝をつき手を掲げる。
「一曲どうですか、お嬢様」
俺がそうすると、ヴィクトリアは花が開いたように喜んでくれて、俺の手を取ってくれた。ヴィクトリアは貴族だけあってとても上手だ。本来であれば俺がエスコートしなければならないが、ダンスはヴィクトリアに何度も助けられた。
その後はクララと踊ったり、ティリシアと踊ったり、メイリーンと踊ったり、何度もシャルンと踊らされるガウェインを助けたり、ベアトリーチェ様と踊ったりして、パーティーは終わってしまった。
パーティーが終わり離宮の俺の部屋に戻ると
「お帰りなさいませ、レディウス様」
「お帰りなさい、主人様」
中から2人の女性が現れる。1人は俺の奴隷兼侍女となったヘレナ。2人目は俺の奴隷兼護衛となったミネルバだ。
トルネス国王と話をした日に、早速奴隷契約をしてくれたのだ。その後、目が覚めたミネルバに事の経緯を説明すると、涙を流して感謝された。それから俺と同じ部屋で寝泊まりしている。
ヴィクトリアが物凄く必死に食い止めようとしていたけど、2人は俺の奴隷だ。俺の部屋で住むのは当たり前だと言えば、ヴィクトリアも渋々諦めてくれた。別にいかがわしい事をしているわけじゃ無いからな。
それから2人の呼び方については呼び捨てにしている。俺は2人の主人だからな。逆に奴隷にさん付けする方がおかしいらしいし。
「2人は国を離れられる準備は出来た? もしかしたらもうこっちには戻ってこられないよ?」
「私は大丈夫です。奴隷の時期が長かったので、そんなに荷物もありませんし」
「私もです。ほとんどの物はマンネリーのところで無くなりましたし。ただ、槍が無いのが寂しいです」
ヘレナは普通だけど、ミネルバば槍が無くて本当に悲しそうだ。これは帰り道に寄る事になっているダンゲンさんのところで調達しようか。
「明日も朝が早いから今日はもう休もう。ミネルバの槍は途中俺が寄る武器屋で探してみよう。絶対に良い物が見つかるから」
俺がそう言うとミネルバは物凄く嬉しそうな顔をする。俺の護衛をしてくれるのだ。良い武器を持たせてあげたい。そんな事を思いながら俺は眠りにつく
……明日はこの国を出るのか。色々とあったが中々濃い日々だった。最後にベアトリーチェ様にあれを渡しておこう。




